新しい授業
アウルとは一学年のときからの仲だ。
いい職に就くためには何でもする、という信念に徹していて、その実績を作るためには委員を自ら進んでやることも惜しまない。
生徒の鑑ってやつかもしれない。テストの点もそこそこの運動神経も決して悪くはない、秀才って部類の人間だ。
シャウラと仲良くしてるのもそんな評価のためなら、人としてどうかと思うけど、どうも本気でそいつのことを心配しているらしい。
正直二人で親しくやってくれよって話だ。これで俺たちがいつもの三人組と認定されたらどうしてくれるんだ。
そりゃね、彼女でもない女子と昼飯食べたりしてればね? そっちの気があんじゃねーのって、ちょい疑惑を持たれたりしちゃってね?
いつもつるんでるやつらから距離置かれるのは目に見えてるわけで。
付き合ってるって話をすれば簡単だと思うかもしれない。
しかし、アウルもシャウラも見た目は整った顔立ちをしているが、彼女にしたい?って聞かれれば全力で拒否する。
もっと自然体な普通の子がいい。
***
トントン。担任の教師が入ってきて持っていたプリントを教卓の上で整える。
「おはようございます。朝礼始めますよー」
スラッとした身体つきの女教師は、今日の天候みたいな晴れやかな口調で言った。
「さて、今日は私の長話はなしとして――」
お、今日は退屈な話で俺の眠りを誘うこともなさそうだ。
「重要なお知らせがあります。よーく聞いて下さいね?」
なんだろう? 一部でこそこそと話し声だけ聞こえていたのが、
「このクラスだけ、新しい授業を導入します。研究科で調査をしている魔窟の探索を行います」
それを聞いたクラスのほとんどのやつらがどよめいている。
「えっ、うちらだけ?」
「すげーじゃん、どんなの」
「それ危なくない?」
あちらこちらで、それぞれの反応が見られる。俺だって驚きだ。
「静かにー。二学年に上がったとき最初に試験を実施しましたね? その試験の結果、ここのクラスが学年で一番でした。それで他の授業に差し支えないよう進められると判断されました」
そう女教師は説明を加えた。
この世界には魔力の淀みからできた空間――魔窟がある。その入り口をくぐれば、そこは魔物が溢れかえっているという。
普通は国家の魔導士たちがその淀みを魔術で封じるのだが、研究科の人たちは好奇心旺盛で中の様子を探ってみたいという。
それも、権力に頼らず自分たちの力で解明してやろうと意気込んでいる。しかし実際は技能科にぶん投げ。
そもそもテストの点数だけ計って、俺らの魔力の総数は考えているのだろうか。
俺の席から見えるアウルの顔もどこか誇らしげだ。ちょっと優越に浸ってるような様は何か目論んでるぐらいに、顔がほころんでいる。
アウルにしたら高校生活を謳歌することは、いかにいいアピールポイントを作ることなんだろうな。
自分にはまだそんな具体的に何したいとかわからないが。
「今から授業に使うプリントを配っておきます。さっと目を通しておいて下さい」
そう言って一番前の生徒の机に人数分の用紙を置いていく。順々に後ろに回っていき、俺は振り向いてまだぎこちないシャウラに紙を渡す。
紙には、説明文と地図が書かれていた。学校――現在地と魔窟のポイント地点が少し離れた所に記されている。
ここから北東か。
「この授業は明日から行います。なお、怪我をすることも想定されますので回復魔法の復習はしっかりしておいて下さい」
よし、魔法だけでなく薬草もたくさん持ち込んでいくか。