048 忘れ事
夜。箆を握る手に、痛みを感じながら、夕餉を作る。
ジェイムズの、この旅の主食は、ポテト・フレークと乾燥パスタ。パスタはそれ程の量を持ってきていないから、基本はじゃがいも料理ばかり。
「結構疲れるな……」
ポテトフレークを、お湯と混ぜ合わせながら、小言を呟いて。
確かに、一番大きい鍋一杯のマッシュポテト。翌日の分も作るからだけれど、かき混ぜるだけでも一苦労だろう。
「ベーコン、入れてしまおうか」
この旅で、唯一の肉気。
あんまり考えないで食べてしまえば、すぐになくなってしまうけれど。塩と胡椒だけのマッシュポテトは、少々味気ないだろう。
「うん。そうしよう」
そう言って、ザックから、一ブロック、ベーコンを取り出す。一食ごとに、小分けにしてあるから、まるまる使っても問題ない。
一度、火にナイフを翳して。ベーコンをスライスしていく。
そうして混ぜ合わせれば――うん。脂の香りが、ポテトに移って、いい具合だ……
「このままでも、良いかも」
そう思いつつ、塩と胡椒を、上から掛ける。本当は、ミルで削りたいところだけれど。嵩張るから持ってこれなかった。
箆から、マッシュポテトを少し手に移して、味見する。
「ああ――」
疲れた体に、炭水化物はよく染みる――
一先ず、今日食べる分だけ別のコッヘルに移して、蓋をして。残りは、明日の朝と昼の分。
「旨いや――」
正直、出来の良い料理では、無いけれど。其れでも、十分。
滑らかなポテトから、滲み出る旨味は、口に入れる度に食欲を増させる。
「珈琲も飲もうかな……」
ストーブに、新しくコッヘルを乗せて、お湯を沸かす。
食後のコーヒーを飲みながら、トポと日記に文字を書き足す瞬間は、どれ程幸せであろうか。
ふ――
包を開けた瞬間から香る、珈琲の匂いに鼻を擽られつつ、期待を深めていく。
そして、もう一つ。ザックの奥に有る其れに気付いて――
「――あ。写真……」
一日目、まるきり撮り忘れた事に気付いて。
「明日は、気を付けよう……」
そう言って。忘れないよう、シューズと同じ場所に、仕舞い直した。
――翌、早朝。懐中時計を見て、目覚めるには早すぎたかと、少し後悔するけれど。
日はもう出てる。空気も乾いているし、露も降りていない。朝食を食べれば、すぐにでも登り始められるだろう。
「良い、日和だ」
自分には、ツキが有るのではないかと、そう思わせるぐらい。外れることも多い、ラジオの転機予報が当たっただけとも言うか。
コッヘルの中身、残りのマッシュポテトを浚いつつ、岩まで持っていく分の荷を、サブのザックに纏めて。
「――指皮、大分戻ったな」
まだまだ、穴の開いたところは薄いままだけれど。其れでも、触れた時に、硬さが出始めている。厚すぎないし、丁度良いだろう。此れなら、岩肌に弾かれる事も無い筈。
「また、登った事のないところから回ろうか」
昨日、かなり登ったとは言え。其れでもまだ、未登の課題は残っている――分かっている限りでも。
「――写真、考えなきゃな」
今日登るものは、一通りカメラに収めるつもりだ。でも正直、上手い撮り方なんて理解らない。使うのも初めてな訳だから。
数があると言っても、フィルムにも限りがある。良い画が映る事を祈りながら。
「よし――」
今日も、岩へと向かう。




