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初恋オムライス

作者: 川葉麻美

お初の小説失礼します!m(_ _)m

 ―――この世に神様なんているのでしょうか。人類を創ったのは神様だ、なんて言い伝えられているけど、人間に能力を与えたのもやっぱり神様ですか?

 もし、そうなのならば。


「不平等だー! あたしだけひいきなんだー!!」

「どうした? うん、ひいきの意味違うぞ」

 ある民家の台所で叫び声がこだまする。悲痛な表情で叫ぶ春菜の手には、白い卵が握られていた。

「ほらほら、泣いてないで早く割りなさい」

 春菜の隣に立つ父が促す。まるで初めて割るような言いぐさだが、流し台の三角コーナーにはすでに殻があふれかえっている。これはゴミ処理が後で面倒だな、と父は心で呟いた。

「どうせ……、どうせあたしだけ出来が悪いんだよ……。いっつもテストは赤点だし、走るのだって苦手で体育祭ではいつも笑い者だし、視力も悪いしハンドボール投げの記録はもっと悪いし、玉子も満足に焼けないしーー!!」

 と、落ち着きのある父とは裏腹に今もなお叫ぶ春菜。

「何言ってんだよ春菜。赤点は自分のせいだろうが」

「うぐっ……! でも玉子を焼けないのはおかしくない? あたしもう高2だよ? どうして毎回焦げる……」

 そんなことをボヤきながらも、春菜は手早くかき混ぜていった。もはや溶き卵を作るのにおいてはプロになったのかもしれない。

「ほらほら、大丈夫! きっと今回は大丈夫!」

「………。」

「大丈夫ー! 大丈夫ー! 大じょ……。あ、」

「お父さんーー!」

 裏返した玉子の色が、苦い色に変わっていた。

「……どんまい」



 年明けに、クラスメイトの少人数で初詣に行ったことがある。

 いつもなら地味な女子の私なんかにクラスの誘いは来ないけれど、仲のいい友達が律儀に誘ってくれた。私が密かに恋心を抱いている男の子がメンバーの中にいたからだ。

 もう2度とないことかもしれない。だから、ダメでもともと、今年初の挫折?と思いつつも告げてみた。

 結果、挫折にはならず。

「ねえ、本でも読む?」

「いい」

「テレビでも見たら?」

「いい」

「あ、何か飲みたい?」

「……さっきからしつこいぞ春菜。ほっといてくれて全然いいんだけど」

 灯磨は呆れた顔で呟いた。

「えー、だってせっかく灯磨がうちに来たんだし! 今日はバレンタインだよー!」

 2月14日、男女相愛の日である。春菜にとっての初恋であり、初彼氏である灯磨は彼女の家に来ていた。

 春菜の手料理を食べるためだ。

「なんかして遊ぼうよー」

「もう面倒くせえ! さっさと台所に行ってくれないかなあ! 俺、そのために来たんだけど!」

 少し投げやりな灯磨の言葉に、膨れっ面で春菜は返した。

「灯磨がチョコレート大丈夫だったらいいのに……」

 彼はチョコレート嫌いの男子である。

「ああもう、分かったよ俺も手伝うから……。ほら、何すればいい?」

「いいです座っててー」

 心配そうな表情の灯磨を残して、春菜は勇ましく台所へと向かっていったのだった。



「で、どうだった?」

 その日の夜、食器洗いをしながら父が聞いた。親としては娘の恋愛話を聞くのは心持ちがいいことではないが、何しろ気になってしょうがない。

 当の本人が、さっきからニヤけっぱなしだ。

「どうだったもこうも。……えへへへへ、ふふふふふ」

「うわあ、拭いてくれるのはいいけど落とすなよ?」

 はいはい、と返事はするものの、心ここにあらずといった状態だ。

「その様子じゃ上手くいったみたいだな。良かったじゃないか? 結局昨日も最後まで成功しなかったのに」

 今日のためだけに毎日オムライスを練習していた春菜。昨日はやっと無事に玉子を焼きあげる事に成功したが、肝心のライスを包むときにボロボロになってしまっていた。それでも、すごい進歩だど大喜びしていたのだ。

 しかし、春菜は「そんなそんなー」と笑いながら否定した。

「上手くなんていってないし」

「は?」

「だから、作ったけど食べてもらえるようなレベルじゃなくてさー」

 まるで他人事のように話す春菜。人の失敗をバカにするかのようだ。

「え? じゃあなんでそんなニヤニヤしてるの? ……食べてもらったんだよね?」

 最後の食器を拭き終わり、春菜は頬に手を添えて夢見る表情で語り始めた。

「最初は順調に進んでいってたんだよ? でも昨日みたいに破れちゃってさ。ぬあーって嘆いてたらね、台所に灯磨が来て! なんと! なんとなんと!」

「なん、と……?」

 父は固唾を飲んだ。

「一緒にオムライス作ったんだよー!!」

「……。」

 その時のことを思い出したのか、言い終わるなり頬を赤らめる春菜。頭を前にぶんぶん振ったりなんかして、それはもう赤べこの様だった。

 そんな娘に、父が一言。

「へえ」

「うっわ、なんですかその単調な声はー。聞いてよもう! 灯磨のね! ……」

 腕まくりの時の血管が云々、フライパンさばきが格好良かった云々、手が大きくて云々、台所に立つ男の人は云々。

 娘に彼氏の格好良さを力説される父親って一体……。俺も一応教えたんだけどなあ。なんの仕打ちでしょうか、これ。

 と、言いたいことは山ほどあるが一言。

「なあ、春菜」

「ん? なになに?」

 娘に負けないほどの輝かしい笑顔で、

「つまりさ、女のくせに男に手伝ってもらったんだよね、たかがオムライスごときを」

「え。う、うん……」

「つまり失敗、だよねえ?」

 ぴゅっ、と毒を吐いた。



 ある民家の台所で叫び声がこだまする。

 悲痛な表情で叫ぶ春菜の手には、新しい幸せが握られていた。

 ……たぶん。

お粗末様でした!

読んでいただきありがとうございました(^^)

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