071 余所者は
タイルを張った道は、でこぼこで。汚れた街灯は、昼間の今は休み時。通りには、店々が並んで。けれど、一本挟んだ向こうに行けば――もう、何が在るわけでもなくて。
「駅のそばでも、こんなものなんだ」
ジェイムズが歩くオストックの町は、少し寂しげだった。
でも、パブの横を通れば。
「こんな時間からか……」
中から、騒がしい声が聞こえてくる。昼食をちょっと摘んでいるとか、そんな様子ではない。アルコールを満タンに入れて、ワイワイガヤガヤ。親しい常連同士、宴会をおっ始めている。
(楽しそうだけど……混ざれるワケでも無いし――)
ああいうのは、外から眺めるだけで十分。
羨ましくも思うけれど、もうちょっと歳を食ってからにお預けだ。
「それにしても、どうやって探したものか……」
そう、今回の目的は、そういうものじゃあ無い。
探す、探すのだ。探し人がいるのだ。
「フォクシィ――気になってしまったからね……」
知っている子だというのを言ったら、妹に頼まれたってこともあるけれど。
(登りたいのに、登れないのは――凄く苦しいんだ)
登らない日が、積み重なるにつれ。自分の体が、クライマーじゃ無くなるんだ。其れが僕らには、どうしようもなく辛いから。
「君が、オストックに来たのも――きっとそういうことなんだろう」
このオストックには、古いゲレンデが在る。ルートクライミングの、ゲレンデが。
「――でも。きっと君は登れない」
排他的なコミュニティ。君を受けいれる者は――
「――久しぶりだね」
居た。結構、すぐに見つけられた。
オストックの岩場の、端の端。ボルダーでもなんとか、そんな高さになっている所に、彼女は蹲っていた。
「ジェイムズさん……」
フォクシィが、此方を向いた。どうにも、生気の薄い瞳。綺麗な栗毛だった筈の髪色は、土塗れで見窄らしい。
でも、そんなのよりも。顔を、フォクシィに近づけて――
「駄目っ!」
払いのけられそうになる。でも、腕を掴んで、無理矢理にでも覗き込む。
「頬、折れてるかもしれない」
左の眼下と、頬骨が変色して。形も可怪しかった。
そして、また気付く。掴んでいる右手の薬指と中指も、酷い腫れ方をしている。
(――故意だ)
普通にして、なる感じじゃない。いや、腫れても登り続けたのだろうから、ここ迄悪化したのだと思うが。
其れでも、酷い。
「離してください……」
フォクシィが、か細く声を上げて。
反吐が出そうだった。こういう事をする輩が居ることも。どう考えても暴漢でしか無い今の僕を見ても、ニヤつく奴らしか周りにいないことも。
「病院、行くよ。ドワーフでも、ちゃんと見てくれる医者がいる」
鉄道で、サクソンに戻らなきゃいけないが。其れくらいは仕方ない。
「大丈夫ですからっ! ジェイムズさんみたいな人は、私に構っちゃいけないんです!」
固辞される。仲、良くなったはずだったのに。
「――駄目だ」
其れを一蹴して。尚も遠ざけようとするフォクシィを抱えて。
「何で……私に構うんですか……」
「怪我人を放っておくほうがおかしいだろう」
問答無用で、連れていく。
5キロメートルはある道のりでも、弱音を吐いてる場合じゃあなかった。




