059 解雇
朝の朝礼のあと。ひとり仕事を振られずに、ただ、突っ立っている私。
他の人達は、各々持ち場に向かって。其れを確認した使用人長が、私に近づいて、告げた。
「――旦那様が。フォクシィ、貴方を解雇するとのことです」
私は、ただ。
「はい。分かりました」
そう言うことしか出来なくて。
「理由は、シエラ様だそうです。……いいえ、要求が有ったとか、そういうわけでは有りません」
分かっている。彼女はそういう人では無い。
跡取りの元に、嫁が来るのだから。家の後ろめたい所などを排除したいのだと、使用人長は言った。
「後ろめたい、ですか」
「ええ。別に、貴方自体が、ということでは無くて。スティング様に、余計なことをさせたくないのでしょう」
スティング様。旦那様の次男。私に、少し乱暴をするひと――
「――最近は、あまり無かったのですけどね」
私は、ぼそりと呟く。ええ、と。使用人長も返して。
知っていた、私は。ジェイムズさんとの別れの前、少し反抗をしてから、いっそう酷くなったお勤め。其れに気付いた使用人長が、どうにか止めてくれていたのだ。
「取り敢えず、就業は今月一杯になります」
淡々と、使用人長が告げていく。宿舎には、もう少しいてくれても構わないが、何れは出ていって貰うとか。基本的に、次の職の斡旋などは無いとか。
「多少、補償金などは出ますから。其れを元手に、次の職を探していくしか無いでしょうね」
使用人長は言った。
他人事の様に聞こえるけれど、違うのだ。彼女だって、苦労人の労働者階級。どうにかする手段なんて無いし、似たような境遇にも、身を窶してきた筈。だから――
「――今まで、ありがとうございました」
只管に空虚になろうとする思考の中で、最初に湧いてきた感情は其れであった。正直、此処の人たちの多くは好きでは無いけれど、この人にはお世話になったから。
「貴方は、こんな時にも――」
使用人長が、ふと言葉を詰まらせた。口を噤んで、顔の今まで見たことの無い場所に皺を作って。
けれどすぐに、いつもの生真面目な顔に戻り。
「此処を出たら、居場所くらいは教えなさい」
そう言った。
「はい」
了解の返事をして。二人、業務へ戻る。
其れからは、いつもと同じ日常であった。
「ここ、汚いな」
工場の床を拭く私の頭の中も、いつもとそう変わらない静寂。淡々と目の前のことを熟していくだけの静寂。
ただ――
「――ちょっと、調子に乗ってたのかな」
最近、良いことが続いたから。自分がドワーフで無くなった様な、そんな錯覚に陥っていたのかもしれない。
ならば、次からは。身の丈にあった自分でいようと、そう思うけれど。その反省を活かすべき場所は、私には未だ思いつかなかった。




