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第三十五話

グリムの目には、いつもの軽さはなかった。

かわりにあるのは、見たこともない鋭さ。

墓地の隅に追いよられて、身動きが取れない。

ぼんやりとした街灯に照らされたグリムの淡い金髪が白く光っている。

「あの…」

あたしの声なんて聞いてないみたいだ。

「今なつかチャン、謹慎中の死神と契約解けてるんだよ」

え…。

そんなの、聞いてない!

「そんな驚かないでよ。一時的にだよ。謹慎が終わったら元に戻るって」

「もーびっくりした…!」

「でもさぁ」

グリムがまた一歩あたしに近寄ってきた。

びくっとなる。

「今はオレと契約してるんだよ、仮だけどねー」

つまり、一週間だけ死神さんとグリムを入れ替えたってことか。

なんで、こんなことをしゃべってるの?

「この契約、仮ってなってるけど、実はカンタンに本契約に出来ちゃうんだよね~」

「本契約…?」

「そっ。オレとなつかチャン、ずーっとやってくってこと!」

「そんな、困るって!」

やられた。

さっきから何なのかわからなかったけど、こういうことか。

そんなの絶対、お断りだ。

「…いいかげんに、して」

精一杯にらんでみる。効果はないようだけど。

「もうオレさ、身勝手な人間ヤなんだぁ。なつかチャンみたいなコがいい」

「それだけはできない」

最大限、毅然とした態度で言う。

しかし、いくらきっぱり言ったところで、引きそうにないのは分かっていた。

このままじゃまずい。

何を思ったのか、あたしは走り出した。多分、逃げるために。じっとしていられなかった。

もちろん、グリムはあたしが逃げたところで一瞬で追いつける。無駄だった。

あたしの前に回り込んで、捕まえたという風ににっと笑う。

「残念だけど、拒否権ないから~」

グリムは鎌をスッと取り出した。

契約されてしまう。

「ちょーっと時間かかるから、おとなしく待っててねー」

くそ。

死神さんの謹慎が解けるのは明日だ。

呼んだって助けにはきてくれない。

詰んだーーーー。







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