プロローグ
「ぬぁぁぁぁ!! 俺の卵焼きぃぃぃ」
鮮度抜群の卵を溶いて、薄味甘めに丁寧に焼いた渾身の一品――俺の朝食が何故か妹の弁当箱の中に入っている。
なんてことだ……。
俺としたことが……隙を見せたばかりに。
「ごめーん、少しいいでしょ?」
少しって、お前全部入れてるじゃん。
何勝手に俺の朝ご飯のおかず奪ってるの?
「じゃ、今日早めに行くね! 行ってきまーす」
革製の鞄を背負ってこちらに目もくれないまま登校していった。
おい、コラァ。人を苛立たせたまま行くなっ。話は終わっていない。
「何よ、たかが卵焼きで。それよりもう少し早く起きて家事手伝ってよね。そしたら、リウトの分もちゃんと朝食作るわよー」
と、姉ちゃん。何、この最強タッグ。
もうちょっと優しさ下さい。
ほんと朝は弱い、ダメ。ほら、低血圧なんだ。
「家事ならリノンにやらせろよ……。女なんだし」
「だって、まだ小学生よ? 自分でお弁当作ってるだけでも偉いじゃない」
そう、俺の妹リノンは魔法初等科に通うまだ十一歳。まだちびのくせにませていて、その上周囲の大人からも期待される魔力の持ち主で、成績トップクラスで、しかもそれを鼻にかけないもんだから友達にも恵まれているという、うん。兄としては嬉しい限りだがもっと、兄ちゃんに気を遣って欲しいな?
そして身だしなみを整えるのに余念がない姉リアンは、一応教員をしている。受け持ちは初等科だが、リノンとは違う学校で教壇に立っている。ちょっと抜けているところもあるけど、面倒見が良くて子供たちから慕われているとかなんとか。
俺はというと、リウトっていう魔法高等科の二年生。ほんと平凡な学生で飛び抜けて何か得意分野があるわけでもない。
悲しくなってきたな。
両親については追々説明するとして、俺の家庭はざっとこんなもん。
各々好き勝手やってるけど、どこよりも仲良くて根は家族思いだと信じてる。