第一話
暑い夏の日だった。
私は学校で育てていた朝顔の大きな鉢を抱えて家に帰っていた。
そうだ、近道しよう。
怖がりだから昼でも墓地なんか通らない。
でもあまりにも喉が乾いていて、そういうときはちょっと怖くても行ってしまうものらしい。
自分のアパートの裏の墓地を通ることにした。
麦茶、麦茶、、、
早くつきたい。
その時だった。
視界の端で黒いゴミ袋が動いた。
いや、ゴミ袋じゃない。
心臓が止まった。
目の前に真っ黒いローブを着た人が立ちはだかった。
顔はフードに隠れていて見えない。
そして、大きな大きな鎌を持っていた。
「ひっ......」
死神だと思った。
だって、そうとしか言えない。
あまりにショッキングな映像で、知らない間に後ろにこけていた。声が出せない。
何かしゃべったとたん命をもっていかれそう。
お守りのように朝顔の鉢を抱きしめる。必死でうつむいていた。寒い。涙も出てきた。
ジャリっと足音が聞こえた。
近づいてる!
いやだ、いやだ来ないで!!
「あー、ごめんごめん」
ボスっと頭に手が置かれた。
ん?
どういうことだろう。
「驚かせたみたいで」
なんだ、普通の人みたいだ。
でもまだ顔があげられない。
真っ黒い映像が目に焼き付いていて怖かった。
「本当ごめんね。でも大丈夫だから」
おそるおそる顔を上げていった。
声があまりにも優しかったからだ。
指の隙間から片目で見てみると、綺麗な男の人がいた。
ドキッとした。
なんだか人間じゃないみたいなほど綺麗な顔立ちで、じっと見つめてしまった。
見過ぎていることに気づいて慌てて目を逸らすと、あの鎌が目に入った。
「し、しにがみ?」
「そうだよ」
それっきり。
その人はいきなり目の前からいなくなった。
それ以来全く見かけない。
そう、今日まで見かけなかった。