3話 魔剣幼女と契約してみた
儀式の内容は簡単。私が魔剣と契約するだけだ。
私はお姉ちゃんと魔界の魔王城へ向かった。
久々の魔界で、道がよくわからない。
久々に魔王が出てきて知らない女と手をつないで歩いている。街の悪魔たちは何が起こっているのかわからない様子で私たちのほうを見ている。
「さっきから同じところをぐるぐる回ってる気がするけどこの道であってるの?」
「た、たぶん?」
「それなら飛んだら速いんじゃない?」
「そっか! その手があったね」
ここは魔界だし魔力も昔のように使えるし、羽も出せる。これなら迷わずに行ける……はずだ。
飛ぶのはたぶん三年ぶりで、最初はバランスがとれなかったが、お姉ちゃんが風の魔法でサポートしてくれて何とか飛べた。
高く飛ぶと魔王城はすぐに見つかって、そこへ向かって一直線に飛んでいった。
時間がなさそうだったので、魔力を使って数十倍の速度で飛んだ。
「ふぅ、ついた」
「の、ノエルちゃん……飛ぶの速いね」
「こっちでなら最強だからね」
それだけは自信がある。剣術も魔術もこの世界ではトップだ。
「来てくれましたか、魔王様」
「いろいろあったからね」
「では、これを」
メフィストは私に鎧を渡した。
受け取ってみると、とても軽くなっていた。それに、前のような暑苦しさも――
「さすがに露出しすぎな気が……」
私より先にお姉ちゃんがツッコんだ。
これはなんというか、痴女だ。ここに来た以上着るしかないが、どうしてもためらってしまう。幼女にこんな鎧を着させるなんて……。
とは思ったが、来てみると案外悪くなかった。
「結構似合うんじゃない?」
「ええ、似合っていますよ」
「え、そう?」
露出は高いが確かに悪くはない。ただ、全然発育していない私でもそこはかとなくエロく感じてしまう。自分でも。
「三十分後に儀式を開始しますので、準備しておいてください」
「準備って言われても……」
「魔剣との契約は魔力以上に体力を消費しますからね。万全な状態でお願いします」
少なくともヴィーシェと契約するときは体力を全く使わなかった。魔力もほとんど使ってないし、違和感も何もなかった。
「聖剣と魔剣だと仕組みが違うからね。魔剣は魔力消費量が聖剣の何十倍もあるから」
初めて知った。これはいいことを知った。
最近寝不足気味で少し疲れていたので仮眠をとった。
「ノエルちゃん、そろそろだよ」
「んぅ?あと五分……」
「残念ながらあと二分で始まるから早くしてね」
「おんぶ」
「はいはい」
寝ぼけた私をおぶって約束の場所まで行った。
「来ましたか、魔王様」
「その、起こしてあげて?」
「平常運転ですね。安心しました」
メフィストが指に魔力を込めて私の額に手を近づけ、
「いてっ」
デコピンをした。
「それで起こすのやめてって言ったじゃん!」
「定番じゃないですか」
昔から私を起こすのは決まってデコピンだった。それを久々にくらった。いつも思っていたがこれは痛い。
「では、行きましょうか」
儀式が始まる前に余興があった。
それはただ玉座に座って見ているだけで、私は特に何もしていない。開始十分で飽きてお姉ちゃんと遊んだ。
そしてメインの契約の儀。
「魔王様」
「え、うん」
メフィストが私に魔剣を差し出した。
剣の柄を持つと自然と契約詠唱が頭に流れて来た。
―汝、光を切り裂く魔剣なり
その力を以てすべてを制す力を我に与えたまえ
汝の名は
光を喰らう暴食の魔剣―
私の手の甲に展開された魔法陣が黒く光り、魔力が一気に魔剣に流れ込んでいった。
『マスターの登録を確認しました。マスター、ノエル・アスタロト』
魔力が流れ込んだと思うと、魔剣が喋った。
「うっ……」
「大丈夫?」
魔力が一気に流れ込んでいったせいか眩暈がする。
「魔王様、あと少しです」
私としてはどうでもいいことではあるけど、みんなの前で倒れたらいろいろと大変らしい。まあ魔王ともあろう者が魔剣と契約するだけで倒れては示しがつかない。
床に剣を突き立てて、何とか立っていられたが、これが無ければ今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
私が魔剣と契約するのを見て何が楽しいのか全く分からないが、観衆たちはなぜか大盛り上がりだった。
無事に儀式は終わり、私は正式に魔王になってしまった。というより今まで仮魔王だったことに驚きだ。
「お疲れ、ノエルちゃん」
「あの魔剣……魔力吸い過ぎ……」
「でもあとは勝手に魔力を作るみたいだし、魔剣に魔力を注ぐことなんてほとんど無いと思うよ」
「そうですマスター。私は一度魔力をもらうとそれ以降は自分で魔力を生成できます」
魔剣の少女は説明してくれた。魔力を生成する魔剣とは便利なものだ。うまく使いこなせたら今以上に強くなれるだろう。
「そういえば……」
今まで双剣を使ったことがない。
聖剣と魔剣を同時に使ったほうが強いのは明らかなのだが、私が双剣を使えないのもまた明らかなことだ。
正直これはどうしようもない。
剣術などを覚えるのは得意だが、数年ぐうたらしていたせいでそういう能力は少し衰えてしまった。
「何年かかるのかなぁ……」
それから十二年、私は剣術の特訓、そして、人間界でも魔界と同等の力を出せるようにひたすら特訓していた。