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MIDNIGHT LIGHTNING 夜更けのクライマー  作者: 大和ミズン
The RIGHT MAN in the RIGHT PLACE  5.14a
93/98

091 カミングデバイス

カミングデバイス……単にカムとも言います。先端についた羽がレバーを引くと閉じ、戻すと開く構造になっており、岩の割れ目クラックにはまり込んで、クライマーの墜落時の支点になる、安全確保用の道具になります。既に物語中で登場したナッツと役割は同じですが、汎用性は圧倒的にこちらの方が上です。

諸説有りますが、アメリカのクライミングの聖地ヨセミテ国立公園で、レイ・ジャーディンがThe Phoenix (5.13a)の水平クラックを攻略するために、最初のカミングデバイス「フレンズ」を作ったと言われております。ちなみにフレンズの名前は、その存在を知る友人が他のクライマーにバレない様に、

「あの友達持ってきた?」

と隠語の様に言ったことが由来。

 「――ねえ、デヴィッド。それはさ、本当に出来ることなの?」


 「どうだろうな。出来ない類だとは思わないけど」


 ここ最近で、随分と作った試作品。手の中で遊ぶ其れは、バネで金属刃を開く仕組みのもの。

 結構、引っ掛かりはしたけれど。先程のテストフォールで、見事にはじけ飛んだ。グラウンドフォールとまではいかないにしても。結構、危うい墜落を仕掛けて。其れで、シリーがいたく心配しているワケだ。


 指先から、チャラチャラと軽い金属の音が伝わる。会社の廃材から持ち出した、ステンレス。別の合金も、考えても良いかもしれない。


 「へえ。狂ってんだ」


 非道い、言い方だ。でも、そうなのかもしれない。


 (いいや。俺程度じゃ、其処までじゃないんだろうな)


 所詮、仕事の片手間。趣味の範疇。或いは、手慰みでもあるか。


 「狂っちゃいないさ。これくらいしか、楽しみの無いつまらない男ってだけだよ」


 「そうなの?」


 「そうだ」


 真に狂ってしまえば、悩むこともないだろうに。そうはならないから、俗に染まる並の人間なんだと。

 思い、悩みながら。何とかなる瞬間を待ちわびることしか出来ない。そんな凡人であるのだから。


 「良くわかんないや。強いクライマーはさ、狂ってるて。みんな、言ってたんだけどなあ」


 あはは、と。向かいのシリーは笑って。

 それで――


 「――でも、普通なままでも最強になれたら、さ。何かカッコイイね」


 そんな風に、呟いて。







 今回、持ち帰った課題は幾つかある。試作品、金属刃が外に開く構造自体は、悪くは無かったと思う。

 でも、圧倒的にパワーが足りなかった。些細な落下角度の変化で、容易に外れうる。そういうのは、許容の範囲外だった。


 「取り回しを考えれば、バネを動力にするのはほぼ確定だろう」


 座り慣れて、随分馴染んだ自室の椅子。あぐらをかいて、デバイスを仰ぎ見る。


 「歯車を噛まして、パワーを補えるか?」


 上手いことやれば、より強い力で歯を広げられるだろう。


 ――いや。


 「そもそもバネの伸展方向に、歯を広げる必要は無いだろ」


 例えば、歯車(ギア)を何枚か噛み合わせて。ワイヤで引き込んで、刃を広げっぱなしにして――


 「できるかもしれない」


 ガシャガシャガシャ、と。 箱に入れていた、ガラクタの類。机の上に、ぶちまけて。

 取り分け目につくパーツ、片っ端から手にとって。これは使える、これは要らない。適当に、振り分けて。


 「よしっ」


 思いついたら早いか、手が勝手に動く。簡単な構造で良かった。複雑過ぎる構造は、機能的な障害を(もたら)すリスクだってあった。


 「どんだけ刃……いや、これなら羽だな。どれくらい広げるかは、追っつけやれば十分だ」


 一先ず、10度。少し大きめに開かせて。


 「行けるか……?」


 あっという間に、出来上がった。更なる試作品。

 グリップを引き込めば、杜撰に付けたワイヤが羽を閉じて。――放せば、開く。たったソレだけのもの。


 「まあ、無理ならそん時だな」


 天井に渡した、木製のクラックモデル。水平な溝に、()じ込んで。しっかり噛んだか。理解らないけれど、飛びつき、デバイスにぶら下がって――ガン、と。音を立てたのに。


 「マジかよ……」




 ――勢いを付けた、デヴィッドの荷重を受け止めても。デバイスはびくともしなかった。

 未だ、玩具の様な代物だけれど。


 事実、これが史上初めての――カミングデバイス。

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