分かれ道 その6
カミールが王宮に呼び出された翌日。
「そろそろ戻ってくるところですぞ」
ハーデルが宰相に声を掛けた。
「逆賊を捕らえる。まさに『正義は我らにあり』だな」
その言葉を聴き、宰相は計画が上手くいっていることに対して喜びの色を隠せないでいる。
宰相の様子を見ていたら、ハーデル自身も興奮を抑えられないでいることに気が付いた。
何せ自分たちの対抗勢力はすべて失脚させることができたのだ。
最終決定権は王様にあったとしても、政を実権を握っているのは宰相。つまり、対抗勢力がいなければ仮に何をやったとしても反対されることがなく、事件をもみ消すことも容易くできる状況を作り上げることに成功した。そう確信している。
そんな浮かれ気分の彼らは、現在離宮の一室にて宰相とハーデルはある報告を待っていた。
その報告とは――。
「し、失礼いたします!」
「こらっ! ノックもせずに無礼な」
ドアを急いで開けた激しい音を立てて、離宮を警護しているはずのハーデルの兵士が入ってきた。
ここは離宮の中でも、高い身分の者でないと入ることが許されない部屋である。たとえ、離宮を警護しているものであっても、許可を出せるものの指示なしでは入れないようになっている。
通常では。
「まぁまぁ、君もそんなに怒るな。例の知らせではないのか?」
宰相はハーデルの左肩を右手で押さえて、彼をなだめた。
「はぁ、あなた様がそう仰るのでしたら。そうなのか?」
ハーデルは入ってきた兵士に詰め寄り、吉報を催促した――が。
「じ、実は……現在、この離宮が王家直属の親衛隊たちに囲まれております!」
「「なんじゃと!」」
予期せぬ事態に狼狽した様子の宰相とハーデルは急ぎ離宮の外に出てみると、先ほどの兵士が言ったように周囲を正真正銘の王家直属の親衛隊たちに包囲されていた。
親衛隊は皆重装備をしているが、一人だけ異なる格好をして馬に乗っていた。
その男は背が高く、髪は黄金色で、若く凛々しい顔をした美男子。
他の隊員に比べて軽装備だが、纏っている雰囲気から高貴な存在だと誰もが感じるだろう。
「私はナタル王国親衛隊長のラグニールである。ビビト宰相およびハーデル伯爵。両名を不正取締罪および他国を巻き込んだ贈賄収賄罪により、身柄を拘束をさせていただきます」
ラグニールは宰相とハーデルの姿を確認すると馬から華麗に飛び降りて、紙に書かれている罪状を読み上げた。
「なんじゃと!」
「濡れ衣だ! 誰がそんな……ことを」
宰相とハーデルは彼を嵌めたはずが、まさか自分たちが罪に問われようとしていることに冷静さを失った。
そして、反論しようとした矢先に、ラグニールが自らの懐からある装置を取り出した。
装置の名前は<スペクト>と呼ばれており、古代遺産の一つで世界中で発掘されている。
<スペクト>には、光情報として取り込んだ映像を記録・再生する機能がある。形状は球体、大きさは握り拳くらいの小型。色は通常透明だが、記録を保持すると不透明の青で綺麗にキラキラと輝く。記録は丸一日分保持でき、軽量で持ち運びがしやすい。
しかし、そんな一見便利な<スペクト>だが、使える状態のものは世界で十個もないと言われており、その希少性ゆえにたとえ貴族であっても滅多にお目にかかることはできない代物である。もちろん、宰相やハーデルも例外ではない。
少ないのなら量産すればいいという話になるが、それが不可能な理由が二つある。
まず一つ目は、<スペクト>に使われている鉱物が現在のところ発見されていないこと。
二つ目は、もし仮に原料を発見したとしても、何も機械を使わずに映像を記録として保持・再生する技術は今のところ編み出されていないのが現状である。
「お主……どこでそれを!」
<スペクト>を見た瞬間二人ともさらに青褪め、ハーデルはなぜそれをラグニールが所持しているか問い詰めた。が、ラグニールは微笑むだけで何も答えず、取り出したある装置をギュッと右手で握りしめた。
すると、装置から光が出て、空中に長方形の映像を形成していく。
ザザザッ
ザザッ
『やりましたな、宰相殿』
『あぁ、これで王と直接関わりのある人物は全員失脚させることに成功したわい』
昨日の宰相とハーデルとのやりとりが、映像として空中に映し出された。
「そ、そんな」
宰相は地面に両膝と両手をつき、ガックリと項垂れた。
『ウッシシシシ。これで、莫大なお金が我らの元に流れてきますな』
『おいおい、流れてはくるが一応調査は引き続きしてもらわんと困るぞ』
『もちろんです。そのための人員はあのカミールのところで働いていた優秀な調査団を全員召し抱えておりますゆえ』
「まさかあの時に……」
ハーデルは空を仰ぎ見て、呆然と立ち尽くした。
『それならば良かろう。あんな見つかるかどうかわからぬもの、見つからなくてもちゃんと調査をしていれば変な波も立つこともなかろう』
プツンッという音とともに映像は消えて、離宮前は静寂に包まれた。
「これ以上何も言うことはないでしょう。おい、お二人を連行しろ!」
「「はっ!」」
ラグニールの両隣に控えていた親衛隊が威勢よく返事をすると、宰相とハーデルのもとに駆け寄り二人の手首を施錠した。
「ま、まて! あの男はどうなったのだ!」
宰相は手錠されたまま、縋るようにラグニールに詰め寄る。
「あの男?」
無表情で宰相を見つめるラグニール。
「そうだ! カミールこそ国から支援金を不正利用した……疑いが」
宰相と同じく隊長に詰め寄ったハーデルだったが、再びラグニールが自分の懐に手を伸ばして取り出した分厚い冊子を見て絶句した。
「これがなんだかわかりますか? カミール氏の帳簿です。彼の執事から徴収して内容を確認しましたが、不正に使われた形跡は一切ございません。ほとんどが調査に必要な道具や、調査員の給料などの調査費に当てられており、支援金との差額と残っているお金は一致しておりました」
「「なっ!?」」
ラグニールは帳簿を一枚ずつめくりながら、淡々と事実のみを述べていく。
「あなた方はいかがでしょうか?」
「くっ……そんな」
何も言えなくなった宰相は、再びその場で力が抜けたように崩れた。
(くそっ! なんでいつもいつもあいつばかり……)
ハーデルは両手を強く握りしめ、怒りの表情を浮かべた。
「(お二人の様子からすると、どうやら本当のことだったようですね)さぁ、連れていきなさい!」
「「はっ、ただ今」」
親衛隊の二人は宰相とハーデルの腕をそれぞれ強引に持ち上げ、残りの兵士たちを連れて王宮へと向かっていった。
「これで貸しを返したとは思えませんが……むしろ、この国のためになったことを考えると、またあなたに貸しが増えてしまいましたね。いつになったら返せるのやら」
ラグニールは誰もいなくなった離宮前で遠くチャズ砂漠方面を見ながら、自分に言い聞かせるように呟くのだった。
◆
時間は遡り、昨日のお昼前。
ナタル王国で唯一郷土料理を食することのできるお店で、ツエルとリーネはご飯を食べていた。
あまり食事に手を付けないツエルに対して、リーネは次々に運ばれてくる料理をほぼ一人で平らげていく。
「う〜ん、やっぱり有名店だけあってどの料理も美味しいわ♪ ねっ、ツエルさん?」
「……ツエルさん!」
「あ、悪い悪い。ちょっと考え事しててな」
リーネの声でツエルはハッと我に返った。
「これからのことですか? それとも別のこと?」
「……さっきリーネとぶつかった男いただろ?」
「あぁ、先ほどの。ぶつかったのに何も言わずに立ち去るなんて、失礼な方ですわ。あの方が何か?」
結局お店の前でぶつかった後、相手は怒るわけでも謝るわけでもなく、何も言わず立ち去ってしまった。
「あの男……おそらくあいつがカミールだ」
「え〜! あの人がカミ――」
「バカバカ、声が大きいよ! すみません、みなさん」
リーネがカミールの名前を大声で出そうとしたところを、ツエルは慌ててリーネの口で塞ぐことで阻止した。
突然大声を出したので、他の客たちが一斉にツエルたちを見たが、すぐにツエルが謝罪したことで何事もなかったかのように元の姿勢に戻していく。
「ごめんなさい、ツエルさん。つい」
エヘッとベロを出しながら素直に謝るリーネに、ツエルは怒る気も失せた。
「はぁ、まぁこんなのいつものことだからな」
「いつものこと!? そんなに私――」
「じゃあ前にいた町で、お前が突然大声を出して犯人を取り逃したのは?」
「うっ! そ、それは……そう! あのときは捕まえるタイミングじゃあなかったのよ……多分」
リーネは弁明しようとしたが、ツエルにジト〜っと睨まれてシュンっと大人しくなった。
「まぁ、済んだ話はこの際どうでもいい。問題はさっきの奴の雰囲気だ。間違いなく明日動くだろう」
「じゃあいよいよだね、ツエルさん!」
ツエルの台詞を聴き、リーネは待ってましたと言わんばかりに身を乗り出して、目をキラキラと輝かせた。
「あぁ! このミッションも仕上げのときだ」
ツエルはいつもの決め台詞を、活き活きと言い放った。
「……でっ、私はどうすればいいですか?」
席に座りなおしたリーネは、一旦冷静になってツエルに質問した。
「……リーネにはあることを調べてもらいたい。できれば今日中に」
「それは今日中にできることなのですか? ……はいはい、わかりましたよ」
「頼む。お前にしか頼めないことだからな」
リーネはツエルの反応からまた骨の折れる案件だと察したが、ツエルの依頼を受けることにした。
リーネとお店の前で解散したあと、ツエルはこれからの動きについて頭の中でシュミレートする。
まず、リーネへの依頼をまとめると、こうだ。
まず、カミールの屋敷に行き帳簿を押収し、金銭面で不正がないか確認する。
なぜなら、不正の有無でその後の展開が全く変わってしまうからだ。
とはいえ、今回のミッションをクリアする条件が整っているリーネだからこそお願いできる内容であることは確かだ。そもそも、帳簿がどこにあるのかを探している余裕はない。つまり、違和感なく帳簿を見ることができて、金銭も確認するためには堂々とぶつかったほうが良い場合もある。
どんな手段をとるかはリーネ任せだが、あいつなら大丈夫だろう。
次に、カミールのところで働いていた調査員たちを、調査地まで運ぶための移動手段を確保すること。
これは、俺の作戦が成功する前提である。
調査員たちを巻き込むためには、彼らに対してなんらかのアプローチをかける必要があるだろう――。
ツエルはシュミレーションが完了したところで、裏路地に入った。
「さて、いっちょやりますか!」
そして、気合を入れ直したところで異能の力を解放した。
ツエルの異能<同化>は、その名の通り周囲との同化も可能である。
その際に、ツエルは変身してイメージした通りの戦闘服を実装する。服の色は周囲の環境に同化しやすいように、灰色の上着と、茶色ベースの変化に富んだ色調と色合いのローブを実装することが多い。
ゆっくりと裏路地を進んでいくと、ツエルは忽然と姿を消えていった。
同刻、場所は変わってナタル王国郊外にある倉庫――。
ドォ~ンっという大きな音とともに倉庫の鉄の扉が閉まり、カチャという鍵がかかる音がした。
「おい開けろ! おい!」
以前、カミールのところで働いていた男が扉を何度もドンドン叩いたり、引っ張ったりしているが扉はビクともしない。
「ダメだな。あいつらは俺たちを解放する気はないみたいだ」
ラミエルは調査仲間の様子と、現在自分たちが置かれている状況を踏まえて呻くような声を発した。
「親分、あいつらなんで俺らをこんなところに閉じ込めるんでしょうか?」
「そうだよな。調査を進めたいなら、なおのこと調査をさせてくれないと」
「だよな……しかも、手荒な真似をしやがって」
他の男たちが次々に文句を言い始めた。
男たちの服は皆すす汚れていて、中には負傷して動けない男もいる。
なぜ彼らがこのような目にあっているかというと、小一時間前に遡る。
これからハーデルが管理している調査地に五十名が先行して向かおうとしたところ、いきなりハーデルに依頼されたという傭兵たち十名に拉致されそうになった。
ただ調査をするだけなのに従う義理はない、とラミエルは言い返した途端にいきなり腹にパンチを食らわされた。その光景に逆上した他の調査員たちは傭兵たちに襲い掛かるがあっさり返り討ちにあい、成すがままに見知らぬ倉庫に連行されてきたのである。
「そういえば、知ってるか? カミールさんが王様に召集されたっていう話を」
「あぁ、街中でチラホラとそんな噂が広がってるよな。何かある前に辞めておいてよかったぜ」
実際少なくとも同業者にはその噂は完全に伝わっていて、もし何か少しでも進展があったら街中に広がるのは間違いない。
「けどよ……本当にカミールさんが不正をすると思うか?」
「それは……そうだよな」
男たちをそれぞれ顔を合わせたが、誰もが納得いっていない顔をしている。
「だってよ、あの人は俺たち以外の人との交流はほとんどせず、発掘調査一筋な方だぜ? それが原因で奥様とも離縁されたほどなのに」
「確かにな。私欲とはとことん無縁の方だよな……」
「じゃあ、なんで今回のような話になってるんだ?」
考えれば考えるほど腑に落ちない話だと、彼らは感じている。
「まさか、ハーデル様と何か揉めたとか!?」
「……いや。むしろ、カミールの旦那が嵌められている可能性の方が高いかもな」
押し黙っていたラミエルが、今感じていることを話し始めた。
「可笑しいことはいくつかあるが……それよりも、俺たちにとって大事なのはスカル王朝の遺跡を発掘することだ。そうだろう? そのために、旦那を裏切るような形で離れてきたんだからな」
「親方……」
ラミエルはそうは言うもののこの場にいる誰よりも納得していなかった。なぜなら、ラミエルはカミールの執事とも仲が良く、金銭面の話はよく彼から聴いていたからだ。
それに、カミールの家に代々伝わってきたスカル王朝に関する調査資料がなくなった時期と、調査員の一人が一か月前に辞めたタイミングが近かった。
(よくよく考えたら、もし泥棒に盗まれたのだったらこんな早い展開にはならんだろう。調査資料の件にハーデル様が絡んでいるとしたら……いや、まてよ。そういえば、ハーデル様はザネスの森での調査は初めてにしては、やけにお詳しそうだったよな……。まさか――)
ラミエルの思考の中で、ある結論に達しそうになったまさにそのとき、キィ~っという音を立てて扉がゆっくりと少しだけ開いていった。
男たちはサッと身構えたが何も起こらなかった。
不信に思ったラミエルが警戒しながら扉に近づき、そ~っと外の様子を見てみた。
「親方……どうですか、外の様子は?」
何も言葉を発さないラミエルの様子が気になり、調査員の一人がラミエルに確認をした。
「……倉庫の外には、俺たちを連行した傭兵たちが全員倒れてるぞ」
「「なんだって!?」」
ラミエルの一言に驚いた男たちは急ぎラミエルのもとに駆け寄ってみると、確かに全員倒れていて起きる気配がない。
「こいつら気絶しているだけですぜい!」
「本当だ。こんな手練れな奴らは一体誰が……ん? これは何だ?」
倒れている男のすぐそばに、一枚の紙が置かれていたのをラミエルは発見し、手に取った。
「なんですか、それは?」
「何かの地図ですか?」
男たちは周囲を警戒しながらラミエルに近付いてみると、ラミエルは驚愕な顔をして紙に描かれている内容を凝視している。
紙にはナタル王国一体の略地図が手書きできれいに描かれていて、チャズ砂漠の中心部を垂直に交わる二本の対角線が引かれている。
そして、ちょうど交わったところには数字で座標が書かれいる。彼はその数値を何度も確認し、あることを思い立った。
「……あぁ。これが本当だとすると、カミールの旦那に最高の手土産になるぞ。よし、今から王都に急ぎ戻り、旦那の屋敷に行くぞ!」
「「「おぅ!」」」
勢いよく声を上げたラミエルの後に続き、男たちは王都に戻ることになった。
「なに!? 旦那が調査に行ったって? それは本当か?」
「はい、ラミエル殿。今朝方ワコル殿と二人で――ラミエル殿!」
ラミエルはカミールの執事の制止を振り切って、屋敷の外に出てきた。
「親方、カミールさんは?」
「……すでにいなかった。街中で広まっている噂が本当だとしたら……一刻も早くチャズ砂漠に向かうぞ!」
ラミエルたちは監禁されていた倉庫からカミールの屋敷に向かう途中に、王国の親衛隊が街中を歩いているのを目撃したり、カミールが捕まえられるという噂をわざわざ教えてくれる人たちと遭遇したりしたのだ。
噂がデマだとしても、王国の親衛隊が動くのは非常事態だということは間違いない。
「向かうぞって、一体どうやって向かうんですか? どんなに急いでも足ですと一日以上はかかる距離ですよ!」
「そんなのわかってる! けどな――」
「お困りのようですね」
「「!?」」
突然後ろから声を掛けられ、ラミエルたちは振り向いてみると、そこにはターバンで髪の毛を包んで異国の民族衣装を着こなしている女が悠然と立っていた。
「失礼ながら話している内容が聞こえてしまいまして。チャズ砂漠への移動手段が必要だと?」
「ああ、そうだ」
「お、親分! もしこいつがハーデル様の手先だとしたら――」
その一言を合図にしたかのように、男たちは女を取り囲み警戒した。
「やめろ、お前たち! あんたが連れていってくれるのか?」
仲間たちを制して、ラミエルは女に問いかけた。
「えぇ。あなたたちを助けるようにある人に頼まれてね」
「それは誰だよ? ハーデル様か?」
食いかかるように男が質問した。
「依頼者との約束で誰かは答えられないわ。それに、今のあなたたちにとってそのことは重要かしら?」
「……確かに、な。いくら払えばいい?」
「あなたは話が早くて助かるわ。代金の方は依頼者からすでに頂いているの。だから、あなたたちが仮にこの話に乗らなくても、私には何も支障がないの」
女はお金がたくさん入った袋をラミエルたちに見せつけるように出した。
「わかった、あんたに従う。それで、乗り物はどこにあるんだ?」
「それはね――」
女はお金をしまって、ラミエルたちを案内することにした。
彼らに見えないところで不敵に微笑みながら。
あの後、女はラミエルたちを大型の乗り物でチャズ砂漠中央部にあるカミールの調査地まで運び、彼らが無事にカミールと合流できて調査を開始したのを確認した。
調査地からは明らかに肉眼で認識できないくらい離れた距離から。
「上手くいったな、リーネ」
ツエルはホバーウインドウから降りて、先に降りてラミエルたちをここまで運んだ張本人であるリーネに話しかけた。
遠隔地の状況を頭の中で映像として認識できる。
リーネの異能《天地》の力があってこその芸当である。
「えぇ」
リーネはターバンを取って、 首を左右に振って白縹色の綺麗な髪の毛をなびかせた。
ツエルはカミールたちの感動の再会のどさくさに紛れてリーネを拾い、現在二人は調査地から遠く離れた地点まで移動してきたのである。
「"裂け目"の消失も確認できました。遺跡の正確な座標を知らせましたし、調査人員も補強しました。これでもう彼は大丈夫でしょう」
「そうか……カミールに対する濡れ衣の件も解決しそうだしな。よし、じゃあ暑苦しいところともおさらばだ。リーネ、今回もありがとな」
ツエルはリーネの横に並び、彼女の方を抜いて感謝の言葉を伝えた。
「どういたしまして、ツエルさん」
とびっきりの笑顔でリーネは応えてた。
そして、二人は今回の達成感にしばらくその場で浸るのだった。
まもなくして、カミールたちは幻の遺跡と呼ばれたスカル王朝の遺跡を発掘。
それに対して、カミールを陥れようとしたハーデルや宰相は次々に不正が見つかり、終身刑を言い渡される。
カミールの身に今回起きた出来事や街中に広まった噂も相成って、カミールは一躍時の人となる。
そして、一度は諦めた調査地点からたったの3キュビット先に遺跡があったことから、世間からは『3キュビットの奇蹟』といつしか呼ばれるようになるのだった。




