学食にて
午前中の授業をこなして、昼飯の時間になった。アウルは新しい授業が始まると聞いて気持ちが高ぶっているみたいだから、学食に行く件は忘れてて欲しいと期待した。
だが、その期待は別のやつから裏切られることとなる。
後ろにいるシャウラだ。
律儀にリウトくん、リウトくん……と呼んで俺は聞こえない振りをしようとしたけど、
「学食」
の単語だけ発すると、斜め前にいたアウルがそれに気づいた。
詠唱なしの魔法みたいに人を振り向かせる力はまるで、引力の――地魔法みたいだった。
「わっすれてたー!」
陽気なアウルは俺の肩をポンポンと叩く。
あーあ、気づかれてしまった。
「俺やっぱ、パンでも買うよ」
「先生から聞いたけど、明日の授業、グループ分けするみたい」
「なんとなく、そうだと思ってた」
「四人で一組らしいから、食べながらあと一人決めないとね」
は???? 何の話?
「あと一人って」
「もちろん、三人は私とシャウラとリウトだよっ。だから残りのメンバー学食で話そうって」
なんていう自己中心的な強引さ。
「悪いけど、俺他のやつと組むから」
「え? ちょっともう決まってるんだから」
どこからその自信がわいてくるんだろう。
俺は初等科から一緒のやつに声をかけた。こういうのは男同士が一番いいだろう?
だが、その期待も打ち砕かれた。
というか、平和な高校ライフが暗くなりそうな言葉を吐かれた。
「なあ、明日のグループどうする?」
「まあ、ぼちぼち人数決まってるよ」
「俺も入れて欲しいんだけど」
「……いいけど、俺たちそんな仲良かったっけ?」
机に座っている後ろのやつがくすくす笑っている。
少し血の気が引いていくのを感じながら、俺はハハ……と苦笑いするしかなかった。
それを見ていたアウルが、
「はあ? 友達だったじゃん」
一応庇ってくれた。だが、そこは過去形じゃなくて進行形にしてくれ。
「だって、こいつお前らとばっかいるしな。おかま?」
馴染みの友達がいつの間にか男子のリーダー格になっていて、俺とは違うタイプの取り巻きを引き連れるようになっていた。
じゃあ、他のグループはというと……地味に決まりつつあって、俺は結局アウラ率いるグループに入ることとなった。
やっぱりこの二人と絡んでてろくなことなかったな……。
だけど、アウルから聞かなきゃグループのことも知らなかったなんて、俺は人望がないのかもしれない。などと大袈裟に悲観してみる。
***
うちの学校の学食はビュッフェスタイルで、中等科と高等科の生徒たちがそこを使える。
大きな広間はレストランさながらで、天井が吹き抜けの空間でとても居心地がいい。
俺は腹が空きすぎていて、皿に肉を多めに盛った。アウルとシャウラは仲良く同じものを少しずつという感じで盛りつけていった。
「ここの席にしよっ」
決めるのはいつもアウルだ。
俺は向かい合わせに、シャウラはアウルの隣に座った。
「それで、残りのメンバーなんだけど……あの話いいや」
「はぁ? 四人じゃなかったのか?」
「うちのクラス三十一人じゃん。七グループできたら残りは三人のとこができるし、仕方ないない」
「……」
シャウラは静かに俺とアウルのやりとりを聞いている。こういうときに少しくらい出張ってもいいんだけどな。
「三人って他のとこに比べて不利だろ? まだどこにも入ってない人探そう」
「リウトさー、この授業の目的わかってる?」
声は朗らかだが言っていることが強烈過ぎた。
「いかに魔窟の奥まで行って収穫を得るかだよ。足手まといはいらない。私とシャウラの魔力は上位の方だし、リウトは後方支援、つまり回復お願いね?」
あ、はい…………じゃねぇし!
俺が前線で戦う女子の回復役になれと?
恥ずかしすぎる、こんな屈辱はない。俺の魔力は平均値だが、プライドってものはある。
「……一応俺も魔物に出くわしたら戦うよ」
「危なかったらすぐに下がってねん」
次から次へと言葉をぶつけてくる女だ。
……まあ、我慢しよう。
俺は今日の帰り道で、別クラスの友達に散々愚痴を聞いてもらった。