4話 ノエル死す(タイトルからネタバレ!?)
練習を始めて一週間。魔力制御は完璧になった。
人間界でも魔界と同等の力を発揮できるようになったので、お姉ちゃんとリエルに頼んで最下層にたどり着いたものはいない。もしくはたどり着いても生きて帰ったものはいないという万死の洞窟に向かった。
これは個人的に行きたかっただけなので、フィーリスやフィリアは付いてきてはいない。
二人は家で二人っきりだ(意味深)。
「マスター、巨大な魔力反応を感知しました」
洞窟の中でリエルが言った。
「う~ん、気配は感じ取れないけどリエルが言うならそうなんだろうね」
「いくら力が出せるようになったからって油断だけはしちゃだめだよ」
「わかってるって」
少し進むと、「ガルルルルゥ」と魔獣の鳴き声が聞こえて来た。
「洞窟に入って十分もたっていないのにこんな魔獣が出るとは……マスター、一応背後にも注意してください。嫌な予感がします」
「わかった。お姉ちゃん、いつも通りよろしくね」
「任せて」
お姉ちゃんに少し魔力を込めると魔法陣が展開して、その魔法陣が私の中に入った。
風読みの加護。
風の動きから敵の位置を把握したりある程度の地形を把握できるという加護だ。これがあれば狩りも少しは楽になる。
「……右」
いきなり斬って魔獣じゃなかったら嫌なので、まずは避けた。
「ガルルル」
「魔獣です」
「魔獣だね」
薄暗くて姿はよく見えないが、風黄泉の加護で大体の位置は把握している。
ここは目を瞑ったほうが戦いやすい。
「そこっ!」
左手のリエルで薙ぎ払うと、「クゥン」と魔獣の可愛い鳴き声が聞こえ、それと同時に魔力が散った。
「まずは一体だね……?」
風読みの加護のおかげで、いや――風読みの加護のせいで謎の恐怖感が私を襲った。
岩が落ちたような音とともに、風の流れがなくなった。
空気の振動を読むことが出来るので問題はないが、別の問題をすぐに見つけてしまった。
「こ、これは……」
近くにはいない。それなのに意識を研ぎ澄まさなくても感じ取れるくらいの殺意。これは魔獣の物とはまた違う、人が意図的に攻撃を仕掛けてくるときと同じ気配だ。
寒気がした。
いくら私でもこの量相手に勝てる自信はない。
「……」
足が震えて動かない。そんな事にはならなかったのだが、恐怖からか声が出ない。
魔王になる前これと同じくらいの量を同時に相手したことがあるが、その時とは全く違う。
「斬り裂け閃光の刃」
「風よ」
ギリギリのところで刃を撃ち落としたが、その後ろにもう一つ隠れていた。
「うぐっ」
その刃は私「の腹を貫通した。
「……がはっ」
剣を地面に突き立てて辛うじて立っていられたが、いきなりこんな傷を負ってはまともに戦えない。
「貫け紅魔の矢」
「マスター‼」
さすがにこの数はよけきれなかった。
数百本の矢が私の身体を貫き、あたりは血塗れになった。
私はもう死ぬんだ。
短い人生だった。けどまあ楽しかった。
「短い人生だったけど楽しかったなんて考えてるんでしょ? でもノエルちゃんはこの程度じゃ死なないから」
「おねえ、ちゃん?」
「そうです。マスターはこの程度では死にません」
「……で、でも……」
「聖剣と魔剣の力を舐めてもらっては困ります」
「そうそう。伝説級の日本の剣の力はこの程度じゃないんだから」
二人が何を言っているのかよくわからなかった。だが、それはすぐに理解できることだった。
「傷が消えていく?」
「ついでに血も元の量に戻りますのでご安心を」
無残な姿だった私の身体はみるみる元通りになっていった。
さすがに服までは修復できなかったが、身体は元通りだ。
痛みもないし、動かせないということもない。
「はは、はははっ……こんなの、負けるわけないじゃん」
どれだけダメージを受けても回復する。痛いのは嫌だけど勝てるならそれはそれでいい。
さすがに傷を気にせず戦うなんてことは出来ないし極力攻撃は避ける。
「これ私一人に何人いても勝てるじゃん」
「マスター、一人ではないですよ」
「私たちがいるんだから」
「そうだね。三人……だね」
三人であっているのかはわからないがそういうことにしておこう。
「さぁ、殺っちゃおうか」
「そうだね」
「賛成です」
私は魔獣の大群目掛けて突っ込んでいった。
明らかに人が詠唱したような声が聞こえていたが、今ならそれも怖くない。人も魔獣も同じ的としてみれば私としては何ら変わりはない。それならただ――
「斬り伏せるだけ」
魔獣が一斉にとびかかってきた。
確実に私に当たる魔獣だけ斬り落として、他は無視した。
一度に斬る数を減らせばそれだけ楽になる。時間はかかるがこの方が安全で確実だ。
「クソッ、これが魔王の力だというのか……」
正確には剣二人の力だけど――
「そうだよ」
なぜ私が魔王ということを知っているかは置いておいて、まずは一人。
魔獣はまだまだいるが、今なら勝てる。
「烈風装・斬」
剣に風の刃を纏わせ、それを魔獣の群れ目掛けて飛ばす。
予想以上に切れ味がよく、風の刃は一気に十匹以上を斬った。
「クソッ! 神を喰らう魔狼よ 汝、我を認めんとするならばここに顕現せよ! サモン・アークフェンリル」
「あれは偽物です。ですが力は本物と同等のようです」
アークフェンリルの魔力で大体の強さを測り、リエルが教えてくれた。
本物の力を知らないから何とも言えないが、詠唱を聞く限りは相当強そうだ。
「危なくなったら防ぐからノエルちゃんは自分の戦闘にだけ集中して。リエルちゃんも防御するのは手伝ってね」
「わかりました」
とはいえ全く防がなくてもいいというわけではなさそうだ。
アークフェンリルを中心に地面が凍っていき、息を吐くたびに洞窟の温度が下がっていく。
「死ぬ前に――斬る!」