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02 トラブル→←ドリブル


「最終試験は自ら素材を調達して錬金。きっとあたし達なら大丈夫だよね!」


 二次試験が終わり寮に戻り、私は同室のティミスちゃんと緊張をほぐすために今日のことや明日の試験について話し合っていた。


 明日の試験は事前に知らされていた通り山での素材を自ら集め錬金し先生の元に届けるといったものだ。簡単ではないが、一次と二次に比べれば難易度は下がると言われている。


「山は魔物も出ない場所で危険もないし、誤って迷わないよう先生がルートに居るしね」


 ここまで来たら錬金術師の資格を得るまであと一息だ。やっと、やっと憧れの錬金術師になれる。


「そういえばフェートちゃんはどうして錬金術師になろうとしたの?」


 錬金術師。もちろん簡単に誰でもなれるものではなく、勉強や訓練が必要だし資格を得るためにはこうやって学校に入る必要がある。

 

 素材を組み合わせ魔力の籠った道具を生み出したり、素材の性質を更に高めたり。または未知なる物質を生み出して世界に貢献する職業。


 もちろん私には汗水垂らしてでもなりたい理由がある。


「私小さい頃実の親に山に捨てられてさ…」

「えっ、そうなの?」

「それで山を彷徨ってたらある村に辿り着いて、でもその村は何があったのか着いた途端すごい火に包まれたんだ」


 私の境遇に、特に火という単語に強く反応を示し、言葉にしなくても同情の念がこちらに伝わってくる。


「そこで色々あって…ある錬金術師に助けられて保護されたんだ。そこでそのお姉ちゃんと一緒に過ごして…錬金術を身近で見て憧れるようになったんだ」

「へぇ…なんだかあたしと似てるね」

「そうなの?」


 三年共にしていたが、思い返してみれば互いの身の上話などはしたことがない。今日が初だ。

 

 それだけ学校や試験の話で持ちきりだった。


「あたしも昔村が大火事で燃えた時に両親が亡くなって、そこで生き残った唯一の近所の人と一緒に教会の孤児院に入ったんだ」

「孤児院に…そうなんだ…」


 ティミスちゃんも私と同様に辛い境遇があった。少し不謹慎かもしれないがどこか親近感が湧き彼女がより身近な存在になったような気がする。


「でも孤児院ではいっぱい友達できたし、みんな優しいから特段苦労はしなかったかな。それに今もこうして大切な友達が居てくれるし」

「あはは…ありがとね」


 私もティミスちゃんが初めての同年代の友達だ。こんな優しく良い子と会えて私の方が幸せ者だ。


「絶対明日合格しようね!」

「もちろん! 私達二人で錬金術師になろうね!」


 明日の朝は早い。話もそこそこにし部屋の電気を消し私達は毛布を被るのだった。



⭐︎



「二次試験合格者は全員集まっているな。遅刻する馬鹿がいなくてなによりだ」


 翌日の朝。私達は試験会場である近くの山まで赴き各々緊張をほぐす。


「この試験では山の中から素材を取ってきてもらう。作ってもらう物は中級以上の火の魔法石だ」


 強い衝撃、つまりは投げたりすると爆発し周りを炎上させる石。中級になるとそこそこ値が張り錬金難易度も中々高い。


「私語や協力等は禁止とする。迷わないようにルートに複数人教師がいるので何かあればそちらに伝えるように。では中に入り散って始めよ。制限時間は今日の十四時までとする! それまでにここに持ってこい!」


 私達は別の先生に続き山の中に入っていき、あるところで散ってみんな単独行動になる。


 うぅ…山で一人か。叫べば先生か誰かしら来てくれるだろうけど、やっぱり心細いな…


 不安をなんとか抑え込み必要な素材を探す。この山なら火の魔力が籠っている火炎石があるはずだ。

 

 私の魔法でゴリ押しもできないのでまずはあれを探さなければならない。他にも必要な素材はあるが、そちらは歩いていればまぁ見つかるだろう。


 この山はしっかり国の管理が行き届いている場所で魔物や危険な生物が居ないことは確認されており、山賊等も居ない。安全に散策ができる。


「…〜!!」


 火炎石を探しに数十分歩いたところでどこからか人の声が聞こえたような気がした。だが生徒は私語が禁止されている。


 何かトラブルがあって先生に話してるのかな? それか転んだりしちゃったのかな?


 だが私は特段気にせず、火炎石がある可能性が高い日当たりが良い場所を散策する。


 …なんか変な匂いがするな。


 更に歩き私はやっと違和感に気づく。鼻につく普段では感じないような異臭。気にしている場合ではないのだが、つい好奇心が刺激され匂いの方へ顔を出す。そしてその好奇心を強く恨むことになる。


「ひっ…! これって…!?」


 茂みの中には見たことのある、何回か話したこともある女の子が横たわっていた。


 服を剥がれ血塗れの状態で。


「フランちゃん…?」


 私は倒れて目を瞑る級友の喉元に手を触れる。生温かく人の温まるがしっかりある。しかし一切脈打たない。手首を掴むが同様だ。


「し、死んでる…!!」


 茂みの中をよく見てみれば血がかなり出ていることは明らかで、死因は出血死だろう。しかもご丁寧に服が破られている。動物や魔物の破り方ではない。知能のある、人間の行ったものだ。


 酷い傷…それにこの傷…歯型がある? 人間に嬲られて噛み千切られて殺されたの? それにどの傷も致命傷になってない。じゃあ相当苦しんで…


 最初は恐怖が心を覆っていたが段々と怒りが込み上げてくる。力をこんな風に使い、級友を、同じ錬金術師を目指した者を無惨に殺したことに怒りを隠せなくなる。


「だ、誰か!! 先生!!」


 この試験は中断だ。犯人を逃さないためにも、被害を拡大させないためにも殺されないよう全員集まった方が良い。


「どうしたんだ…うっ、これは!?」


 若い男性教諭が一人来てくれるが、フランちゃんの酷い姿を見て口を押さえる。


「とにかく一人になるのは不味いな。他の生徒や教師も呼んできてくれないか?」

「は、はいすぐに!」


 私は彼から視線を切り他の人達を呼びに声を上げようとする。しかし違和感と背後から感じた殺気に咄嗟に前に飛び出る。


「はぁ…はぁ…せ、先生…? 一体何を…それにその手…?」


 彼の手はサメの頭部のようなものに変形しており、その歯には私の服の一部が付いている。


「あ〜あ。前々から感や才能がすごいと思ってたから不意打ちで苦しませず仕留めようと思ったのに。フランとは違って」

「待って…フランちゃんをやったのは…それにその手はまさか…!!」

「さいっこうだよ。夢見るキラキラした目から光りが失われていくのは」


 奴の全身が熱を帯びていき、手だけではなく全身が異形の怪物へと変貌していく。熱の放出が一気に強まり衝撃波で木の葉を揺らす。


「その姿…アグノス!?」

「アグノス…? あぁこれはそんな風に呼ばれてるのか」


 奴の変身したその姿はアグノスと呼ばれている異形の怪物であり、淀んだ色の他の動物を模した鎧を纏っている風貌だ。凶暴性が高く人間を襲い残虐に殺すという習性がある。


「まぁいい…少々面倒になったが、お前も見せてもらうぞ。夢が砕け散って死ぬ瞬間を!!」


 もはや先生ではなくなった異形の怪物が襲いかかってくる。両手と頭部についた鋭く大量の牙がついた口。奴はそれらをむき出しにしてこちらをズタズタにしようとしてくる。


火炎盾フレイム・シールド!!」


 咄嗟に吹き出させた炎を盾に変えて奴との間に突き刺して設置して後ろに引き下がる。奴は火を突っ切って来ようとするが、私の高濃度の魔力の炎を突っ切れず一歩下がる。


 私のあの炎の中に数秒入ったのに火傷痕が一切ない…やっぱりアグノスの皮膚は硬い…普通のやり方じゃ攻撃が通らない…!!


 採集用のナイフやハンマーは持っているが、そんなものでは奴の硬い外皮を壊すことは不可能だ。得意な魔法も攻撃用には使ったことがあまりないので練度もイマイチ。決定打に欠ける。


「流石は学校一魔力が高い奴だ…そこだけは今の俺でも叶わないって認める…だが人間のお前には俺は倒せない!!」


 奴は突然地面に頭からダイブする。気でも狂ったかと思ったが奴は正気だった。


 潜ったその地点のみ水のように波紋を発生させ、奴は地面に潜り姿を完全に隠す。

 

「まずい!!」


 すぐさま私は踵を返し逃げ出す。だが目の前の地面から奴が飛び出して来て腕を突き出し顔に喰らいつこうとする。


 体をのけ反らせなんとか直撃は避けるが、左腕に少し牙が当たってしまったようで皮膚が裂けて血が垂れる。


「へへへ…次は外さないぜ」


 奴は手についた血を頭部の口で舐め取った後にもう一度地面に潜水する。


炎剣フレイム・ブレード!!」


 私は咄嗟に炎の剣を地面に突き刺し魔力を手に溜める。


爆発バースト!!」


 剣に十分魔力を送り込み、後ろに退避しつつその魔力を一気に解放して地面に熱を伝える。辺り一面が揺れ熱は地上にも伝わり草木の一部がジュッと燃える。


「あっつ!!」


 私の真下に居た奴は堪らず飛び出す。だが皮膚に損傷はほとんど見られず変色もない。


「つまらねぇな。まぁいい生徒はお前の他にもたくさんいるんだからな。じゃあなもう二度と会わないだろうがな」

「まさか…待てっ!!」


 すぐさま魔法を放とうとするものの奴の方が一手早かった。地面に潜り完全に姿を消して居なくなる。


 構えるが攻撃の気配がない。本当に私以外の人のところに向かったようだ。


「まずいこのままじゃみんなが…!!」


 私は叫びながら山を駆けみんなを集める。必死に、ティミスちゃんや他のみんなを助けるべく全身全霊で声を張り上げるのだった。

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