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08 悲哀と悲愛


「はいこれお礼ね」

「ありがとうございます!」


 村に到着し数時間経った。私は腰を痛めていたお婆さんの代わりに作物の収穫を手伝いそのお礼を貰う。


「あ、そうだこれ水洗いしたのだから食べてみな」


 お婆さんは洗ったトマトを手渡してくれたのでそれに齧り付いてみる。


「お、美味しい!!」


 トマトは水々しく甘味があり今まで食べたどんなトマトより美味しかった。あっという間にそこそこ大きかったトマトをぺろっと食べてしまう。


「ふふ、この村の宿のご飯はここの野菜を使ってるから楽しみにね」

「はい!」


 私は元気良く挨拶しお姉ちゃんとティミスちゃんが居る宿に戻る。


「あーそこそこ。そこ強く押してー」


 宿ではお姉ちゃんがティミスちゃんにマッサージをさせていた。その場にうつ伏せになり背中を強く押してもらっている。


「あ〜お帰りフェート〜」

「何やってるのお姉ちゃん?」

「ちょ、ちょっと最近体が硬くなって…それに長時間座ってたから体が…」

「なんかおばあちゃんみたい」

「な、なんだと〜!? アタシはまだ二十八……あ、ティミスちゃんそこそこ〜」


 お姉ちゃんはよっぽど気持ち良いのか言葉を下げ手を伸ばし快感を受け止める。


「何かできることある?」

「うーん、今のところあたしだけで手は足りてるかな」

「私はちょっと動きたいからまた散歩してくる」

「んー気をつけなさいよー」


 元気が取り柄の私はまだ全然動けるので外に出て村の人に挨拶したり手伝ったりする。


「あ、エディアさん!」


 そんな中、村を歩く彼に偶然出会う。顎を手に乗せなにやらお困りな様子だ。


「おっ、フェート! 数時間ぶり」

「はい! 何か困ってるんですか?」

「えーとそれが…彼女が見つからないんだ」

「彼女さんが? もしかして…」


 私は最悪のパターンが脳裏をよぎってしまう。魔物に村を襲われその際に命を散らせてしまったというものを。


「いや、そういう感じじゃなさそうなんだがみんな言いにくそうにしてはぐらかすんだ。死んだわけじゃないのはいいけど…」

「どうしたんでしょうかね? この村の人達は優しそうですけど」

「だからいじわるで言わないとかしないと思うんだけどなぁ…」


 とはいえここで私達が議論しても答えは出ず、目的もなくふらふら歩く。


「あ、そろそろあいつが帰ってくる時間か。聞きに行ってみるかな」 

「あいつ?」

「あぁ、この村では数少ない同年代の親友だよ。もうすぐ狩りから帰ってくる頃合いのはず…あ、居た!」


 エディアさんは森の方から仕留めた鹿を背負って降りてくる青年に話しかけに行く。


「エディア…帰ってきてたんだな」

「久しぶり! 半年くらい開けちゃってごめんな。今回遠くに行く依頼があってさそれで…」


 エディアさんは楽しそうに思い出話を始めるが、一方親友の人はあまり良い顔を、明るい表情をしない。


「あ、あの…エディアさん…」


 私は構わず話そうとする彼を止めようとするが確信を持てないので声量が小さくなってしまう。


「そっちの子、新しい彼女か? 旅で見つけた子でも侍らせたか?」

「あーいや違う違うこの子とは偶然近くでマルダさんの馬車に居たところ…」

「そっか。ルミアは新しい男見つけてもう出て行ったのに律儀だな」

「…え?」


 空気が凍りつくのを部外者の私でも感じた。十数秒の沈黙の後、恐怖する感情を孕んだ声色でエディアさんが口を開く。


「ルミアが…他の男と?」

「そうだよ…お前に愛想を尽かしてな」


 唖然とし立ち尽くすエディアさんに、彼に明確な敵意を向ける親友さん。私が話に入る余地はなかった。


「何が…あったんだよ…」

「数ヶ月前にここにある商人が立ち寄ってな。詳しいことは俺も知らないが、イケメンだったし金も持ってた。まぁそういうことだろうな。お前は捨てられたんだよ」


 動揺するエディアさんなど気にせずガンガンと物言う。それを受け止めきれるはずかなく、彼は放心状態に陥り言葉が右から左へと流れている。


「まぁ、早く出てけよ。また」


 青年は捨て台詞を吐き村の方へと行ってしまう。


「エディアさん…」

「あ、いや…ご、ごめんね。こんな話に巻き込んじゃって。気にしないでいいから…」


 エディアさんは笑って誤魔化そうとするものの悲しみが拭えていない。焦点は定まっておらず心ここに在らずといった感じだ。


「ちょっ…と、散歩…一人で…」

「あ、はい…」


 話す言葉すらままならない彼にどう接するべきか分からず、私は彼を一人にしてしまう。残されたこの場で苦々しい物を噛み締めるのだった。



⭐︎



「ただいまー」


 どうしたら良いか分からず、結局私は何もできず宿に戻り二人の顔を見に行く。いつも通りの二人を見れば心苦しさも多少はマシになる。


「どうしたのフェートちゃん? なんだか元気なさそうだけど…」

「いや、実は…」


 私は話して良い話題か判断できず何度か言い戸惑うが、この事を一人で背負いこむことができずつい吐露してしまう。


「そう…中々センシティブな問題ね。ま、何かしてあげたいでしょうけどあんまり触れないであげるのが一番ね」

「それはそうかもそれないけど…」 


 たった数時間の付き合いだが、人の良さそうな者が悲しむ姿は心にくる。しかしだからといって第三者同士の揉め事などどうしようもない。


「エディアさん…大丈夫かな…」


 私は彼のあの時の顔を思い浮かべながら暖の火で温まるのだった。



⭐︎



「なんで…どうして…!!」


 涙が夜風に吹かれ地面に落ちていく。虚しさに拍車をかけるように俺の声が木霊して責めてくる。


 ルミア…嘘だよな…


 彼女との思い出が何度もフラッシュバックする。この山にも何度も来た。今になってはそれが余計に辛い。


「おいエディア…まだここに居たのか」

「カリス…」


 そこに先程残酷な真実を突きつけてきた彼が戻ってくる。今度は落ち着いたのか敵意は見られない。


「さっきは余計なことも言い過ぎだよ。オレも熱くなりすぎた…」

「いや、別にお前は悪くない…俺の問題だ」

「実はさ、オレもルミアのことが好きだったんだ」

「えっ…そうなのか!?」

「はぁ…やっぱりお前は空気が読めないというか天然というか…」


 カリスは呆れを見せつつも今度は俺に寄り添ってくれる声色で言葉を返してくれる。


「ルミアはお前を選んだ。それなのにお前は『冒険者になる!』だとか言って村から出て行ってルミアを一人にしてよ」

「はは…確かに。酷い奴だな俺…」

「それなのにルミアはお前一筋に待ち続けて、オレも割り込めなくて…でも、簡単にどこの誰かもしれない商人についてっちまった」


 きっとカリスも辛く、同時に複雑な気持ちだったはずだ。


 本当に俺は…周りを見れない奴だったんだな…最低だ。


「強く当たってごめん…でもさ…………」


 言葉が返って来ない。どうしたんだと下に向けていた顔を上げる。


 ボトボト。粘液性のある液体が眼前を通過し地面を汚す。赤色の液体が。


「ゴハッ…!!」


 それはカリスから吐かれた血液だった。彼の腹部から薄汚れた灰色の触手が飛び出している。


「カリス!?」


 彼の体は宙に持ち上げられ背後へ連れ去られ、ある化物の前でピタリと止まる。


「これを飲め!」


 そこに居たのは触手に似た色の化物だ。頭部からは十本の触手を垂らしそれを全てカリスに突き刺す。


「やめろっ!!」


 そして手に持っていた謎の液体を無理矢理飲ませる。するとカリスの体がビクンと跳ねるがその直後にすぐ動かなくなり硬直する。


「お前よくも…!!」


 俺は槍を構え奴に飛び掛かる。


 が、突然俺の体が吹き飛ばされる。いや、誰かに持たれている。


「ここかっ!?」


 姿は見えないが感触はある。俺は虚空に向かって槍を振る。


「ぐえっ!!」


 硬い感触と確かな手応えを感じる。


「初見でオレを…強いな」


 さっきまで見えなかったが、大きな瞳を二つ携えた魚のような気持ち悪いと顔の化物が姿を現す。


「二体も…お前ら一体…?」

「我々はアグノス…お前らよりも上の存在だ」

 


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