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07 運命の出会い


「そうだ二人ともこれを渡しておくわ」


 馬車に揺らされる中お姉ちゃんは私達に金色の筒を渡してくれる。


「何これ?」

「対アグノス用の武器よ」


 武器というには明らかに形状がおかしい。この金色の筒は成金用のコップにしか見えない。


「もしかしてこれに使われてる素材…マナル鉱石ですか?」

「そう大正解」


 マナル鉱石。この世界で一番魔力を貯める効力を持った鉱石で、質の良いものは黄金と見間違うほど美しいらしい。


「ということはこれは…魔法武器?」

「そうよ。試しにちょっとやってみるわね」


 お姉ちゃんは自分用のを一本取り出しそれに魔力を込める。すると筒の虚空から青白い光が飛び出して剣の刃を模る。


「わぁ…綺麗」

「もしかしてこれお姉ちゃんの魔力?」

「流石アタシの妹。これは魔力を使用して武器の刀を創り出すのよ」


 青白い部分は凄まじい熱が籠っており、触れただけで指くらいなら容易に切り落とされてしまいそうだ。


「ただし決して悪用しないこと。人には向けないこと。これは守ってね」

「分かってる。人を殺すなんてこと…しないから」

「は、はい! そんな恐ろしいことできませんし…」


 少し馬車内で武器の感触などを確かめているといきなり馬車が止まり足元が揺れる。もし刃を出していたら怪我していたかもしれない。


「おじさんどうしたの?」

「ま、魔物だ…!!」


 馬車の目の前には大きな牙を携えた猪型の魔物がおり息を荒げている。恐らく山道から飛び出してきたのだろう。


 奴の名前はハイボア。突き出ている牙による刺殺件数は数え切れない凶悪な魔物だ。


「ブフォ!!!」


 馬車を下がらせ私達三人が前に出た途端奴はお姉ちゃんに向かって凄まじい勢いの突進を繰り出す。


「ちょうど良い機会ね……」


 だがお姉ちゃんはその突進を片足で軽々と受け止める。決してハイボアは弱くなかった。お姉ちゃんは魔法で身体を強化し奴を上回っただけだ。


「この魔物は二人で倒しなさい!」


 彼女は奴の頭部を蹴り上げ遠くに吹っ飛ばす。


「今のアナタ達なら倒せる相手よ。その武器を試してみなさい」


 お姉ちゃんは私達に成長を促すべくか自分では倒さず業者のおじさんを守るようにし後ろに下がる。


「行くよティミスちゃん。私が前で受け止めるから後ろから援護お願いね」

「うん。気をつけてね」

「もっちろん!」


 私が踏み出すのと同時に奴も再び突進を繰り出す。残念だが私では受け止めることはできない。ギリギリのところで躱しつつ武器を握り魔力を流す。


「はぁっ!!」


 武器から迸る赤い閃光が剣の形を成す。それを奴の牙に合わせて振り抜く。本来鋼鉄ほどの硬さがある牙は柔らかい素材でできているのかと勘違いしてしまうほど容易に切り落とされる。


 奴はその衝撃と痛みで足を止めるが、勢いを殺し切れずその場に土煙を上げ転がる。そこにティミスちゃんがトドメを刺す。斧を形成しそれを射出し回転する刃で奴を真っ二つにする。


「よくできたわね二人とも」

「ふぅ。でもやっぱり実戦はひやひやするなー」


 私は緊張状態になったことで出てしまった一粒の汗をハンカチで拭き一息つく。


「へぇーお嬢ちゃん達強いんだな。これは街までの間は安心だ」

「まぁ今のアタシ達三人に勝てる魔物なんてそうそういな…」


 魔物を倒し油断しきったところ。馬車の影からもう一体のハイボアが飛び出してくる。私達は武器を下ろしてしまっている。それはまだ良い。問題は業者のおじさんだ。


 奴はおじさんの背面を取っている。私達の位置では間に合わない。お姉ちゃんも庇うのが間に合うかどうか怪しい。


 だが突進は思いもよらぬところから飛んできた槍によって止められる。それは頭に突き刺さり奴は一瞬の間に絶命する。


「おーいそこの人達大丈夫ですかー?」


 坂上の方からマントを纏った容姿の整った男性が駆け降りてくる。槍を死体から引き抜き血を拭きながらこちらの身を案じてくれる。


「もしかしてお前エディアか?」

「おじさん俺の名前知って…あ、もしかしてマルダおじさん!?」

 

 業者のおじさん、もといマルダさんはイケメンの彼と知り合いらしく久しぶりの再会なのかお互い頬を緩ませる。


「あの……この方は?」

「俺はエディア・ドラコ。エディアで良いよ。ちょうどそこの村に帰る途中だったんだ。みんなも中継地点とかに寄るつもりだったんだろ?」

「あっ、はいそうです!」


 彼の話し方は柔らかく初対面だというのに話しやすい、異性に対しては人見知りがちなティミスちゃんもある程度緊張せず話せている。


 あれ…もしかしてこの人が…


「あのー…もしかしてエディアさんは冒険者とか何かやってるんですか?」

「ん? そうだよ。まだ駆け出しだけど、魔物と戦う内に結構強くなれてね。ギルドの人にも魔法の才能があるって」

「へーすごいんですね」


 やはりこの人がマルダさんが言ってた村を出て行った人なのだろう。彼女さんをほったらかしているという前情報があるのでどんな人かと思ったが、想像よりも物腰が柔らかく良い人そうだ。


 私達は倒した魔物から素材を剥ぎ取った後馬車に戻り今度は五人で道を進む。その間もお互いの旅や身の上話などで話は弾み飽きは来ない。


「まぁ俺のとこの村は何もないところだけど、空気は良いし野菜も美味しいからゆっくりしていってよ」

「ならお言葉に甘えてゆっくりさせてもらいますね。ところでその…エディアさんは彼女さんとは…?」

「ん? 彼女? 一応村に居るけど、会うのは久しぶりだなー元気にしてるかな?」


 彼は行事を前日に控えた子供のように目を輝かせ胸を躍らせている。本当に純粋な人なのだろう。だがそれも相まって彼女さんは本当に可哀想だ。こんな良い人に長い間会えないなんて。


 だが会ったばかりの私がとやかく言うことでもない。私は適当に話題を逸らし錬金術の話などに移す。


「三人とも錬金術師なんだ…俺は頭が悪いから本当に尊敬するよ。どういう原理で作ってるのあれ?」

「基本的には物質同士を混ぜ合わせつつそこに己の魔力を直接流し込む感じですかね」

「マナじゃなくて魔力を直接か…」

「はい。だから普通の魔法と用法が違うから難しいんですよね」 


 エディアさんは興味深そうにして私の話に耳を傾ける。


「俺は魔法は結構使えるけどそういうのはあんまりだな。魔法が使えてもちゃんと勉強できなきゃ錬金はままならないんでしょ?」

「そうですね…配合の種類とか素材の目利きとか魔法以外にもやらないといけないことがたくさんで大変でした」

「二人とも俺より若いのに凄いね。ま、俺も十八だしまだまだこれからだよな」


 それから村までの数時間の間でエディアさんと仲を深める。


「おーいそろそろ着くぞー」   


 ちょうど話の区切れの良いところで馬車が村に到着する。


「ここがエディアさんの故郷ですか?」

「うんそうだよ。何にもないところでごめんね」

「いや自然豊かで空気も美味しいし良いところですよ!」


 お世辞とかではなくこれは心の声がそのまま漏れたものだ。


「あ、それじゃあ俺はみんなに挨拶してくるからこれで!」


 エディアさんは浮き足を立たせ、彼女さんや友人に会うべく走り去っていくのだった。

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