曇天
*今回は過激なシーンを含みます。注意して閲覧して下さい。
俺は焦る。何故だかはわからない。ただ、落ち着きを取り戻したい一心だった。
「おい中村、パン買ってこいよ」
俺がそう言うと彼は素直に応じる。
中村達との出会いから三週間がたち、お互いに気遣いをしなくても良い関係になっていた。
呼び捨てなんかはもはや当たり前。気遣いをしなくても良い仲。とても過ごしやすい。
「…自分で買ってこいよ」
外野が何やらうるさいな。どうせ素晴らしい仲を持っていない奴らの妬みだろう。可哀想に。
「祐一、また使い走り?」
俺は祐一に問い掛ける。
「そうなんだ。全く自分で買いに行けばいいのに」
祐一は大きなため息混じりで、いかにも嫌そうにして言う。その後更に大きなため息をついてから続ける。
「彼は満足そうだけれど、こっちはいい迷惑なんだよな」
このところ、祐一は葉山の飯を買う為に昼休みの半分を削っている。購買が無いため、コンビニまで行かなければならないのだ。
「嫌だったら、俺が変わろっか?」
俺は心配して、祐一に問い掛ける。
「いや、あいつの愚痴を昼休み中ずっと聞かされるのはごめんだよ」
苦笑を浮かべながら俺も呆れたように大きなため息をつく。「まあ」と続け
「あと1ヶ月の辛抱だよ。彼を不機嫌にさせないようにね。うまくやろう。面倒臭いのはごめんだよ」
俺は半分諦めたように言う。祐一も俺と同じくやれやれと諦め顔で
「じゃあ、大人しくパン買ってくるよ」と言う
「行ってらっしゃい」
俺らはそう言葉を放つと反対方向へと別れて行った。
「おう、加藤。やっと来たか。いきなりだけど、中村の奴ってさー」
加藤が来たところで、俺は中村の愚痴を語る。
何故中村?自分でもわからない。ただ、言いたくなった。さっきから身体中がビリビリいってとまらない。その電流の痛みから逃れるように反射的に発された、そんな気がする。
話せば落ち着く。そう思って俺は加藤に語り続けた。加藤は何も言わないが、たまに頷く。
伝われ、伝われ。俺は語り続ける。今日の空模様のように真っ暗な闇から抜け出したい。その一心で俺は、もがくように語り続けた。思ってもないことまで出てくる。かく汗は気持ち悪い。それでも語る。
「中村って、何も言えないロボットみたいな奴だよな」
何でこんなことを口走ったのかはわからない。けれど、これを言った後、電流は止まった。不思議と落ち着く。友人のことを散々言ったのに。
加藤の方を見る。俯いたまま話そうともしない。
「葉山君、パン買ってきたよ」
そんなところに、今まで俺の話の話題だった中村がパンを持って帰ってきた。
「おい祐一、行くぞ」
そう言うと、加藤は立ち上がる。嫌だ。去るな。俺だって、本当はそんなこといいたくなかったんだ。駄目だ、さっきから自分がさっきから自分が何を思って、何を話しているのかわからない。だが、俺にあの電流は走っていない。あるのは爽快感と、喪失感。
「おい、行くな!」
そういった時にはもうあの二人は居なかった。罪悪感が俺を襲う。
「あいつ、散々言っといてあのザマかよ」
外野がまた何か言っている。うるさい。お前らにいまの俺の何が解るというのだ。俺だって、解らないのに。
自分の支離滅裂さに嫌気がさす。中身が空っぽな、根拠の無い悪態をつき、そのせいなのに、友人が去ろうとしているところを未練がましく追おうとするだなんて。
俺のせいじゃない、俺のせいじゃない。そう自分に言い聞かせた。俺にそうさせる何かのせいだ。俺のせいじゃない。
一つ思ったことは、加藤にはしっかりと謝っておこう、ということだ。壊したまま、終わりたくない。
「祐一、ごめん」
俺は中村に謝る。祐一は不思議そうにそれを眺める。
「ごめん。もうお前と話せなくなるかもしれない」
俺がいけなかった。かなりまずいことになった。
「どうして?嫌だよ」
祐一は問い詰める。俺は何も言えず謝る動作を続ける。
「俺のせいだ。うまくできんかった。もう終わりだ」
俺はそう言うと、訳がわからなそうな様子の祐一に「じゃあな」と告げ、その場を離れた。
「意味がわからないよ」
祐一はボソッと、そう呟く。ごめん。本当に俺もどうすればいいか分からなくて…。
「加藤、さっきは悪かった。自分でも訳がわからなくなってて…。その、とにかくごめん!」
俺は帰ってきた加藤に、うまく伝えられないながらも謝った。
「いいよ、そんなに謝らなくて。こっちはそんなに気にしてないから」
嘘だ。と俺は思う。しかし、今まで通りでいることは、少なからず可能だ。そう伝わってきた気がする。
「じゃあ、これからも今まで通りよろしく」
「ああ、よろしく」
いつもの加藤だ。よかった、これからもこの住処に居られる。その事実が分かっただけで安心だ。
住処と落ち着きを取り戻し、ひとまず安心できる。
「ねえ、祐一君」
ボーッと教室の天井の一角を見つめる祐一君に話しかける。しかし、祐一君からは何も返ってこない。
「何かあったのなら、言ってよ」
私は問いかけ続ける。抜け殻の様になった祐一君に何かを話してもらいたい。らしくないから。少しでも元気を取り戻してほしい。その一心で話しかける。
「どうしたの?ねえ、どうして何も言わないの?私に話せないことなの?」
だんだんイライラしてきた。しつこく、とにかくしつこく中村から何かを引っ張りだそうと試みた。聞かないとこっちの気がすまないよ。ねぇ、何か話してよ!
「ああ、もううるさい。一人にさせてくれ。今は色々複雑なんだ」
祐一君はやっと口を開く。が、開口一番に否定的なことを言われたために私は完全に我を忘れ、
「もう、なによ!人がせっかく聞いているのに!」
と、怒鳴り散らす。ついでにビンタもかます。そして「もう付き合ってられない」とだけ言ってその場を後にした。
やっちゃった。きっと何か大きな事情があったはずなのに。それも聞き出せないまま暴力まで振るって。
でも、あんな人、祐一君じゃないよ。絶対に違う!あぁ〜もう腹たつなぁ〜。
一方中村は、先ほどまでと同じく、抜け殻にでもなったかのようにボーッと天井の一角を見つめていた。
「あれ?中村は?」
スタスタと急ぐように歩いてきた高山に俺は話しかける。
「もうあんな人、知らない」
吐き捨てるように彼女はそう言う。「なにかあったのか?」と問うと
「あの人ったら何も喋らなくなっちゃった。もう中村祐一ではなくなったわ」
そう答える。その時、ビリリッと電流が走る。先ほどの中村に対して悪態をついていた時とは違う電流だ。気持ちが高まってゆく。
「じゃあさ、中村なんてやめて、俺と付き合わない?」
考えるより先に口に出ていた。それは、素直に思っていることだった。答えが気になる。また、電流が走る。さっきより強い。それに比例し、胸の鼓動が速くなる。
「そうだね、前向きに考えるよ」
高山から出た、ほぼオーケーのサイン。俺の電流やら鼓動やらが、いっきに落ち着く。
「是非ともよろしく」
心の中でガッツポーズを決めた。
俺の住処の確立。それが成される日が近づいているのを感じた。
「亜美さん、ちょっといいかな」
「何?」
中村はおどおどした様子で高山に話しかける。
「今更、何を言ったって無駄だよ」
突き放すように高山は言う。去ろうとする高山に「待って」と、中村は呼び止める。
「さっきはごめん。何があったのか話すから」
そう言うと、中村は昼にあったことを話す。
自分のいないところで、訳がわからないまま話が進んでいたこと。その状況についていけず、大切な人を傷つけたこと。そして、それについて謝りたいこと。
一通り聞いた高山は「それで?」と問う。「それで?どうしたいの?」
「っと、さっきは本当にごめんなさい。そして、これからも君との関係を維持したい」
中村は一瞬うろたえるも、はっきりと言う。
高山はクスッと笑い、「ありがとう」と言った。
「ありがとう。祐一君が話してくれなかったら、私は今頃、葉山君のものだったよ」
高山がそう言うと、中村は「よかった…」と言って、全身の力が抜けたかのように、その場に座り込んだ。
よかった。お互いに心底そう思った。
昨日までは曇り空が続いて、はっきりとしない天気だったが、今日はスッキリと蒼い空が雲に隠れることなく、その姿を晒していた。しかし、晴天ではなく、全体の2割くらいは雲に覆われていた。
朝、登校する時の様子が変わった。加藤を迎えに行く仕事が、中村ではなく、俺にかわった。
つまり、中村はもう俺らと登校しなくなったということだ。何故だかはわからない。だが、あまり関係ない。なんせ、もう俺にとってあいつはどうでも良い存在になったからだ。
少し歩いたところで、高山さんに会う。
「やあ、おはよう高山さん。ああ、亜美さんで良い?」
俺は聞いてみた。ここいらでグッと距離を縮めたかったからだ。高山さんは、快く「うん」と答えてくれた。
また一歩進展した。加藤も「よかったな」と言う。
かなり居心地良くなってきた。住処の確立。それが着実に進んでいる。それに満足感を覚えるひと時となった。
放課後、雲行きが怪しくなってきた。確か、今日の夜からは、雨が降る予報だったな。
校門の近くに、亜美さんがいた。
「亜美さん、一緒に帰らない?」
どんどん距離を縮めていきたい。これが、人生の相手になるのかもしれないのだから。高山さんは、朝と同じトーンで「うん」と答える。
軽く雑談をしながら帰る。そこでふと、あることが気になった。
「亜美さん、中村とはどうなの?」
聞くのは少し危険か?とも思ったが、気にしない。結果次第で今後が決まるからだ。
「祐一君とは、今後も付き合っていくことにしたよ」
彼女からその言葉が出たその時、俺にビリビリと強い電流が走る。これは、出会いの時とは違う感じだ。
その電流は俺をせかすかのように次第に強くなっていく。
「どうして?あいつとはもう、縁を切ったんじゃなかったの?」
俺は焦った。住処を得られない気がしたからだ。
気づいたら、彼女に手を出していた。身体の至る所を触る。揉みしだく。彼女の口から、「嫌っ!」という声が漏れる。俺はその口を俺の口で塞ぐ。
手離したくない。手離したくない。俺の中で、何かがそう連呼した。もう奪ってしまえ。そんなことを思った。
瞬時に近くの公園の物陰に隠れる。服こそ脱がせなかったが、服の中にある彼女の身体に指を這わせる。
彼女から漂う香り、漏れ出す声、彼女の感触。それらが俺の理性を壊しにかかる。いけないことだとはわかっていた。ただ、本能が言うことを聞かない。壊れた理性では、もう抑えることは不可能だった。
俺のものであることの証明。俺はそれが欲しかった。
孕ませてやる。その一心で彼女の身体に俺の身体をぶつける。
「やめて、やめて」と彼女が騒ぐ。駄目だ、ここでやめては。やめたら、今身体に流れる電流がおさまらない。痛い。電流は、俺をどんどん急かす。
ああ、もう駄目だ。落ち着きを取り戻したい。孕ませて、彼女を俺のものにして、住処を確立させてやる。強い思いに比例して、腰の動きが強く、速くなる。
もう彼女の言葉も聞こえない。嫌がる声も、受け入れる声にしか聞こえない。
遂に、俺は達した。彼女と繋がったまま達した。今まで俺を急かしていた電流は、もうその姿を見せなかった。
住処の確立。それが達成された喜びと、まだおさまらない欲求の効果で、二回目に入る。
彼女は、何かに怯えるような顔をしながらも、腰を振り続ける俺を受け入れる。
二回目も終わり、ようやく俺らは公園を出た。周りに人が居なくてよかった。これで安心だ。
亜美は疲れきっていた。俺は彼女を家まで送ることにした。
亜美の家まで行き、彼女と別れると、途端に雨が降り出した。せっかく余韻に浸っていたというのに。
俺の気持ちとは裏腹に、雨は降り続けるばかりだった。
今回から少し過激になりました。こういった表現なしでは、この作品は成り立たないな、と思ったので。やってみました。
今回も楽しく書かせて頂きました。
閲覧頂きありがとうございます。次回もご期待下さい。