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第二十八話

「ただいまー」

あれから三週間。

十一月に入った。

もうすっかり寒くなっている。

「おかえりー」

「おかえり」

「ん?」

一人多くない?誰か来てるのかな、珍しい。

母さんのあとに続いてもう一人の声が聞こえた。

どっかで聞いたことあるような…。

毒々しいハスキーボイス。あんまりいないような声だ。誰だったっけ…。

でもあたしが思い出す前に、その人物は奥からやってきた。

「大きくなったねぇ、真千子ちゃん」

「叔母さんっっ!?」

「ふふふ…びぃっくりしたでしょう…」

ぶ、不気味…。

この人は、母さんの姉。つまりあたしの叔母さんだ。

普通の叔母さんではない。

少し、というかかなり変わっている。

職業は霊媒師だ。あたしに言わせれば、インチキ霊媒師だけど。

「叔母さん、修行は終わったの?てか、どこ行ってたの!?」

「日本中を渡り歩いて、霊に悩まされる人々を助けてきたのよ」

まただ。

口を開けば霊のことばかり。

あたしは苦笑いさえできない。

母さんもやれやれと首を振った。

「叔母さん、しばらくお世話になるからよろしくねぇ、真千子ちゃん…」

「は、はい…」

冗談じゃない。平和が崩れる!!

この狭い家で、叔母さんと共同生活………

うそでしょ?こんなのってあり?

昔も、叔母さんがうちに泊まったことはあった。

けっこうなトラウマだった。

なんせ、ここは墓地のなんとかの方角にあるから通り道がうんたらかんたら、打ち水をしろとか、塩をもらないと何かが住み着くとか、あたしは小さかったから本気にして、怖くて夜布団の中で泣いていた。叔母さんなんて二度ときて欲しくないと思った。本気で。

さすがに今は本気にしないというか、助手の仕事をしてそういうものに免疫もついたし、仕組みも知っているので怖くはないけど。



終始顔が引きつっていた晩御飯を終えた。

まだ7時だ。うう、夜が長い。

「そうだ!母さん、何か買い物ない?言ってきたげるよ」

「ほんとに?ちょうど行こうと思ってた、助かる~」

よっしゃ。これでここから抜け出せる!

一時間は使ってやろう。


頼まれたものを買って、雑誌コーナーでたっぷり立ち読みしてから、ゆっくりした足取りで帰る。

夜空は澄み切っていて、星がよく見える。

いい気分転換になった。

まあ叔母さんはあんまり喋る方じゃないし、勉強で忙しいとでも言っておけばあまり問題はない…よね。

曲がり角にさしかかったとき、声をかけられた。

「アルマ!」

「こんばんは!真千子久しぶりね。元気にしてた?」

「うん!」

うわあ、懐かしい。

現れた巻き毛の美女は、死神だ。人間にはないような妖しさがある。

「散歩してたらたまたま真千子を見つけたの。アタシこのへん気に入ってるのよ」

それから他愛ない話をして、あたしはアパートに戻った。

あたしとアルマは友達なのかな。

はじめは殺されかけてたし、やや複雑だけどあたしはアルマを良く思っている。

素直だし、いいお姉さんって感じだ。

はじめての死神の友達。

死神さんは友達というより…なんだろう?

「おかえりぃ…真千子ちゃん」

「ひっ」

しまった、思わずひっとかいってしまった。

いやでもびっくりするって!向こうが悪い!

「た、ただいまです…」

行っていいよね?冷蔵庫に入れるものあるし…

「誰と話してたの?」

「いや、誰とも話してないけど」

何を言われてるのか分からなかった。心当たりがない。

まさかアルマのこととは思ってもいなかった。

「私には、うーっすらとしか見えなかったけどねぇ…窓から見てたよ、楽しそうにしてたの…」

げっ、窓から!?

アルマのことだ。

まずい、はっきりとではないけど死神まで見えるなんて。

叔母さん、インチキじゃなかったの?

どうしよう。詰まっちゃいけない。認めるようなものだ。

でも、早く早くと思えば思うほど、いい言い訳が思いつかない。

「よくない霊気を感じた…冷たい冷たいものよ。あれは何なの?」

「あ、あれは……」

死神、なんて言えないよ。ますます追及されそう。

叔母さんには言いたくない。自分だけの秘密にしておきたいのに。

「さぁっすが、あたしの姪ね!」

「はあっ!?」

いきなり叔母さんが満面の笑みを浮かべて、あたしの肩を両手でポンポンと叩いた。

「いいわよぉ、霊の一人や二人手なずけておかなくちゃあ!やるじゃない、昔はピーピー泣いてたくせに!」

「手なずけるって…」

さっきまでの緊張感はどこへ行った。

でも、助かった??

とりあえず喜んでいいのかな…。

「あ、ありがとう…」




寝る時間になった。

…なんで叔母さんが隣で寝てるんだろう。

スペースがあるのはあたしの部屋だけだからって…こんなことになるなら足の踏み場もないほど散らかしとけば良かった。

これは困った。

死神さんのことがばれるかもしれない。

叔母さんはよく眠っている。でも目を覚ましたときに隣が空っぽだったら気づくだろう。

第一、死神の冷気で気づくかも知れない。

「うわ、あと10分だよ…」


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