プロローグ
今日が全ての物語の始まり
秋風が心地よい、今日は王位継承の日で町はお祭り騒ぎだ。
王様といっても特に目立ったことをする訳でもない、唯一やることと言えば勇者を召喚することだけだろう。
王様一人につき1人だけ勇者を召喚できるらしい、僕らこの世界に生きる全ての生命は少なからず魔力をもっている。
だが王の召喚する勇者は魔力を持たないらしい、異世界から来たらしくこの世界のルールは全く適応されないとかなんとか…
勇者に与えられる義務と権利は、魔物討伐・自国の防衛の義務と、聖剣等の貴重な武具を使う権利だそうだ、なんでもその武具は勇者しか使えないのだとか…。
僕は医者であり学者だから勇者については詳しくは知らない、専門は医学と薬学で、医者としてはこの国ではそこそこ有名だと自負している。
僕は一般の人よりは魔力が多い方で戦闘向きだと色んな人に言われるが、殺生は好きじゃない、なにより僕の仕事は生命を救けることだから。
「よぉクレハ!」
いきなり僕を呼ぶ声が聞こえた、もう声だけで誰だかわかる、この声はジークだ。
彼は僕の親友である、でももう兄弟のような仲だ。
「おーおはようジーク、今日は賑やかだな」
「あぁ、まぁ人生で数回しか経験できない王の代替わりだからな」
「まあな、ところでさ、今回の勇者はどんな奴だろうな」
「気になるな、わかったら教えてやるよ」
ジークは王様の周りのことにはとても詳しい、なぜなら彼は王様の直属の騎士だからだ。
こんな大事なときに王様から離れてもいいのか心配になるが、どうやらあまり問題はないらしい。
「ありがとう、よろしくな!」
「あぁ、任せろ、じゃあ俺はそろそろ行くよ、また後でな!」
「おう、じゃ!」
僕はジークと別れて露店を1人で見て回ることにする。
僕の友はみんな忙しそうだし、親は他の国で暮らしてる、兄弟はいないし、もちろん恋人も……。
はぁ、なんか寂しい
最後に恋をしたのは20才くらいの時だ、ちょうど中等学校を卒業するときに好きな女の子と離れ離れになってしまった。
その頃は想いを告げておけば良かったとものすごく後悔した、今でもたまにするのだが…
32才になったがあの時から一度もその子のことを見ていない、他の国へ行ってしまったのか、あるいは…
と、そこまで考えてやめた 僕はその子の幸せを願うだけだ。
とまぁそんな訳でここ10年くらいは恋というものをしていない。
成人して7年経つが、やはり独身は辛い、気楽でいいともいうが僕はどちらかというとバタバタ忙しい毎日を送りたい。
もちろん研究や仕事などでは忙しいが…なんかちがう、心はいつでも落ち着いてしまっている。
心の底からわくわくできるようななにか刺激が足りないのだ。
こんな平凡な日常にも冒険はあっていいはずなのに…
だがこの日からクレハの人生が忙しいものに変わることを彼はまだ知らない…