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MIDNIGHT LIGHTNING 夜更けのクライマー  作者: 大和ミズン
The RIGHT MAN in the RIGHT PLACE  5.14a
86/98

084 確認

 100メートルを越す丈の、花崗岩の一枚岩。

 岩の名を、アカネ岩と言う。夕日に染まった、岩の色。元より呼ばれ続けていた名。

 その西面。岩を横切る様に走る、20メートル程のクラック。そこに、一粒の人影。

 そんな所に居るやつなんて、決まっている――クライマーだ。




 「――なるほどっ!」


 ずり落ちそうになる体。引き上げた拳で、必死に食い止める。スタンスに乗せた体重、器用に移動させながら。

 ジェイムズは、岩壁に取り付いていた。


 (クラックの、手前が開いてるのかっ……)


 そう、デヴィッドから幾度もなく聞かされた水平クラック。その鬼門が、それ。

 時折、無くなるスタンス。仕方ないから、クラックまで足を上げて。そうやって、何とか。右へ右へと、体を進ませる。

 でも、重心が変わって。拳の効きは悪くなって。


 「くそっ、ジャミングよりも――」


 呟いて、ジェイムズは拳を開いた。

 クラックの、下の断面。緩やかなカーブを描く面を、広げた手のひら(パーミング)で止める。


 (デヴィッドは、ジャムを効かせたって言うけれどっ)


 ジェイムズには、この方がマシに思えた。

 構造上、ねじ込んだ拳が(くさび)になりづらくて。ジェイムズの保持力なら、其処で工夫を凝らす方が手間であった。

 其れよりも――


 (――拳でこれじゃあね)


 融通が効く人体。拳の肉は膨らむし。都合によって、腕の角度も変えられる。なのに、この有様。

 此処(ここ)で、プロテクションを決めようとすれば――


 ――がっ。


 差し込んで、掛かりを確かめようと引いたナッツ。其れが、音を立ててスッポ抜ける。

 デヴィッドに劣るとはいえ、決して不得意じゃあ無いのに。

 それでも何とか。目を凝らして探していれば。


 「ここならっ!」


 少しばかり、結晶が見える箇所。ここならどうにかと、衝立てて。

 ああ、やっとこさ。引っかかって居るように見えるけれど――


 「――確かめるか」


 ごくり。生唾を飲む。

 正直、こんな不確かなセットで進みたくはない。これで大丈夫だという、核心が欲しい。

 今なら未だ、前の支点で止まるはずだから。


 「テンションッ!!」


 ジェイムズが叫ぶ。

 下からロープが引かれた。

 体を支えていた、左の手を岩肌から離し。体は、大地に引かれて落ちてゆく。

 墜落に合わせて、デヴィッドがロープを送る。衝撃緩和のための、ダイナミックビレイ。少しでも、支点への負荷を下げるけれど――


 ――ガキィィン!!


 ナッツが吹っ飛ぶ。

 ジェイムズの体は、大きく弧を描き。振られて、硬い岩壁へと向かっていって。


 「やっぱ無理かっ」


 あわや激突。けれど、予想は出来ていた。

 足で受けて、蹴り出して。そしてそのまま、降ろされて。


 「難しいだろ」


 下で迎えたデヴィッドが。そう問いかけて来る。


 「うん。難しい」


 ジェイムズも、そう答えるしか無かった。




 二人の男は、幾度となく首を捻らした。

 でも、一向に変わらない。何度も入れて、何度も滑らしたナッツは。肌にたくさんの傷を付けて。

 拳も指も、岩に擦れてずる剥ける。血をだらだらと流した手、接着剤で無理やり止めて、また登り。

 其れでも、全然思いつかなくて。

 

 「フォクシィは、何かいい案無いかい……?」


 遂には、フォクシィにまで頼り始める。

 今まさに、ジャミングやらを教わって、登り始めた最中だと言うのに。突然、そんな事を聞かれても。混乱するばかりだろうに。


 「えっ……!? えと……ごめんなさい。分かりません……」


 ちょっと、悩んではみたものの。やっぱり思いつかずに。


 「だよね……」


 「だよなあ……」


 そんな、ため息つきながら。

 此度の遠征、何も解決すること無く――

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