第四十一話
誰だろう。
そこで、ピンときた。
横山さんの旦那さんとか?
多分、その考えで合っているだろう。
だとしたらなんで?
ていうか、今「死神」って言わなかったっけ?
「へへ…来たな。でも、」
男はゆらりと揺れながら話す。少し怖い。奥さんを失って、気が動転しているのだろうか。
「亜紀子は行かせない…空っぽの墓になんてさせないからな」
空っぽの墓?
ここで、死神さんが口を開いた。
「なんだかよく分からないけど、予定通り魂は送り出させてもらうよ。悪いけど、こればっかりはちゃんとやらないとだめなんだ」
その通りだ。
だけど、そう言われても納得できないのは仕方ないことかもしれない。
なんで死神のことを知ってるかは聞いてみないとわからないが、家族の魂が手の届かないところに連れて行かれるのは悲しいだろう。
いつかあたしも、親が死んだら同じような気持ちになるんだ…。そのことに耐えられるだろうか。
でもあたしは助手だ。
ここはやらないと。
死んでしまった者の魂は何としてでも導く。
「悪いですけど…そこを、どいてください。
魂は、送らないといけないものだから…」
こうしか言えない。
規則だからと冷たく突っぱねているようで居心地が悪い。
男はクマの濃い目をぎょろりと向けて、あたしをじっと見た。
その迫力にたじろぐ。やばい、負けそう…
死神さんはあたしの肩を叩いて、「やるよ」とだけ言った。
天国の鍵を取り出す。
眩しく白く光る門が現れた。
「させるか……絶対行かせん」
「うわっ!」
いきなり男があたしのほうに突進して来た。
なにか柔道とかの格闘技でもやっていたのだろうか、筋肉質で体格のいい男は、あたしをいとも簡単に突き飛ばした。
ぐるんと視界が回る。
一瞬のことだった。あたしには大分長く感じた。まわりの墓石が月明かりで光っているのも、風で木の葉がざあっとゆれるのも見えた。
そして、あたしに向かって手を延ばした死神さんも。
手は届かなかった。
白い門に吸い込まれる。
まばゆい光で何にも見えない。目が見えなくなったみたいだ。
「んっ……」
腰が痛い。
「こちら側」に着地したときしたたか打ってしまった。
「まさか、じゃなくて絶対…ここ、天国…」
つまりはあの世だ。
とんでもない所に来てしまった。




