表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

夜中の喧嘩

作者: WAIai
掲載日:2026/08/25

「ーてい!!」

秋の涼しさが広がる深夜。

大声が響いたかと思うと、鈍い音が聞こえてくる。

「ぐはっ…!!」

「まだまだ」

佐野は相手の首元を掴むと、全身の力を込めて頬を殴る。

骨が折れたな、と分かるくらい、相手の顔が歪む。

それにスリルを感じ、ますます佐野の暴力はエスカレートする。

「次!! 次、来い」

挑発するように手招きしたのだが、相手はびびっているようだった、

背中合わせに、1人、美男子がやって来る。

佐野の仲間で、見た目は女のように見えるのだが、喧嘩が強かった。

「おう。お前のほうはどうだ?」

「順調。お前は?」

「俺もまだまだ。早く来いって言ってるんだよ」

相手に怒鳴りつけると、覚悟を決めたのか、一斉に襲いかかってくる。

佐野と仲間の太田は身構える。

「うおりゃあ!!」

「甘い!! こうやってやるんだよ」

蹴りを素早く繰り出すと、興奮状態になった佐野は、よろける相手の腹を殴る。

相手は「ぐはっ」と声を吐き出し、倒れる。

佐野は荒い息を吐いていたが、まだまだ物足りなかった。

「この!!」

拳が向かってきたので、それを避けると、逆に拳を食らわせる。

優雅な動きは、しなやかな動物のようで、見惚れてしまう。

太田のほうも負けていないようで、2人はまた背中を合わせる。

「く、くそー!! 覚えていろよ!!」

相手は悔しそうに吐き捨てると、倒れた仲間を回収して逃げようとする。

佐野は卑怯だと、追おうとしたが、太田が腕を引っ張る。

「やめておけ。騒ぎになっている」

「そうか。ーおい!! お前ら、2度と俺達のテリトリーに入って来るな!! 分かったな!!」

相手が何か吠えたようだが、上手く聞こえなかった。

周りにいた観客も、佐野が睨みつけると、さあっといなくなる。

結局、その場には太田と2人きりになったのだった。

「終わったか?」

「…ああ、終わった」

2人はそう答えると、何も言わず、背中を合わせたまま、その場に座り込む。

月を見上げれば、澄ましたように光を放っている。

癒やしとしてか、風が吹いてきて、傷口と興奮状態を冷ましていく。

「煙草は?」

「いる。1本、くれ」

2人はライターで火をつけると、ふうと息を吐く。

いつもなら味なんて気にしないのに、少し苦く感じる。

2人は黙って煙草をふかし続ける。

「あ、あの…!!」

そこに可愛い声が割り込んでくる。

何だ、とまた戦闘モードになろうとすると、太田が袖をひく。

太田は佐野よりもクールなので、周りの様子がよく見えるようだった。

「これ、飲んでください!!」

差し出されたのは、炭酸水だった。

女と炭酸水を見比べると、女は一生懸命、伝えてくる。

「あの!! 失礼します!! …それと、ありがとうございました!! 助かりました」

「…は? どういうことだ?」

「多分、俺達がここを守ったほうがいいんだろうな」

冷静な太田は煙草を消すと、炭酸水を手にする。

「ありがとう。ーほら、お前の分」

投げられて、佐野はしっかりと受け取る。

しょうがないなと呟き、佐野も煙草を消す。

炭酸水を開けると、プシューと中身が出てくる。

「うわ!! 溢れたし!!」

「それはそうだ。今、投げたしな」

「お前な…。あ、止まった」

もったいないと手を舐めると、少し鉄くさい味がした。

それが嫌で、炭酸水をぐびりと飲むと、喉が乾いていたようで、ぐいぐいと飲んでいく。

「プハー!! 美味っ!!」

「だろうな。喧嘩したばかりだしな。頭は冷えたか?」

「俺はいつでもクールだ」

「そうか? 俺には瞬間沸騰器に見えるんだけど」

「あのな…」

2人で会話していると、女がまた割り込んでくる。

「あ、あの…!! じゃあ、あたしはこれで…!!」

「ちょっと待って。お店で働いている娘だよね? どこか教えてくれる?」

「それは…。…LINEでもいいですか?」

「LINEか。いいよ」

太田がスマホを取り出し、女と交換する。

佐野は興味がなく、炭酸水を飲みながら、星座を相手にする。

ー子どもの頃は、純粋に空を見ていたのに。

いつの間にか見なくなっており、久しぶりに見た空は、佐野の心を映し出すように、真っ黒だった。

星座も見えないなんて、どこまで落ちたんだかと自嘲すると、女が言ってくる。

「じゃあ、あたしはこれで」

「お姉さん達にもよろしく言っておいて」

「はい…!! もちろんです」

女は悪い人間ではないようで、軽い足取りで去っていく。

太田は戻って来ると、佐野を肘でつつく。

「お礼。言え」

「はいはい。ーありがとうな。姉ちゃん!!」

声を張るが、女は自分とそう歳が離れていない気がした。

太田は女が見えなくなるのを確認し、炭酸水を開ける。

「あ、冷えてて美味い」

「だよな。俺なんか全部飲んでしまった」

「お前な…。少しくらい女に優しくしろ」

「これでも優しいほうだぞ? 殴ったこととかないし」

「そうか。…あー、疲れた」

太田が炭酸水に蓋をし、伸びをする。

佐野は腹を撫で、言う。

「お腹が空かないか? 何が食いに行こうぜ」

「ラーメンがいい」

「ラーメンか。いいね。よし、行こう、行こう」

2人は歩き出すと、熱を下げるように、颯爽と進んで行く。

残ったのは吸った煙草のみで、静かな秋の夜となったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ