第11話:俺、初の死に戻りです。
あの悪夢の様な夜の次の日、俺は姉貴の店に呼ばれていた。短剣が完成したので取りに来て欲しいそうだ。
「おーい姉貴、居るかー?」
「居るぞー!少しそこで待ってろ!」
姉貴の声が店の奥から聞こえてくる。どうやら居るらしい。少し待つと姉貴が奥から出てきた。
「待たせたな。ほら、これだ」
そう言って渡されたのは所謂アンカライトナイフ(山人刀)の様な短剣だった。鈍色の刃と黒い柄のなかなかに格好いいデザインだ。
〈鉄鋼のアンカライトナイフ:短剣〉
・攻撃:26
・アビリティ:DEX上昇[微]
「本当は銀にしたかったんだが、生憎手持ちがなくてな」
「いやいや、十分嬉しいよ。そもそもタダなんて本当にいいのか?今更だが」
「いいんだ。その代わりこれからは贔屓にしてくれよ」
「ん、分かった」
「これからはどうするんだ?」
「ん~………」
どうするかなぁ。森林のフィールドボスに挑むか、まだスキル強化をするか………
「姉貴はどっちがいいと思う?」
「うん?そもそも私はルナの強さ自体を知らないんだがな」
「あ、そっか………」
「なんならこれから一緒に探索するか?これでも中堅プレイヤーだぞ?4番目の街までは行けるしな。この街にいるのはただ単に初心者向けの装備を売っているだけだし」
「姉貴がいれば心強いけど………なんか頼りすぎるのもなぁ」
結局俺はもう少しスキルを鍛えてから挑む事にした。
「それじゃ、短剣ありがと、姉貴。また後でー」
「ん、頑張れよ」
▼△▼△▼△
「ハッ!【パワーエッジ】!」
「グギャッ!?」
また一匹ゴブリンを倒し、一息つく。今は森林でLvの低いスキルを上げている所だ。今の俺のスキルは―――
・長弓術Lv25・短剣術Lv12・体術Lv15・隠密Lv8・索敵Lv15・疾走Lv23・超回復Lv1・闇魔法Lv12・錬金術Lv8・料理Lv1・歌唱Lv12
となっている。
錬金術は森林でも同じ素材が手に入るので、度々丸薬系を作っていたりする。
疾走はまあ、移動の時に大抵が走りなので必然的に上がるだろう。
闇魔法と歌唱はあの同時発動が思いのほか効率がいいのでちょくちょく歌っていた。まあ、恥ずかしいので夜の草原(夜の草原は殆ど人がいない。少し奥に進めば一人になれた)で、こっそりとだが。
索敵や隠密も順調に育っているようだが、相変わらず超回復だけはLvが上がらなかった。料理はまだやっていない。
「はー、姉貴からナイフ受け取って、午前からずっと狩ってるけど、なかなか順調じゃないか。そこまで死にスキルって気がしないなぁ」
まあ、姉貴の装備のお陰もあるが、それを差し引いても結構いけそうだった。
「そろそろボスいってみるか…?昼間なら虫も出ないし、試すだけ試してみよう………」
ナイフをレッグホルダーに仕舞い、弓を取り出す。隠密も使いながら森林の奥に慎重に進んで行く。しばらくすると、真ん中に巨大な木が生えた半径20mぐらいのポッカリと開けた広場に出た。
「周りに敵がいない………休憩場所、か?」
とりあえず、ここに休憩場所があるなら多分もう少しでボスのいる所にたどり着くだろう。少し休憩していく事にする。
不意に、装備の耐久度などを見て確かめようとしているとギチギチ、と何かが軋むような音がした。
「………何だ?」
とりあえず隠密とダークネスを使い、広場の周りの樹上に隠れる。そして索敵を使うと、なんと広場の中心の巨木から反応があった。まさか………ここはボスがいる場所?トレント系のボスなのか?休憩場所どころか敵陣真っ只中だと?
そして次の瞬間、
「キシャアアア!!!」
―――巨木を内側から食い破り、中から2mぐらいはありそうな巨大なクワガタが出てきた。
「うわぁぁぁっ!!!?」
『アトラ森林の F ボス、ヒュージインセクトとエンカウントしましたB B Fを展開します』
そんなログが流れ、広場は虹色のドームに包まれた。BBFとは敵の雑魚モンスターが入ってこれない代わりに、プレイヤーもボスを討伐するか死ぬか、又は専用の脱出アイテムを使うかしないと出られない、まさに決戦場所の様な物だ。
だがそんな事はどうでもいい。今は、この状況をどうするかだ。悲鳴を上げてしまったのが原因か、ヒュージインセクトはこちらを既に発見していた。しかし端にいたせいでBBFの壁はすぐ真後ろ。逃げ場がないのだ。次の瞬間、ヒュージインセクトは羽を広げ超低空を飛びながら高速でこっちに向かってきていた。
「うわぁぁあああん!!!こっち来るなぁ!【パラライズアロー】!」
ひぃいい!?全然止まらないっ!!うわぁぁあああ!!!
「キシャアアア!!!」
―――俺は呆気なく死に戻った。
ルナ君に最強の敵が出現。死に戻ってしまいました。
ルナ「あんなのと戦いたくない!」
作者「僕も書いてて想像したら吐き気覚えたよ………」




