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MIDNIGHT LIGHTNING 夜更けのクライマー  作者: 大和ミズン
クライミング・マスター
65/98

063 取り付き

ケイヴィング……アウトドアスポーツ的な、洞窟探検のこと。ケイヴィングする人のことをケイヴァーと呼びます。無謀な洞窟探検の場合は、それぞれスペランキング、スペランカーと差別的に言う事も有ります。


オーダー……登山やクライミングの際の、登る順番のこと。トップ(リーダー)、セカンド、の順に続いて、最後がラストです。アルパインクライミングでは、とくに役割が違ってきます。


デポ……登頂する際に、不要な荷物をテント等に置いてくること。デポる、みたいに使います。


クライミング・ギア……クライミングに使う道具のこと?


ギアラック……ギアを体にぶら下げるためのスリング。胸の所なんかに掛けます。


ガレ場……大小の岩が転がる場所。石が浮いているため歩き辛いです。雪渓が出来る谷間なんかに多いです。


チムニー……人が入れるくらい大きな岩の割れ目(クラック)のこと。ステミング等で登ります。

 ベン・パイク山。(ふもと)の河原、張られたテントの前で、男三人がごそごそと。(ようや)く夜が明けたくらいの、早朝である。


 「しかしまあ、使う道具も増えたもんだ」


 ザックの中身を確認して、カーナーシスの口から、漏れる。


 「洞窟探検者(ケイヴァー)なんかが頑張って、次々に道具を作ってくれちゃいましたから」


 ナイロン製のザイルが出来てからは特に、そうチェスターが返した。

 慣れた手付きで、装備を収納していく。


 「ソレで、俺がラストで荷揚げ。カーナーシス氏がセカンド。チェスターくんがトップで良いんだな?」


 ピーターがチェスターに尋ねる。

 トップは、文字通りの一番手。岩壁にルートを切り開いて、支点を作っていく。セカンドは、トップのビレイを取って、ラストが其れに続く。


 「取り敢えずは。でも、トップは代わっても構わないですよ?」


 一番楽しいですし、とチェスターが言うけれど。

 かたやアルパイン未経験の素人中年。かたや何十年ぶりの老人。少しは教わって来たとはいえ、自信なんて無い。二人共遠慮するから、結局は言ったとおりのオーダーになる。


 「持っていく荷物はこんなモノか。後は置いていっ(デポ)ていいんだよな」


 「そうしてください」


 一通り、装備もセットして。ザックも背負って。


 「取り付きまでは、一時間半ほどでしょう。其れじゃあ、五時丁度。登頂開始――!」


 威勢良く、チェスターが声を掛けて。三人は、登り始めた。




 「――っふう。此処までは、普通の、登山ですねっ」


 「そうだが。もう、結構。辛いものだなっ」


 疲れてはいるが、未だ余裕のあるピーターに対して。カーナーシスは息も絶え絶えと言った様子で。

 これが、普段からの運動量、そして年齢の差であるか。


 「クライミングになってしまえば、疲れづらくなる人もいますから。頑張りましょう!」


 かたやチェスターの方は、余裕綽々で。二人の荷物を余分に持っているというのに。


 「流石は。若手じゃ、一番と、噂される、アルパインクライマーだ……」


 弱々しく、カーナーシスが褒めながら。急峻なガレ場を歩き進める。

 太腿に、乳酸が溜まって。張りと疲労感を訴えている。肺腑も苦しい。けれども、其処に楽しさも見いだせてしまうのだから、自分もまだ山男なのだと、カーナーシスは感じた。


 そして――


 「見えました! あれがルートの取り付きです!」


 「「おおっ」」


 チェスターが指差す先。沢滝を右岸から、大きめの(チムニー)が走っていて。斜度はどれくらいだろうか。恐らく、60度から90度くらいまで、変化を繰り返していて。


 「久々に見ると、心が、踊るなっ!」


 カーナーシスが、思わず声を上げた。

 まるで青春時代に戻るような。そんな歓びが、顔に現れる。


 「俺もですよ! 普段も横目に見ちゃあいますが、いざ登るとなると……何とまあ、カッコイイものです」


 ピーターも感嘆の声を上げる。二人揃って満足気だけれど、本番は、あくまでこれからである。

 そんな中で――


 「このルートは落石も少ないし、きちんと登り方を分かっていれば死にはしない筈なんですよ――」


 ――ふと、チェスターが、そんなことを言った。


 「其れでも、多くは無いけど、毎年人が死んでる」


 珍しく、真面目な声色で。

 だから、後ろに続く二人も、思わず聞き入って。


 「――もしクライミング誌が出来たなら、技術や道具の使い方とか。セルフレスキューなんかも良いですね。そういう、事故を減らすための記事なんかも組んでもらえたら嬉しいです」


 単に、界隈(かいわい)を盛り上げるだけじゃなくて。新しく始めた人間が、やり方をよく理解らないまま突っ込んで。そして消えていく事は悲しいことだから。そう為らないように。


 「――クライミング誌。出来ると良いですね」


 若いクライマーは、願いを伝えた。




 改めて、三人はギアを装備し直した。シューズも、フラットソールのクライミングシューズに変えた。

 チェスターは、改めて自分のギアラックと、二人の様相を確認して。


 「――問題無いですから、行きましょう」


 そう言って、壁に取り付く。

 ビレイをするカーナーシスは、ザイルを持つ手に力が入り。

 ピーターは、お手並み拝見とばかりに、チェスターを望む。


 「ふっ――」


 チェスターが、チムニーの中で足を上げた。

 ――クライム、オン。

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