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2話 会話

 王宮に迷い込んでしまったこの養子の少年は、低木に息を殺して隠れている。だが、このまま低木に隠れていたら庭師に低木を整えられ姿が見えてしまうだろう。ここは、王女の己が庭師らに指示をしてこの少年を手助けするべきだろうか。

 だが、まだ警戒心はある。もしも不審者だったら?

 そんな不安がセディレを動かした。


「貴方………不審者ではないの?」

「ま、まさかっ。そんな訳ないよ……」


 そうだろう。子供のため、物騒なことは雇い主が居るはずだ。だが、周りに雇い主らしき者は見当たらないし、本当に怯えている子供を雇ったりもしないだろう。だが、羊の皮を被った狼かもしれない。慎重に行動し、本当にただの子供か見極めなければ。

 そして、彼が雇われているとすれば雇い主はグードリッグ侯爵。その辺りも、考慮して考えなければ。


「そう言えば、アレンは魔力量が多いのよね。とても素敵」

「え? あ、ありがとう」


 話題を変えてみた。明確な理由はないが、彼は魔力量は多いと報告を受けている。魔力量が多ければ魔術を使える時間が多い。ならば、雇われていても不思議ではないのだ。

 だが、警戒し過ぎだろうか。


「ねぇ———」

「王女殿下! 王女殿下!」

「「っ!」」


 魔術を使ったことはある? そう尋ねようとすれば、タイミング悪く侍女の自分を呼ぶ声が聞こえた。王宮の中だ。ここは人の目は少ないが、ゼロではない。見られていないこと前提に話を進めなければ。


「少し、くっつくね」

「え? わっ」


 まだ侍女はこちらへ来ていない。声が聞こえただけだ。セディレはアレンが隠れている低木に身を潜めた。

———急激に距離が縮んだセディレとアレン。

 アレンは十一歳という年齢ながら頬を染め、セディレは九歳なので恥がない。


「王女殿下……セディレ殿下! いらっしゃるなら返事を!」


 焦ったような声音と言葉。まだ九歳なので、王宮を飛び出す可能性があるから、こんなにも焦っているのだろう。だが、九歳とはいえ家庭教師に何回も「義務以外は王宮に出てはいけない」と言われ続けたのだ。王宮の外に出る訳ないではないか。


「セディレ! セディレ〜!」

「!」


 聞き覚えのある声だ。穏やかでしかし焦ったような声音をした、それでも聞き心地の良い。そんな声。この声は、セディレの母。王妃・シュタースだ。


「……あの高貴な人、王女様の母さん、だよね? 行った方が………」

「シー………」


 見つからない程度に覗いていると、同じく低木の反対側から覗いていたアレンが心配そうにセディレを見てくる。だが、そんな心配する声も今は邪魔になるのだ。セディレは人差し指を自分の口元に当て、静かにするよう行動で表す。伝わったようで、アレンは慌てて己の口を両手で塞いだ。


「…………ふぅ。ごめんね、もう大丈夫」

「う、うん……」


 侍女とシュタースの気配が消え、どこか行ったと確認した後、セディレはアレンの口を塞いでいる手を優しく退かし、悪戯した後にする表情のように舌を出した。アレンも少し戸惑っているようだったが、微笑んで同じく悪戯した後にする表情を浮かべる。


「えぇっと………私の名前はセディレ・ヘンゲル・レンズローパ。この国の王女だよ」

「うん。知ってたよ、王女様」

「………なのにアレン、こんな口調なの?」


 少し上から目線になってしまったことを反省しつつも、セディレは首を傾げる。アレンは舌を出し、片目を瞑った。どうやら確信犯のようだ。


「ごめんね。でも、元は孤児だから分からないんだ」

「………グードリッグ侯爵に引き取られて一週間よね。家庭教育は?」

「もちろんしてるよ。けど、今は言葉遣いじゃなくてこの国の歴史なんだ」


 ならば仕方がない。家庭教育の順番は、令息令嬢が好む趣味、今流行中の話題。そして歴史だ。言葉遣いについて習うのは歴史の次のため、習っていないのも仕方がなかった。


「良いよ。それに、王女様じゃなくてセディレって呼んで欲しいな」

「……様も付けた方が良い?」

「いいえ。普通に友達気分でセディレって呼んで?」


 両手を合わせながら上目遣いでおねだりすると、少し距離を縮め過ぎたかアレンは目を逸らしながら「分かった……よ」と照れ臭そうに言った。二歳差でこんなに態度が変わるなんて。アレンは女の子相手だったら、こんなふうに照れ臭そうにするのだろうか。


「………じゃあ、セディレ?」

「うん。なぁに? アレンっ」


 お互いの名前を言い合ったところで、何故か沈黙が訪れた。アレンが沈黙し、つられるようにセディレも黙ったのだ。セディレはアレンが何か言うのを待っているが、アレンは一言も喋ろうとせず、薄ら頬を染め距離を空ける。だが、それだとアレンが低木から出てしまうため、ぐいっと彼を引っ張る。何か悪かったのかアレンの頬はもっと紅潮し、目を見開く。


「どうしたの?」

「いや………その、え?」


 アレンは自分が頬を染めていることを知り戸惑い、顔を背けて呟いた。


「———無意識だとは思うけどさ。……積極的過ぎ………」


 その時、また侍女と王妃シュタースがセディレを呼ぶ声が聞こえる。


「もうバレちゃうかも。私は出て行くから、アレンは迷い込んだ時みたいに上手くやって、王城から抜け出して」

「え? そ、え」

「じゃあね。バイバイ」


 王妃と侍女に聞こえないほどの小声で呟き、セディレは低木から飛び出した。


「お母様、ごめんね。心配掛けちゃった」

「まぁセディレ! なんであんなところに居たの?」

栗鼠(リス)が居て、見てたのよ」


 シュタースと侍女は納得した様子で頷いた。その隙にチラッと低木を見て「可愛かったな……」と栗鼠に向けた言葉のように呟き、背伸びを少ししてアレンが居なくなったことを確認する。話し相手が居なくなり寂しい半分、抜け出す際に見つからないかという不安半分だ。

 アレンが居なくなったことを確認すれば、セディレはシュタースに話し掛けた。


「ねぇお母様。調べてもらいたいことがあるの」

「良いけど、何を調べれば良いの?」

「今から話すわ。調べたい理由は、ロベルトお兄様がね———」

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