第弐話 出発
俺たちは勇者を引き連れて、街まで戻ってきていた。
今は街の広場にいる。
「じゃ、改めて自己紹介しようぜ」
「そうね!」
「…………」
やる気がないのは俺だけである。
「じゃ、俺からだな。俺は一ノ瀬だ。よろしく!」
「私はリズベット・エーリッヒよ。リズベットって呼んでね。よろしくね、二人とも!」
「…………土岐藤海人だ」
「どうした、海人。元気ねぇな」
誰のせいだよ。
「二人って名前から推測するに、大和出身?」
「あぁ、そうだぜ」
『大和』ってのは、俺達が今いる大陸、『リスレー大陸』の南に位置する島国の事だ。
ちなみに、他にもリスレー大陸の次に栄えている『ディバール大陸』や、魔王城がある『バウジェン大陸』がある。
俺達二人は六日前に大和からリスレー大陸に渡ってきたばかりである。
「一ノ瀬はなんで海人みたいに下の名前が無いの?」
……コイツ、いきなり下の名前で呼び捨てかよ。
「あぁ、それね。俺ん家がさ、全員『忍』なんだよ。昔からのしきたりらしくてさ、なんつーの、コードネーム?みたいな感じ」
「へぇー、じゃあ、家族全員『一ノ瀬』なの?」
「いや、家族によって名前は違うぞ」
「そうなんだ」
気分が沈んでいる俺を余所に、二人はどんどん盛り上がっていた。
「……………で、どうすんだ?これから」
俺の唐突な言葉が理解できなかったのか、二人は首をかしげた。
「……だから、日が高い今のうちにこの街を出発するか、ここで一泊するかどうかだよ」
「あぁ、そうだな、それを決めとこう。じゃ、リズ、よろしく」
「り、リズ!?」
リズベットは一ノ瀬の呼びかけに突然動揺し始めた。
「ん、どうした?」
「り、リズって……ってそれより、なんで私が決めるの!?」
「いや、だって……ねぇ」
一ノ瀬がこちらに視線を向けた。
仕方なく、一ノ瀬の言葉を引き継ぐ。
「………だって、リズベットは勇者、俺達はそのお供。意味、分かるな?」
「…………orz」
突然両手をついて倒れこんだ。
「そ、そうだった……」
しばらくそのまま倒れていたリズベットは、ブツブツと何かを呟いていた。
そして、五分後。
復活したリズベットが出した答えは。
「次の街に行こう、かな?」
「よし、決まったな!」
「じゃ、さっさと行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
こうして、俺達は次の街に向けて出発したのだった。
街を出てから五時間後、日が落ちて来た。
俺達は今、雑木林の中にいる。
「そろそろ野営の準備するぞ」
「了解」
「わ、わかったわ」
リズベットはぎこちない手つきでテントを組み立てていた。
「………リズベット、お前まさかとは思うけど」
「ギクッ!」
「口で言うか、普通……。じゃなくて、野営初めてか?」
俺の一言で、リズベットは固まってしまった。
「……やっぱりな」
「ん、どしたん?」
一ノ瀬がそこにやってきたので、事情説明。
「ってわけだ」
「なるほどー、ま、誰にだって初めてはあるさ!気にすんな!」
「うぅ……」
一ノ瀬の元気づけの言葉に、涙目になったリズベット。
……なんでコイツこんなに泣くんだ?
「………はぁ、貸せ」
「……え?」
「俺がしてやるから、よく見とけ。次からは自分でたててもらうからな」
俺は半ば強引にリズベットの手からテントの部品を奪い取り、組み立てていった。
「これで終わりだ」
「あ、ありがと……」
「気にすんな。今回だけだしな」
俺は焚き木をするための薪を集めにその場から離れた。
雑木林の中とだけあって、薪を繕うにはまったく苦労しなかった。
その後、俺達は飯を食った。
ちなみに、この飯は俺が保存食に一手間加えただけのものである。
「……おいしい!」
「いつも通り、海人の飯はうまいな。いつの間にそんなスキルを身に着けていたんだか、前からの同行者の俺でも分からないぜ」
「誰かさんが機械ばっかり弄りまわしていた時、暇だったんでな」
「うっ、それは言わない約束だぜ」
「?」
リズベットが俺達の会話を聞いて、首をかしげていた。
「……俺達はさ、つい先日この大陸に大和から渡ってきたんだよ」
「へぇ」
「俺達が旅を始めたのは、三年前。リズベット、大和の広さ知ってるか?」
「えっと、結構小さかったような」
「そ、大和を出るだけなら、三年もかからない。じゃあどうして、ここまで来るのに三年かかったのか」
俺が続きを言おうとしたら、一ノ瀬が騒ぎ出した。
「か、海人!別に喋らなくてもいいじゃん!!」
「お前は黙ってろ」
「ふがっ!?」
一ノ瀬の口を片手でふさぎながら、続きを話した。
「それはな、コイツが大和で偶然会った発明家の元で、機械開発に情熱を注ぎこんでたからなんだよ」
「えっと、ということは、一ノ瀬って発明家なの?」
「まぁな。でも、自分が開発したものの製造過程をまったく記録しない奴だから、同じものは作れないけどな」
「それって駄目なんじゃないの?」
「ふぐっ!?」
それまで大人しくなっていた一ノ瀬が、リズベットの一言で地にひれ伏した。
「で、俺はその間、発明家と一ノ瀬の飯を作らされてたんだよ」
「なるほど、それなら自然と料理もうまくなるよね」
「そういうこと」
「わ、悪かったって思ってるよ。俺から誘ったのに、俺が寄り道しまくってたからさ……」
一ノ瀬がバツが悪そうな顔をしながら、俺に謝罪してきた。
「もういいさ、料理スキルもあって困るもんじゃねぇしな」
「そ、そうか。……まだ根に持ってんのかと心配したよ」
「あん?なんか言ったか?」
「いえ、なんでもありません!!………それよりさ、今思いついたんだけど、海人がリズを鍛えればいいんじゃね?」
「あ?」
「え?」
突然変な事を言い出した一ノ瀬。
ついに頭がおかしくなったか。
「おかしくなってねぇよ!! じゃなくて、リズって、その、素人なんだろ?」
「うっ、そ、そうよ。だって、教会に飾ってあった聖剣に触れられたんだから、しょうがないじゃない!」
聖剣は他の魔剣と異なって、選ばれた人間しか触れることが出来ない。
選ばれた人間以外が触ると、触ろうとした奴から逃げるように掻き消えるとか。
「ってことはさ、海人が剣術教えてやれば、強くなれるんじゃね?」
「………」
確かに、自分の身を守れるくらい強くなってくれれば、俺達にかかる負担も少なくなるだろう。
だけど……正直めんどくさい。
しかし、リズベットの方を見ると、既に俺がそのことを承諾しているかのような期待に満ちた表情だった。
「……………お前は強くなりたいのか?」
俺はなんとなくリズベットに問いかけていた。
「あったりまえでしょ!! 『勇者なのに弱っちぃ』とか、『女が勇者かよ』、『俺の方が強いじゃん』みたいな事を、今まで言われてきたんだよ? 悔しかったし、怒りたかった。でも、弱いことはホントの事だから、ずっと我慢して来たの!」
リズベットは気持ちを落ち着かせるためか、一度深呼吸をした。
「だから、いつか強くなって、皆を見返してやりたいの」
「……なるほどな」
………なんだか、この流れでは断るなんて言えない気がする。
「な、リズだってこう言ってんだしさ」
「お願い、海人!」
「………………………はぁ、わかったよ。やりゃいいんだろ」
俺は両手を軽く上げながら、そう言った。
「やったぁ!!」
「よかったな、リズ!」
「うん!」
…………意外とリズベットと一ノ瀬って気が合うのかな?
「ただし、俺が教えるのは基本動作だけだからな。基本動作を覚えたら、後は自分で強くなる方法を探せ。いいな?」
「おい海人ー、そう固いこと言わずに、こう、必殺技みたいなのとか教えてやればいいだろー?」
「……はぁ、あのなぁ、俺とリズベットは身長も違えば性別も違う。さらに言えば、得物だって違う。俺のをそのまま教えたって、使えるとは限らん。剣技は自分であみだせ」
「わかったわ、それでもいい。少しでも強くなりたいから」
リズベットは頷いた。
「………じゃ、早速始めるか」
「うん!」
こうして、俺はリズベットに剣の基礎を教えることになったのだった。
正直リズベットに基礎を教える描写を書ける気がしない今日この頃




