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MIDNIGHT LIGHTNING 夜更けのクライマー  作者: 大和ミズン
スカラーシップ 5.12d
9/98

007 ロック・アパート

チャート…堆積岩の一種。ツルツルで、岩肌はエッジが利いてる印象です。


ゲレンデ…フリークライミングのみを目的とした、クライミングスポットのこと?フリークライミングが出来る場所を広く言うことが多いです。余りボルダリングエリアには使わない気がします。


シュリンゲ…スリング。紐を輪っか状にしたもの。


クラック…岩の割れ目。人が入る大きさのものはチムニーと呼びます。


5.○○…デシマルグレードでの、リードクライミングルートの難易度の表記の仕方。5.の後の、数字とアルファベット(a~d)が上がる程難しいです。例えば、5.8よりも5.9の方が難しく、5.10aよりも5.10bの方が難しいです。


トラッドクライミング…墜落を防止するための支点を、岩に自分でセットしながら登る事。クラックを登るときに行われる事が多いです。ナッツ(下記参照)、カムと言った器具を使います。


ナッツ…岩の割れ目や穴に差し込んで、クライマーの墜落を防止する器具の一つ。見た目や詳しい使い方は、調べて頂いた方が分かりやすいと思います。また、同じ様な役割をする器具にカミングデバイス(カム)が有りますが、この世界では未だ開発されていません。

 「そうだ、チェスター」


 ロック・アパートへ向かう道すがら。思い出したかのように、ジェイムズは聞く。


 「アプローチ図の書き方を教えて欲しい。この間、スポンサーに駄目出しされてね」


 この件で、チェスター以上の適任はいない。目的の頂のために、幾つもの山林を超えて来た男は、水平の冒険においても一流と言って良い。そうでなくとも、地学者を志す彼である。教師として仰ぐには丁度良かった。


 「心得たよ。まあ、相手があの(・・)カーナーシス老だ。中途半端なことはしないできっちり仕込んでやる」


 少々、スパルタなきらいが有るが。




 結局、同輩の二人と、後輩三人にジェイムズを入れた、六人での行軍になった。小道を歩いて行く。自分たちで踏み固めた道である。其れこそ、アプローチ図なんていらないくらい、この道を歩いてきた。見通しの悪い、木々の間。知らぬものには変わらぬ風景でも、もう、分かっていた。


 「もうすぐだ」


 デヴィッドは言った。一番下の後輩が、本当ですか。と口にした。詰まらない林間の道を歩くのに辟易したのではないだろう。もっと、期待感のような感情からの一言であった。


 そして――。

 丈は25メートルが精々。だが、数十メートルも続くそのチャートの崖は、物々しい佇まいでそこに有る。そして、残置されたピトン達が、そこで行われる事を物語っていた。


 ロック・アパート。堅固な岩の城塞に魅了された者達が住む場所。クラブが最初に開拓したフリークライミングのゲレンデである。




 「着いたな」


 その場所に着いて、最初に口を開いたのはデヴィッドであった。其処から口々に、やれ何処を登るだの、誰をビレイするだのと騒ぎ始める。誰の祝なのかを忘れていまいか。しかし、そういった戯れを眺めるのは、ジェイムズは嫌いで無かった。

 但し。当の本人と、デヴィッドは、其の喧騒の中に無い。しかしそれも、長いことの暗黙の了解であった。何故なら――




 「デヴィッド。今日は何を登る?」


 これもまた、いつものように。ジェイムズは、シュリンゲを体に巻きながら聞いた。手慣れた手つき。 最後にカラビナで止めて、体に固定する。


 「俺は決めてるよ。お前は再登になるから、別のをやっても構わないけど――」


 ジェイムズのビレイはデヴィッドが取って。デヴィッドのビレイはジェイムズが取る。照らし合わせて決めたわけでは無いけど。いつの間にか、そう決まっていた。クラブの最強の相棒は、クラブ二番目の男、デヴィッド・レイティング以外あり得なかった。


 「――スカラーシップ。お前も思い入れがあるだろう。祝いの席だ、やってけよ」


 そう言って見据える先には、一筋の割れ目(クラック)。5.12dをマークする此のルートを、トラッド以外で登ることはあり得ない。その共通認識のままに、デヴィッドはザックからナッツを広げていく。


 「了解」


 ジェイムズは短く返事をして。横目に見たデヴィッドの顔は、何処か寂しげであった。

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