第参話 怪盗現る
遅くなりますた
街を出発してから六日目の朝。
俺達は目的としていたの街、イールへと到着していた。
この五日間、俺は夜になるとリズベットの稽古をしていた。
まぁ感想としては、リズベットの学習能力の高さには驚いた。
たった五日しか稽古をしていないにもかかわらず、だいぶ基本が出来てきている。
最初に比べれば、マシにはなっただろう。
ただ今のままだと、実戦になると不安が残る。
「海人よ、どうする?」
「どうするとは?」
「金」
「………」
そう、俺達は今、金欠なのである。
前回の依頼で稼いだ金は、ほとんど食費に注ぎ込んだ。
「仕方ねぇ。着いたばっかりだが、ギルドで稼ぐか?」
「うーん、仕方ないよね、こればっかりは」
「よーし、そうと決まったら、さっさと行こうぜ!!」
こうして、俺達はギルドに向かい、依頼を探すことになった。
「ふむふむ、なかなか手頃な依頼がありませんな、海人さんよ」
「そうだな……」
「あ、これとかどう?いいんじゃない?」
リズベットが指差したのは、緊急の怪盗討伐依頼だった。
決行は今夜。
宿を一日分とってくれる。
「こ、これで行こうぜ、海人!」
「そうだな、これでいこう」
「じゃ、私が依頼してくるね」
リズベットは依頼を受注するカウンターへ、一ノ瀬は俺の横で「タダ宿、タダ宿!」と言いながら小躍りしている。
「受注してきたよー」
「じゃあ、依頼主の所に行くぞ」
「おっしゃぁぁ!タダ宿!」
「………まだ言ってんのかよ」
俺達は依頼主の元へ向かった。
依頼主は街の教会の教主様だった。
「おぉ、あなた方が依頼を受けてくださったのか」
「あ、はい」
返事をしたリズベットの腰に、教主様が目をやった。
「おぉ、あなたは勇者様でしたか……」
「む……」
明らかにテンションダウンしている教主様。
「お、落ち着け、リズ……」
「わ、わかってるわよ……」
「まぁ、安心しろよ。受けた以上、責任もって達成してやるからよ」
俺の言葉に渋々といった感じではあるが、教主様が口を開いた。
「では、説明させていただきますぞ」
教主様の説明をまとめるとこんな感じだ。
一、最近、怪盗が出てきている
二、犯人は一人。
三、犯行予告をしてから、盗み出すとのこと。
四、その犯人は少女らしい。
五、今回、教会のお堂にある天使像に飾られている『天使の涙』という宝石が狙われている。
六、目的は宝石を守ること、できればその犯人を捕らえること。
ざっとこんなもん。
「わかりました!」
説明を聞き終えたリズベットは、途端にやる気を全開にした。
「では、教会のベッドをお使いになってください」
俺達は教主様に連れられお堂を離れ、教会の別室に行くことに。
そこにはベッドが五つ並べられていた。
「時間になりましたら、呼びに来ますので」
教主様は部屋のドアを閉め、去って行った。
一ノ瀬はベッドに倒れこみながら、ぼやいた。
「なんだよ、宿じゃないのね」
「まぁ、そんなオイシイ話がそうそうあるわけないよね」
リズベットもベットに倒れこんだ。
そして、二人ともたった数秒で眠ってしまった。
「おいおい……」
どうすんだよ。
作戦とか立てたかったんだが。
「はぁ……」
なんかこういう役回りが多いな。
仕方ねぇ、適当な作戦を立てとくか。
深夜。
教主様に呼ばれて、俺達はお堂に陣取っていた。
「さて、軽く説明しとくぞ」
「「何を?」」
「………………」
ホントこいつ等って……………。
「作戦だよ、作戦」
「「あぁ!」」
「まったく……いいか、一ノ瀬は像付近で、リズベットはドア付近で待機。犯人が現れ次第、俺が押さえに行く」
「了解」
「わかったわ」
二人は言われた通り、待機場所に向かって行った。
俺は柱の陰に身を隠し、犯人が来るのを待った。
しばらくの間、お堂の中は静寂に包まれていた。
しかし、突然。
ギィィィ………
教会の入り口が少しだけ開いた。
「……」
『来たか』と、思っていたら。
カンッ……プシューーー……
扉の隙間から投げ込まれた缶から煙が出始めた。
「くっ……」
俺は咄嗟に口と鼻を押さえ、煙を吸い込まないようにした。
辺りを見渡すと、リズベットと一ノ瀬は倒れていた。
(まずい……!)
俺は近かった一ノ瀬に駆け寄った。
「ぐぅ………」
一ノ瀬は寝ていた。
とりあえず蹴っておき、どうにか煙をなくすために近くの窓から開けて行った。
四つ目の窓を開けた所で、だいぶ煙が外に逃げて行った。
「ふぅ……」
俺は口から手を離した。
その時、教会の入り口から声がした。
「へぇ、無事な人がいるんだ」
「!」
肌の浅黒い怪盗がそこにいた。
咄嗟に像の近くに駆け寄った。
「おぉ、すごいねぇ!」
「黙っとけよ」
腰から剣を抜き、力を抜いた。
「およ、やる気かな?」
「ヘラヘラとしすぎだろ」
「それが私だからね」
その瞬間、怪盗の手から何かが飛んできた。
それを切り裂くと、ヒラヒラと紙が舞っていた。
「なんだこれ……」
「あぁ、私『紙使い』だからね」
「『紙使い』ねぇ……」
『紙使い』とは紙に魔力を流し込み、自由自在に操ることができる奴、だったか。
「とりゃ!」
今度は幾つもの紙を鞭のように連ねて、振るってきた。
「くっ!」
近づいてくるそれを、しゃがんで避けた。
が、戻って行く鞭の先には、『天使の涙』が盗られていた。
「おっけー、完遂だぃ!」
「ちっ!」
「じゃねー」
怪盗は颯爽と歩き去ろうとしている。
―仕方ねぇ、か
こんな所で力使いたくなかったが、そうこう言ってられない。
「八咫烏、行くぞ」
「?」
振り返った怪盗に向けて、飛び出した。
「え!?」
残像を残して。
驚いている怪盗の手から『天使の涙』を奪い返し、刀を振るった。
「きゃっ!?」
怪盗は焦って鞭を盾に変えたためか、刀の衝撃までは受け止めきれず吹き飛ばされた。
「いったーい!」
俺は『天使の涙』を元あった場所に戻し、怪盗を見据えた。
「もう無駄だぜ」
「無駄かどうか、試してあげる!」
怪盗は再び紙を鞭に変え、振るおうと腕を振り上げた。
「遅い!」
腕が振り下ろされる前に、その腕を掴んで止めた。
「う、嘘!?」
そのまま足をひっかけ、床に押し倒した。
「きゃっ…………もう、乱暴なんだから」
「うるさいぞ」
俺は立ち上がりながら、刀を突きつけた。
「さて、どうするか」
「こうするのよん」
途端、鞭だった紙が銃弾のようになり、次々に飛んできた。
「ちっ」
俺はバックステップで避け、その間に怪盗は立ち上がった。
「私、あなたに恋しちゃった、てへっ」
「はぁ?」
「あなたが初めてよ、私に盗みを失敗させるのは」
笑いながら怪盗はそう言った。
「もうその宝石なんてどうでもいいわ」
「そりゃありがたい」
「今はあなたの心が欲しいわ」
「…………」
「絶対盗っちゃうからね!」
俺が呆然としていたら、いつの間にか怪盗は走り去っていた。
「………どうなってんだ、あいつ」
結局、『天使の涙』は盗まれることなく、依頼は完遂された。
しかし、俺的には何かマズいことになったかもしれないが。




