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渡り鳥  作者: 間宮 要
2/5

住処

*今回も過激なシーンはありません。


バスケ部と縁を切った葉山は、次の仲良くなれそうな人である加藤と、その友達の中村につきまとう。今回はそんな奴らの、何だか楽しそうな話。



「全く、本当に嫌な奴らだったよ。」

俺はあの憎きバスケ部連中に対しての愚痴を言う。聞き手は加藤。同じクラスの奴で、以前から少し仲が良かった。たまに言う俺の愚痴を何も言わずに聞いてくれる、いい奴だ。

別に話す相手は誰でも良いのだ。ただ、普段から話の合う加藤には、そういった話を聞いてもらうには最適だ。

「あいつらさー、意味分かんないんだよね。人の邪魔をすることしか頭にねーみてーでさー。」

周りの奴らに聞こえるように、少し大きめの声とモーションで続ける。すると狙い通り、近くにいた同じクラスのバスケ部連中が俺に目を向けた。

「んだよ、文句あんのか?その通りのことを言ったまでだろう。」

そいつらに言う。奴らは目を逸らし、近くにいるグループと会話を始めた。

(フン、逃げたな。)

あまりにも図星なことを言われたからであろう。弱者らしくて何よりだ。ああ、なんて気分が良いのだろう。愚者が聖人に仇なすことができない様子を見るのは、実に爽快だ。

「伸哉君、何してるの?」

突然、小柄な奴が話に入ってくる。少し不快に感じたが、加藤に用があるなら仕方がない。良しとしよう。

「お、祐一。今、葉山君のバスケ部時代の話をしていたんだよ。」

「ふーん、そっか。邪魔して悪かったね。ごめん。」

俺の様子を探るようにジロジロと眺めた後、そいつは去って行く。名前は確か中村祐一。加藤とよく一緒にいる奴だ。

「なんだ、あいつ。」

思わず口に出してしまう。悪態だと分かっていたが、つい口から出てしまった。

「ごめんよ、葉山君。彼は少しシャイなんだ。許してやって。」

加藤が気を使うように謝る。

そうなのか。そういえばあいつのこと、同じクラスだったけど何も知らないな。

「なあ、中村ってどんな奴?」

「んー、彼はとても真面目。完璧主義だし、仕事人って感じ。欠点といえば、気が小さくて、運動音痴なことくらいかな。」

「周りからどんな風に見られてんの?」

「割と人気はあると思うよ。今も付き合っている人とかいるし。」

加藤がそう話すと、俺の身体中に、ビリリっと電流が走る感覚がした。

時折くるこの感じ。この感覚がするのは、俺の中の『いい奴センサー』が働いている時である。と俺は思う。加藤の時もこんな感じだったな。

「今度、話してみるよ。少し興味が湧いた。」

心躍る感覚。高校生活も残り僅かだが、最悪なバスケ部での生活から一転、良いスクールライフを送れる気がした。



「ねえ、伸哉君。ちょっと良い?」

祐一は何か気になることが、あるらしく、俺に話しかける。

「どうした祐一、何か用か?」

「いや、葉山君のことなんだけど・・・。」

なんだ、あいつのことか。祐一が気になるってことは、何かし感じるものがあったのだろうな。

「んー?俺はただ普通に話を聞いていただけだけど?」

俺ははぐらかすように見え透いた嘘を吐く。こんなんバレるだろ、と思いながらも、つい言ってしまった。

「嘘、ついてるよね。」

当然、というように祐一は正解を言い当てる。この会話だけでなく、あの時葉山と話していた時に付いていた嘘も見抜いていやがった。まあ、祐一にとっては当たり前なのだが。

「ハハッ。やっぱり祐一には分かっちゃうか。気付いていると思うけど、正直かなり面倒なことになった。祐一のことも気にかけていたし。少し気をつけていかないとね。」

面倒なこと、で済めばいいがな。正直危なっかしくてしょうがねぇ。嫌な予感が身体に引っ付いて離れねぇんだ。

「うん。そうだね。」

祐一も察したらしく、それに見合った返事をすると俺は「じゃあ、そういうことで」と言ってその場を離れた。



「中村くーん。」

放課後、加藤と下校している中村をつかまえた。

「中村君のこと、加藤君から聞いたよ。そこでさ、君とはとても仲良くなれそうなんだ。これから仲良くしてくれると嬉しいんだけど・・・。」

我ながらフレンドリー。完璧な挨拶をすると中村は慌てたように

「あっ、うん。よろしくね、葉山君。」

と人懐っこいが少し強張った笑顔を見せて言った。

「祐一、そんなにビビんなくたって葉山君は良い人だから、襲ったりしないよ。」

脇で面白そうに見ていた加藤が、緊張のせいだろうか、少し硬くなっていた中村の背中を叩いて言うと、

「ビ、ビビってないし!」

と、急に沸点に達したかのように顔を真っ赤にして言う。

「ハハッ、顔赤くなってるよ。まあ、お互い良い付き合いにしていこうよ。」

「そうだね。」

初めてのこの三人での下校。俺の中で、新たな住処を見つけた。そんな気がするひと時となった。

これから彼らと、どんな土地を開拓し、どんな巣を作り、そこでどんな生活ができるのか、楽しみで仕方がない。夕焼け空も、そんな俺らを見て微笑んでいるように感じる。



「祐一君。今日一緒に帰ってた人、加藤君ともう一人誰?」

さっきまで何か仲よさげに話していた三人。一人は彼氏の祐一君、更に祐一君の幼馴染の加藤君、までは分かるんだけど、あと1人が分からない。遠くから見ていてずっと気になったから聞いてみる事にした。

「ああ、亜美さん。今日いたのは葉山君。仲良くしようね、って言われたところだよ。」

そうなんだ。確かに仲よさそうに話してたもんね。でも、なんだろう分からないけど胸の奥に何かがつっかえているそんな具合の悪さがあった。

「そっか。でも、なんか嫌な予感がするな。」

「伸哉君もそう言ってたけど、やっぱりそう?」

加藤君も、おかしいって思ってたんだ。それはそうだよね、あんなに嘘つきながら話す加藤君見た事ないもん。

「うん。何かこう、グチャグチャになっちゃいそうな、そんな気がする。」

嫌な予感を上手く表現できないが、ニュアンスで伝える。すると祐一君はそうだね、と言わんばかりに頷いて

「嫌な噂も耳にするしね。亜美さんも気をつけてね。」

と言う。えっ、私も気をつけるの?何?手を出されるとか?

「関係もたれるかな?」

なんて、少しオーバーに言ってみる。半分ジョークみたいなものだから、きっと笑って返してくれるんだろうな。とか思っていたけど、予想していた反応とは真逆で、深刻な表情を見せると

「うん。その嫌な噂なんだけど・・・・。」

と私に耳打ちする。聞いているとその内容は酷いものだった。

「えっ…本当に?それって許されるの?じゃあ、もしかしたら私も…?」

「そんなこと、僕が許さない。でも、本当に気をつけてね。何かあったら、いつでも相談して。」

か、カッコいい!流石は私の彼氏!そんなこと言われたらもっと惚れちゃうよ〜。

「分かった。頼りにしてるね。」

興奮を抑えるように声のトーンを少し下げて、それでも精一杯の笑顔を見せて言う。



「中村くーん。一人ー?一緒に行こーよー。」

登校中、一人で歩いている中村を見つけた。急いでいる様子はないが、なんだか用事がありそうな感じだ。学校に来るのはそんなに早い方じゃないのに、こんな時間からいるなんて、少しおかしい。

「あ、おはよう葉山君。今から伸哉君とこ行くんだ。」

なんだ、そういうことか。理解理解。

「ふーん。本当にいつも一緒だね。」

仲が良さそうで何よりだ。俺も早くこの中に溶け込みたいなぁ。

色々と雑談しながら、十分程歩いたところで、中村がいきなり歩みを止めた。

「ここが、伸哉君の家だよ。じゃあ、今から呼んでくるから。」

そういうと中村は、ここら辺一帯の家より、かなり立派な家の玄関に入って行く。すげー、俺の家の二倍位は大きいな。

中村と加藤が出てくる。加藤はかなり眠たそうだ。

「よう、起きてるか?」

めがショボショボしている様子の加藤に話しかける。

「んー、十分位前に起きた。」

目を擦りながら言う加藤は本当に眠たそうで、もう「私は寝起きです」と言わんばかりだった。

「ある意味すげーな。」

急いで出たからか、髪をあまり直せなかったのであろう。髪が少し乱れている。

「祐一、毎日毎日、朝から焦らしプレイは良くないって。いつもいってるじゃん。」

加藤が少し不満そうに言うと、

「じゃあ、もっと早く起きなよ。それとも、もう迎えに来なくても良いの?」

と返す。すると加藤は何回も頭を下げ

「すいません。これからもよろしくお願いします。」

と言う。そんな会話を俺は笑いながら聞いている。朝から仲の良い奴らめ。羨ましいぞ。



その日の放課後。中村が女と歩いているのを見つける。

「なあ、加藤。あれ誰だ?」

中村達の方を指差して言う。

「んー。ああ、この間君に喋った中村君の彼女の高山さん。」

ああー、あれが。中々良いじゃん。

「付き合ってどの位経つんだ?」

「軽く一年半。いや、もっとかな。とにかく結構長い。羨ましいね。」

ふーん、っとそういや加藤って付き合ったことあるのかな?この際だ、聞いてみよ

「加藤は付き合ってないのか?」

すると何やらもの寂しげに

「彼女いない歴イコール年齢だよ。それ以上はやめてくれ。」

と言う。制止する手に余計に威圧感を感じた。

「お、おう悪い。」

勢いに押されて謝ると、

「それより、葉山君はどうなの?」

と、話題を俺の方に持ってきた。聞くなよ〜大したことないから。

「いたけど、持って九ヶ月位。」

そう言うと、へぇ〜といった感じに返事をしてくる。

「今まで何人?」

更に聞きたいようで、次は人数の方を聞いてきた。

「んー、小中高で合計十二人位。」

「経験豊富だな。」

反射的に、それでも何やら妬み感情込みな様子で加藤は言う。

「まあな。今はいないけど。」

少々キザ臭いとは思ったが、間違いではないからな。しかし、加藤はモテないのか。意外だな、何でだろう。良い奴なのに。

「告られたことは?」

流石にあるだろ。このイケメンになら。

「数回」

「あるじゃん。どうして断ったの?」

そのまま付き合ったら色々楽なのに。楽しいし癒されるし。

「断った、というか、俺がその時アガちゃって、うまく話せなくて、無かったことにされた。」

「ハハッ、そうなのか。」

そうなのか。喋りが達者な奴だと思っていたが、女子の前では緊張してしまうのか。

「意外だな。」

「いや、少し女子は苦手で。」

彼はきっぱりとそう答えた。どうやら、本当に苦手らしい。

「ここから先、そうは言ってられないぞ。」

「そうだな。でも俺は婚期だけ逃さないように、じっくりと頑張るよ。」

まあ、焦る必要も無いし、加藤なら大丈夫であろう。

そんな話をしていると、気付いたら中村とその彼女の高山さんが目の前に来ていた。

「亜美さん、こちらが例の葉山君。」

「こっ、こんにちは!高山亜美です!」

中村の彼女である小柄で可愛らしい女性は、おどおどした様子で俺に挨拶してきた。挨拶の声が少し裏返っていたが、それもまた、可愛らしかった。

「そんなに緊張しなくて良いよ。こちらこそよろしくね。」

そういうと、やはり緊張しているのか、彼女は中村の腕にしがみついた。

「しかし中村君、いい彼女連れてるね。」

「うん、彼女はとても素敵な人だよ。」

中村がそう言うと、高山さんは、顔を真っ赤にして、結構強めに中村の肩を叩く。

「もう、祐一君!」

何やら楽しそうな中、

「おーい、お熱いのは良いが、俺を忘れないでくれよ。」

と、会話に入れず置いてけぼりを食らっていた加藤が、「ちょっと待ったー!」と言わんばかりのモーションとテンションで、俺らの会話に無理矢理混ざる。

その時、俺にまたビリリッと電流が走る感覚がきた。

高山さんが俺と仲良くしてくれそうな人だからであろうか。しかし、今回は今まで以上に電流が強い気がする。

ついでに、叫び出したい程の感情が込み上げてくるのが分かった。それが何かは分からないが、きっと俺にとって良いことの知らせなのだろう。

この四人で、俺の落ち着ける住処を作っていきたい。素直にそう思った。



しかし、中村、加藤、高山が思っていたように、順風満帆な生活になる訳もなく、彼らがこのまま仲良く卒業などすることは無かった。



今回はこのシリーズの中で、唯一の「楽しい回」なので、会話を多く入れてみました。楽しんでいただけたでしょうか。そうだった方にも、そうで無かった方にも、まず、読んで頂いたことに感謝申し上げます。

次回から本編と言っても過言ではないです。

是非とも次回も閲覧して下さい。

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