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03 怒りを連鎖させ


「集まったのは十人…これだけですか」


 先生二人に生徒八人。とりあえず呼び続けてこれだけ集められた。


「うっぷ…」


 一人の生徒が口元を押さえてうずくまる。どうやら友達の死体を見てしまい、その時の記憶がぶり返してしまったようだ。

 

「ねぇ誰か…ティミスちゃんは見なかった?」

「いやアタシは…あんたは?」


 周りの生徒にも聞いてくれるが誰も行方を知らないらしい。生きてる姿も死んでいる姿も見てないようだ。


「今からここに居る生徒と教師のみで山を降ります。その後すぐに騎士団に連絡して兵を派遣してもらいましょう」

「えっ!? 先生待ってください!! まだティミスちゃんや他の生徒が!!」

「もちろんそれは分かっています。しかしここに居る生徒達の安全確保と助けを迅速に呼ぶのが最優先です。その方がこの場に居ない生徒達の生存率も上がります」


 理屈では分かっているし、この場に居るみんなを危険に晒すわけにはいかない。渋々私はみんなについていき山を降りる。


「ねぇアルベール君」


 私は進んで最後尾を歩き、すぐ前に居る男の子に小声で話しかける。


「なんだい囁き声で?」


 真面目な彼はこちらの事情を察してくれて同じく囁いてくれる。


「私、ティミスちゃんを助けに行く。私なら強い魔法も使えるし奴と遭遇しても退けられる」

「いやそんな…フェートさんが強いのは知ってるけど、そんなの危険だよ…!!」

「分かってる…でも、大事な友達だから。それに私の魔法は人を助けるためのもの。ここで使わなきゃ意味がないの…!! だから私はこっそりこの列を抜けるけど、先生が気づいたら良い感じに説得してそのまま山を降ろさせて」


 無理を言っているのは承知の上だ。それでも私はこの魔法を人々を助けるために使うと誓った以上逃げるわけにはいかない。


「分かった。絶対に死ぬなよ」

「うん…ごめんね」


 私は隙を見計らってこの列から抜け出し、来た道を戻り山の奥へと突き進むのだった。


 数分。数十分叫びながら走っても返ってくる声はなく見つかる数人の見知った顔の死体。どれも乱暴に食い荒らされており、女生徒は服を剥がされていた。


 あいつ…許さない…錬金術の先生の立場でありながらこんなことをして…!!


 級友を殺されたこと。錬金術の教鞭を取るという立場を利用して己の薄汚れた欲望を満たすために、自分のために力を使うその姿。


 その全てが許せなかった。


「ティミスちゃん!!」


 走り続け疲労が出てきたあたりで草むらを歩く親友の姿を視界の端に捉える。


「えっ!? フェートちゃん!? まずいよ話してるところ見られたら…」

「試験は中止! アグノ…化物が現れたの!!」

「それって…魔物が出たの?」

「大体そういうこと!! 他のみんなはもう逃げてるから早く行くよ!!」


 能天気にも何も知らない彼女を連れてとにかく山を降りようと下へ下へと足を早める。


「…あれ? フェートちゃん! 何か近づいてるよ!!」

「え? でも何も見えな…まさか…!!」


 ティミスちゃんは風の魔法を得意とし、空気の僅かな揺れや魔力の流れを探知して気配を感じ取ることができる。なのである最悪なパターンが思いついてしまい私は咄嗟に彼女を抱えて近くの茂みにダイブする。


 私の足スレスレをサメの牙が通る。真下の地面から突然奴が飛び出してきた。


「躱したか…運がいい奴…それにお前はさっきの…ちっ、近くにはもう居なさそうだし、いいぜ。お前ら二人まとめて殺してやるよ。面倒臭くはあるがどうせ俺の方が強いんだからな…ふへへ…!!」


 先程のように逃げてくれれば良かったのだが、今度はそうはいかず奴は再び地面の下へ隠れてしまう。


「えっ!? あいつ地面の下に潜っ…」

「いいからこっちに!!」


 私は彼女の手を引っ張り半ば無理矢理に木の上に登らせる。その際彼女の腰につけてあった袋からポロッと一つ淡く光る石が落ちる。

 

 それはコツコツと転がっていき、私達が木の上に登り終えた辺りで離れた場所にある木と速度をつけてぶつかり爆発する。


「あっ、あたしの火の魔法石…!!」


 どうやら今回の試験で求められていた物のようだが、どのみちこの試験はなかったことになるのでまぁいいだろう。だか重要なのはそのことではなかった。


「ん…? あいつらはどこだ?」


 サメの影が爆発が起こった場所に現れる。全く見当違いの場所を攻撃し私達を見失っている。

 

 まさかあいつ…地面に潜っている間は目が見えていない?


 考えてみればその通りだ。千里眼でも使えなければ地面の中からこちらが見えるわけがない。なのに奴は地面から姿を現す時正確にこちらを攻撃してくる。音で探知しているのならばそれらに納得がいく。


「どこだ…?」


 奴は私達を見つけられず見当違いの方を見渡す。私はティミスちゃんの口を手で塞ぎ静かにするよう促しつつ、指先に魔力を込め静かに炎の粒を何発か発射し遠くの木に着弾させて爆発させる。


「向こうか…? 爆風で飛んでいるのか?」


 奴は見事に誘導に引っかかり、私達が居る木とは逆方向に向かってダイブし地面の中を泳いでいく。


「あいつ行った?」


 ある程度したところで声を極限まで潜めつつ、ティミスちゃんの気配探知の具合を尋ねる。


「うん。もう近くに居ないよ」


 とりあえずホッと一息つくが、そんな暇はないとすぐに意識を戻される。


「ティミスちゃん…あいつ倒すよ」

「えっ!? あいつを…!? そんなの無理だよ…あんな怪物を相手にだなんて…」

「このままじゃ山を降りようにもいつ攻撃されるか分からないし、ここも見つからない保証はない。それに他の子達も襲われるかもしれない」


 ここから山を降りるまで急いでも二十分以上はかかる。その間に音を感知する奴に見つかる可能性は非常に高い。不意打ちをくらえば下手をすれば取り返しのつかない怪我になるかもしれない。


「錬金術師は魔物を倒す道具だって作るし、人によっては自ら倒して素材を獲ったり、人を助ける人もいる」

「そうだけど…」

「作戦があるの。危ないのは全部私がやるから、ティミスちゃんにはあなたにしかできないことをしてほしいの」

「あたしにしかできないこと…?」


 私は作戦の概要を話し、必要な道具と素材が揃っていることを確認する。これだけあれば作戦に使う道具も錬金できる。


 なるべく音を立てず例の物を錬金し、二人の魔法を駆使して罠を仕掛ける。同時に私は奴と交戦した際のイメージトレーニングをしておき心構えしておく。


「準備できたよフェートちゃん」


 ティミスちゃんが風魔法を使いふわりと音をなるべく立てず着地する。


「じゃあ手筈通りよろしくね」

「うん…危なくなったら逃げてね」


 ティミスちゃんはもう一度ふわりと浮いて近くの木の上まで避難して息を潜める。

 

「ふぅ…私はここに居るぞ!!!」


 私は怒号を上げつつ、ふんだんにある魔力を使い離れた箇所にる木にやたらめったら爆風を浴びせ爆音を立てる。


「自ら場所を知らせるとは何のつもりだ?」


 更に数発魔法を唱えると奴はのこのことやってくる。ここまでは作戦通りだ。


「山を降りる時に不意打ちをくらわない保証もないからね。不意打ちじゃなければあんたなんて敵じゃない。その様子じゃアグノスの力を使えるようになったのも最近でしょ?」

「何故それを…まぁいい。舐めたことを後悔させてやる!!」


 奴はまた地面に潜水しこちらの体をズタズタに切り裂こうと迫ってくる。こうなってしまえばこちらからの認知はほぼ不可能で、視覚はもいろん音も匂いも感じ取れない。


 だがこれも作戦通りだ。私は冷静にこの場を囲うように撒いた油に火を放ち引火させる。バッと一瞬で火が回り私と奴は逃げ道を塞がれる。地面の下に仕掛けておいた物が起動したから。


 突然地面の下からものすごい衝撃と爆音が伝わり辺りを揺らす。揺れの震源地からとにかく離れ奴がたまらず飛び出す瞬間を待つ。


「ゲホッ! ゲホッ! なんだこれ…」


 私の魔力が追加で籠った火の魔法石の爆発を直でくらい、奴は外皮にヒビを入れながら地上へと飛び出す。


火炎剣フレイム・ブレード!! 極点爆破チャージバースト!!」


 奴が私を認識するよりも早く接近して炎で作り出した剣の先に魔力を一点集中させ、ヒビが特に酷い場所に突き刺す。


「ぐぁぁっ!!」


 外皮の鎧は割れ中の肉まで達するが、トドメにはならず奴は爆風に飛ばされて私が先程着火した炎の壁にぶつかり地面にひれ伏す。


「な、なんてことを…ここら一帯山火事にする気なのか…?」

「あんたを倒したらすぐ火は消させる。私が勝って生き残ってね!!」


 生徒を殺し錬金術師達の夢を奪った奴に私は強気に啖呵を切って見せるのだった。

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