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05 アグノスの生態


「荷物は詰めてっと…あっ、この街を出る前にある所に寄ってもいい?」


 身支度が終わり、必要な荷物はアイテムボックスに放り込む。


 アイテムボックス。膨大な収容空間を持つ袋型の魔法具で、錬金難易度が低く汎用性が高いためこの世界においては必需品とも言える道具だ。


「いいけど…どこ行くの?」

「お姉ちゃんが近くに来ているらしいから合格したって伝えたくて」

「この前話してたあの…うんもちろんいいよ!」


 私達はクラスメイトやお世話になった先生達に挨拶しに行き、その後荷物を持ち寮から出る。


「そういえばフェートちゃんのお姉さんってどんな人なの? 錬金術師なんだよね?」

「そうだよ。錬金の腕が凄くてね。アグノスのことも色々調べてるんだ」  

「そうなんだ…アグノスが元人間って突き止めたのもお姉さんなの?」 

「それは…一応そうなるね」


 錬金とは関係なかったが、アグノスが元人間だと突き止めたのはある意味お姉ちゃんだ。他のアグノスを調査している仲間ともその情報を共有し、研究の進展に大きく貢献した。


「確か手紙によると待ち合わせ場所はこの施設だったはず…」


 場所は錬金術師用の施設だ。今日は貸切にしているらしく他の人の目もないらしい。


「お姉ちゃんいるー?」


 一応数回ノックしてから扉を開ける。


「フェートー!!!」


 扉を開けた途端こちらを外に押し出す勢いでお姉ちゃんが抱きついてきて、私の頭部は彼女の胸に押し込まれ柔らかい感触とラベンダーの香りに包まれる。


「ちょっ、やめてよお姉ちゃん!! 今日は友達も居るんだよ!!」


 ぎゅ〜っと力強く手を離さないので、無理やり指を胸に食い込ませ腕を押し除ける。


「あ、あぁそうだったわね。アナタがフェートのお友達?」

「は、はい…!! そのもしかして…お姉さんはあの伝説の錬金術師、サファイアさんですか…?」

「伝説のって…そう呼ばれることはあるけど、アタシはただの旅する錬金術師だよ」


 ティミスちゃんは目をキラキラと輝かせ、憧れの眼差しをお姉ちゃんに向ける。お姉ちゃんは確かにすごい錬金術師だが、酒癖が酷いし抜けてるところもいっぱいあるから私は親友との温度差に些細な寒さを覚えてしまう。


「いえそんなことは…サファイアさんは覚えてないかもしれませんけど、あたし十年前にあなたに助けてもらったんです! 村が焼かれて魔物に襲われていたところを…」

「まさかあの時の…?」


 お姉ちゃんは数秒間を置き十年前のその景色を脳裏に焼き付け直す。


「その時って…」

「どうしたのお姉ちゃん?」

「あ、いやなんでもないさ! それより二人とも試験を合格して錬金術師の資格を手に入れたのでしょ? 例のカードは貰った?」

「あれね。ちゃんと貰ったよ。ほら!」


 私とティミスちゃんはアイテムボックスから先日先生から受け取った錬金術師カードを取り出す。


 そこには各々の名前や錬金術師になった日などが書かれている。これをギルド等に見せれば仕事を紹介してもらえたり、素材を流してもらったりなどたくさんの利点がある。


「二人とも一人前の錬金術師でこれからは自分達で作る物や仕事を選んで、望む未来を作っていくわけだ」


 お姉ちゃんの言葉に手にあるカードのひんやりとした感触。錬金術師になったのだという実感をより強いものにしてくれて、未来への希望と夢へ近づいたことに胸が躍る。


「だから今日は祝いとして何か料理をご馳走させてくれ」

「あれお姉ちゃん料理できるようになったの?」

「い、いやお店を予約してあるから…」


 相変わらずお姉ちゃんは家事ができないようで、きっと料理もいつも外食かお肉とかを雑に焼いたり保存食を食べているのだろう。


「まぁお店は夜に予約してるから、それまで学校であったことや思い出話を聞かせてくれるかな?」


 今日ここは貸切らしいので、私達はソファーに腰掛けて思い出話に花を咲かせる。


「そういえば単純にあたしの疑問というか聞きたいことなんですが…アグノスってどんな存在なんですか?」

「あぁそうか。確か君も知ってるんだったね」


 手紙でこの前の事件については知らせてある。返ってきた手紙で今後は危ないことはするなと注意されたが、私ももう一人前。お姉ちゃんもずけずけと過保護に接してはこない。


「あたしもフェートちゃんに協力してアグノスについて調べたいんです。その…あんな被害を出すなんてもうこれ以上あっちゃいけないから…」

「そうだね。数自体が少ないから目立ってはないが、奴らの被害はどれも惨たらしくあってはいけな…いやこの話はよそう。それよりアグノスがどんな生態かだね」


 とはいえ大体の説明は私が昨日ティミスちゃんにしたものと同じだ。


 人間の突然変異体としてアグノスになってしまうこと。アグノスになったものは魔力が異常なまでに高まり神経がやられて感情のコントロールができなくなり多くは倫理観を取り戻せなくなること。


「それとなんだが最近アグノスの研究を通じてある物を作れてね。君達にも何個か渡しておくよ」


 お姉ちゃんはアイテムボックスから六つ小瓶を取り出し私とティミスちゃんにそれぞれ三つずつ渡してくれる。


「これ何?」

「アグノスが倒された際に霧散する魔力の粒子を保存するための瓶さ。特別な素材でできていてね。粒子を捕まえるように瓶の中に入れて蓋をすれば消滅させずに保存することができるんだ」


 パッと見は普通の瓶だがほんのりと魔力が感じ取れる。きっとお姉ちゃんが錬金で作った物なのだろう。


「二人とも明日からの予定は?」

「私とティミスちゃんはとりあえずアルドの街まで行くつもり」


 アルドの街。例のティミスちゃんのご近所さんが居るという街で、引き取ってくれた教会もその街にあるらしい。報告ついでに久しぶりに家族に会いに行くようだ。


「なるほど…その街までなら一緒について行けるな。そこまでは同行するよ。でもそこからは二人だけになる」

「まぁ元々二人旅の予定だったし大丈夫だよ。それに私達は錬金術師育成学校の中でも指折りの実力者なんだから!」

「なら良かった。そこで二人にあるお願いがあるんだ」


 お姉ちゃんはもう一つ瓶を取り出して私達に見せる。中には柔らかい光を放つ魔力の粒子が入っている。


「これってまさかアグノスの…?」

「そうさ。この前倒した奴から採取したものよ」


 中に入っているのは先日倒したアグノスが霧散した際に漏れ出させたものと同じだ。


「もしアグノスと戦闘する機会があればこのように魔力の粒子を採取してもらいたい。研究のサンプルはたくさんあった方が良いからね」


 先日のアグノスはあれでもかなり弱い方だったと思う。お姉ちゃんが倒す姿は何度か見たことあるが、そいつらは先日の奴よりも動きのキレが圧倒的に良かったと記憶にある。


「あたし達だけで倒せるのかな…」

「そこはアタシが責任を持ってアルドの街に着くまでに鍛えてあげるわ。学校じゃ魔法を攻撃に使うことなんて最低限しか教わらなかったでしょ?」


 私は幼い頃に少し教わっているので多少はできるが、ティミスちゃんはからっきしだ。二人ともこれからのためにもっと強くなる必要がある。


「憧れの…それに命の恩人であるサファイアさんに魔法を教われるなんて嬉しいです!」


 彼女の羨望の眼差しは止まることを知らず、お姉ちゃんは珍しく恥ずかしがり頬を赤く染める。


 アグノスについての話題はとりあえず一区切りされ、また学校での思い出話やお姉ちゃんの旅での話などを弾ませる。


 ティミスちゃんの緊張に似た反応も段々と薄くなってきて、日が暮れる頃にはもう私同様に普通に話していた。


「おや。もうこんな時間か。そろそろ予約の時間だね。行くか」


 私達は席を立ちこの場をあとにし、お姉ちゃんが予約したというお店まで足を運ぶのだった。

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