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045 カマルゴ

 カマルゴの山中。尾根筋を歩み進める。只管(ひたすら)に、只管に。


 「暑いな……」


 ジェイムズが声を漏らす。

 この頃は、気温も大分上がってきて、空気も乾燥してきた。何時も、という訳では無いけれど。

 今日の日差しは、岩肌を良く乾かしてくれるだろう。所以(ゆえん)、絶好のクライミング日和である。


 「チョーク、持ってきて良かったかな……」


 チョーク。炭酸マグネシウムの粉末。滑り止め。

 手汗で滑るとデヴィッドが言うから、良いのは無いかと探して、使い始めた。普段は、岩が汚れるから余り使わないけれど。今日みたいに、暑い時分にはそうは言ってられない。特に、繊細なスラブクライミングならば尚の事。


 ――まあ、其れにしても。


 漸く、岩峰帯の下に来て。落ち葉の積もる腐葉土に足を取られながら、思うのは。


 「暑い。重い。……キツい」


 テント。シュラフ。食糧。その他諸々。単純に重い荷は、ジェイムズに疲労を与える。


 「――こんなんじゃ、登れるか理解らないや」


 此れくらいでへばっていては、チェスターに笑われてしまうかもだけれど。辛いものは辛くて。

 それでも、嫌いじゃあ無い。軋みを上げる体を、強引に前へ進めて。整備などされちゃあいない、急な尾根を歩き続ける。


 「早く、着かないかな……」 


 嫌な事が、早く終わってほしいとか、そういうことじゃ無くて。

 下半身の肉が悲鳴を上げる度に。上半身の肉まで、俺も俺もと、求め始める。

 決してマゾヒズムじゃあ無いと思う。でも、肉体への負荷は、即ち成長へと繋がるから。其処へ歓びを感じるのも、可笑しいことじゃ無い筈なのだ。




 其れから、暫く。泣き言を言いながらも。しっかりと、歩き進めて!


 「はあ、はあ。着いた……!」


 着いた。目当てのボルダーエリア!

 土の上に無様に転がって、体を休める。服は当然汚れるけれど。気にすることは無い。どうせこの後も、転げてばかりだろうから。

 そして、見上げる。


 「やっぱ、いいな……」


 視線の先は、地面に横たわる、ボルダー達。ジェイムズの視界に収まる範囲の、ずっと先まであった筈。


 「うん、転がってる場合じゃないや」


 うかうかしてると、日暮れまであっという間だ。時間は有るけれど、無限では無い。

 食事、柔軟、準備運動(アップ)。よく考えてやらなければ。


 「先ずは、腹ごしらえだね」


 そう言って、袋に入ったバケットを取り出す。ジェイムズの好物だけれど、嵩張(かさば)るから、此れだけしか持ってきていない。

 それと、ジャーキーを合わせて齧りつつ。トポを眺める。


 「何処から登ろうか――」


 アップで出来る程度の難度でも、岩の頂に至るラインには、美しいものが幾つも有る。

 目移りしながら、目星を着けて。


 ――独りぼっちの、クライミング・トリップ。だけれど、寂しさは、微塵も無い。

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