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MIDNIGHT LIGHTNING 夜更けのクライマー  作者: 大和ミズン
The RIGHT MAN in the RIGHT PLACE  5.14a
92/98

090 つながる先

 送り出すロープの感触は、皮手袋越しじゃ少し鈍い。それでも、何度もやった手さばきだから――一切の、滞りなく。


 「そこ! 右足と左足を入れ替えろっ。一本でバランスを取れ!」


 デヴィッドの声に従って、頭上の女が藻掻くけれど。上手く、大勢を取れない。駄目だと言われた右足の方が、未だ行けるだろう。結局、次の手を出すことすら出来ず、落下(フォール)


 「ああああああっ、もうっ!」


 悔しさ、と言うより。不満を爆発させるような声。(シリー)の性格が、よく出ている。


 「今何が悪かった!?」


 地面に降ろされて、シリーは聞く。壁に擦った膝を払って、デヴィッドに詰め寄って。


 「全部だ。爪先で乗り切れてないし、重心が高すぎる。腕を伸ばして、体を傾けて。乗っけた足の膝は内向き。こんな感じ―に―」


 壁の、適当な窪みを掴んで。デヴィッドがやってみせる。深く膝を曲げた状態から、体の振りを使って。ごく自然に、立ち上がる。


 「一番大事なのは、次の手を出す前と後。両方でバランスを取れる形にすることだ――」


 あくまでスタティックに行くならだけれど。そう補足しつつ。

 より細かく、解説を入れていく。何が出来ているか、何を苦手にしているか。見た範囲だけれど、きっちり仕分けて。

 もうジェイムズを馬鹿には出来ないくらい、先生になっていたそのとき。


 「――デヴィッドの説明はさ。分かりづらくはないけれど、すごくインテリっぽいね」


 すごい、理屈を大事にしてて。あんまり感覚的じゃないかも。シリーがそんな事を言った。


 「結構キツイこと言うな。間違っちゃいないけど」


 「やっぱ、そういう人なんだ」


 当たりだね、と。ニヤッと、笑う。

 髪を掻き上げて、後ろに流しながら。


 「理屈っぽいのは嫌いか?」


 「そんなことは無いけどさ。私は、結構馬鹿だから、ちょいと付いてけてない。頭がもう、こんがらがっちゃって」


 私の周り、そういう人居なかったしさ。なんて、言っている。


 (そういや、そうか)


 デヴィッドも思う。自分の周りに居た人間は、理屈屋ばかりだった過ごした場所が場所だから、ソレも仕方ないけれど。

 論理だったものばかりが、上手く伝わる手段ということは無い。


 「理解った。じゃあ、出来るまでやろう。ダメ出しはする。結局それが一番早いかもな」


 「おお、スパルタだ!」


 そういうシリーは、悪くない笑顔で。楽しげに、また壁へと向かっていった。


 (お前ばっか登るから、俺が登れねえじゃねえか)


 胸中、文句を浴びせて。でも、こんな時間も、悪くなかった。


 「そっちは、準備出来た?」


 「ああ、ばっちりだ」


 ロープも綺麗に巻き直した。いつでも、ビレイを取れる。


 (偶には頭を空にしてみるか……いや、そういう(たち)じゃないしな)


 結局、やれるのはいつものやり方だ。教えられるのは、自分のやり方で。自分の理解でしか、人には理解させられない。


 「じゃあ、お願いします」


 「ああ」


 人のロープを握る時間は、ある程度の退屈さもあるけれど。

 けして、悪い時間では無かった。

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