1話 8年後
二本の剣と契約して八年がたった。
私は十五歳でそこそこ成長した。が、残念ながら胸はあまり育たなかった。それに対してヴィーシェとリエル(光を喰らう暴食の魔剣)は全く姿が変わっていない。
一三年の間私は魔王としての仕事は式典や儀式、その他のイベントだけに出て、それ以外は全くやっていない。その分双剣をちゃんと扱えるようにひたすら練習していた。そのためにダンジョンに潜ったり森で魔獣討伐をしたりしていた。その甲斐あって双剣術も使えるようになったし、ダンジョンや魔獣討伐で手に入れたアイテムを売って相当長く稼いだ。だが、魔力制御はいまだに出来てはいない。
ともあれ双剣が使えるようになったのは大きい。
そして、思ってしまった。
「お姉ちゃん、ギルド立ててみたい」
そう、私はほんの出来心で、ギルドを立てようとしていた。
「わかった。もちろんお金はあるよね?」
「問題ない」
ギルド設立のため、家から離れたギルドホールへ向かって行った。
「と、遠い……」
かれこれ一時間は歩いた気がするが、いまだにギルドホールにつかない。
「マスター、私を使ってください」
「というと?」
「私はマスターの魔力で動いています。マスターの魔力制御のサポートならお任せください」
「ってことは飛べるようになるの?」
「はい、マスター。ただし剣の状態でないと出来ません」
「じゃ、よろしくね」
リエルが剣の姿になると、その魔力の一部が流れ込んできた。
それと同時に羽を出すことが出来た。
これは私の魔力制御をリエルがサポートするというより、私は羽を動かすだけで魔力制御はすべてリエルがやってくれている。
「ノエルちゃんもはやく魔力制御できるようにならないと」
「魔界でならできるもん!」
「魔界でできてもこっちで出来ないと意味がないの」
確かに魔界に戻ることは数年に一度しかないけど……。
リエルに魔力制御を任せていたらそっちに魔力を使って本来の力が発揮できない。
まあ魔法使いか魔導士に会ったら教えてもらおう。
飛ぶと案外早く着いた。
ギルドを立てるのには金が掛かったが、大した額ではなかった。
「ギルド名はどうなさいます?」
金を払うと、まずギルド名を聞かれた。
ギルド名なんて考えてきていない。今から考えてもいいものが思い浮かぶ気もしない。
神話や花の名前からとっているギルドはよく聞くが、そういうことに関しての知識が全くない。
ただ一つ知っているとすれば――
「ブリュンヒルド」
これくらいしか思い浮かばなかった。
戦の女神からとったものだが、正直戦うよりもただ遊ぶことをメインにしたギルドにしたい。
「これでいいですか?」
まあ、いいや。
「はい」
「現時点で加入するメンバーは後ろの方たちでよろしいですか?」
「あ、いや……」
はたして聖剣と魔剣はギルドメンバーに入るのか?
「私は聖剣だから」
「私も魔剣なので」
私が聞こうとしていたら、二人が先に言った。
二人の言ったことを聞くと、驚いた顔で「ほ、本当ですか?」と聞いてきた。信用されていないようだ。
「あの、剣ってメンバーに入りますか?」
二人が自分が聖剣、魔剣だと言った後に聞いてみた。
こういうケースは少ないらしく、受付嬢は確認しに行った。
少し待つと、戸惑った表情で戻ってきて「一応、メンバーに入るということで」と言った。まだよくわかってないみたいだ。
「で、では、最後です。ギルドメンバーの募集はどうなさいますか?」
「条件なしの完全自由で」
「かしこまりました」
受付嬢がもう一度裏に行って、少しして戻ってくると「ギルド設立の手続きはこれで終わりです」と言った。