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24話 空から来たるもの


「この化け物め!!」


 ガペーラさんは既存の魔物ともアグノスとも思えない異形の怪物に臆することなく斧を振り下ろす。それは奴の体を一刀両断し致命傷を与える。


「ぎぃぃぃぃ!!」


 奴は大気を震わせるほどの雄叫びを上げ私達は、ガペーラさんすら耐えられず体を硬直させてしまう。


「体が…まずい…!!」


 あの触手で掴まれたらお終いだ。奴の巨大なそれがガペーラさんに触れる。


「……」


 しかし触手は何もしてこない。こちらを舐め回すように見た後煙を出しその姿を隠す。


「はぁはぁ…あ、風よ!!」


 硬直が解けたので不意打ちがされないよう彼女が咄嗟に風を吹かせ煙を掻き消す。


「よくも…って、男の子?」


 ガペーラさんが素っ頓狂な声を上げる。それも仕方ない。煙が晴れた場所に居たのは先程の化物ではなく、可愛らしい男の子だったのだから。


「⚪︎△φφ∬?」


 ガペーラさんやティミスちゃんと全く同じ人間にしか見えないが、服は見たこともない材質とデザインであり、更に発する言葉は聞いたことのないものだ。


「やっぱりこいつあの芋虫か。なら!!」


 ガペーラさんは状況を把握するなり迷うことなく素早く斧を振り下ろす。だが奴はふわりと体を浮かせるように立ち上がりながら後ろへ跳びそれを躱す。


「ちっ、ちょこまかと…!!」

「待ってくださいガペーラさん!」


 私は追撃して確実に命を奪おうとする彼女の腕を掴み止めさせる。


「離すんだここで倒しておかないと…」

「彼…手を上げて首を振ってますよ?」


 男の子は敵意がないことを示すように両手を上げ首をぶんぶんと横に振る。その眼差しからはこちらと友好的な関係を築きたいという意図が汲み取れる。


「油断はしない方がいい。念の為ティミスはそこの木の裏まで下がってて」


 武器を構えたガペーラさんが先頭に徐々に彼に近づいていく。


「安全のためとりあえず両腕を縛らせてもらうぞ」

「…?」

「言葉が通じていないのか?」

「…! コトバ…ツウジテナイ…デス?」


 無抵抗の彼の腕を後ろで縛っている最中。彼は何か閃いたような顔をし、カタコトだが文脈を繋げて発してみせる。


「こいつもう言葉が…一体なんなんだ…?」


 ガペーラさんの向ける嫌疑の視線がより一層強くなる。例え彼が違う言語圏から来た人だと仮定してもこの速度で言語を上達するのは明らかに異常だ。


「でも…よく見ると可愛いねこの子」


 ティミスちゃんが覗き込むようにして彼の顔をじっと見つめる。確かに彼の顔立ちは幼いながらも整っており、美しさと可愛らしさを両立した芸術品のようだ。


「あまり近づくなよ。縛ったとはいえまだ何するか分からない。それにこいつはフェートを押し潰そうとしたんだ」

「うーん…でも、どちらかというと倒れた拍子にって感じな気も…」

「冒険者は警戒しすぎの方がいいんだ。ほいお前はここに座ってろ」


 ガペーラさんは木の側に彼を座らせ更にそこに縛り付けて動けなくさせる。警戒しすぎだと思ってしまうが、先程のあの異形っぷりを見るとこれくらいじゃないと安心はできない。


「スワッテル…ミカタ…」

「あ! また喋った!」


 ティミスちゃんは彼に興味津々のようで目を輝かせて彼の前に屈む。まるで可愛い弟かペットができたようで、物を持ってはその言葉を教えている。


「ヤクソウ…ブキ…」

「そうそう! 頭良いんだね!」


 それにしても彼の言語習得能力には目を見張るものがあり、一度教えたものは大体理解している。


「とりあえず交代で見張りながら寝るぞ。一応二人はボクの後ろで寝るように」

「はぁい」


 とはいえ起き続けるわけにもいかない。ガペーラさん、ティミスちゃん。そして私の順番で見張ることにして一旦私は長い眠りに着くのだった。



⭐︎

  


「フェートちゃん? 交代の時間だよ」

「ふわぁぁ」


 四、五時間程寝ただろうか? 私はティミスちゃんに揺さぶられ目を覚ます。水を軽く顔にかけ、見張り番を交代する。


「…君は寝ないの?」


 男の子は眠った様子はなく、辺りをキョロキョロと見渡している。


「あっ、ごめんね…少しでも情報が欲しくて」 

「っ!?」


 彼は既に流暢に喋れるようになっており、それに明らかにこちらの発言の意図を汲み取っている。


「いつから喋れるように?」

「さっきの…ティミスさんに教えてもらって。見張りは暇だからって」

「あぁ…」


 妙に納得してしまう。ティミスちゃんなら警戒心より好奇心の方が勝ってしまうだろう。


「それより君は一体何者なの? あの触手の怪物…なんだよね?」

「あれはごめんね…急いで外に出て様子を確認しようとしたら転んじゃって」

「あっ…やっぱり敵意はなかったんだ」


 彼の表情は完全に無垢な子供のそれである。こちらへの害意などは一切ない。


「じゃあ君は魔物…なの?」 

「えーと、当たらずも遠からずかな。ボクはこの星の外から来た…いわゆる宇宙人なんだ」

「えっ!? 宇宙人!?」


 二人が寝ているというのについ大声を出してしまう。


 そりゃ人間じゃないとは思ってたけど…宇宙人って…えぇ…


「本当に?」

「うーん…あ、そこの箱取って。その中宇宙船になってるから」

「え? この箱が?」


 空から落ちてきたあの箱。確かにあの速度で落ちてきたというのに外面に傷は見られない。見たこともない材質だ。


「それに触れれば宇宙船の中に…あれ? 起動しない」


 彼は何度も足先で箱を突くが何も起こらない。


「ちょっと調べるね」


 彼は指先だけを触手に変え箱の中に入れる。調べるようにうねうねと動かし彼の表情が段々と暗くなる。


「まずい…部品がいくつかなくなってる」

「えっ!? それってまずいの…?」

「うん。ほとんどはこの星でも調達できると思うけど、一つだけ絶対に無理なものがある。多分ここに墜落した時にどこかに…」


 この箱、つまり宇宙船は隕石のように墜落してきた。恐らく何かしらの原因で本体から離れていったのだろう。


「多分だけど、経年劣化で外れてどこかに落ちちゃったみたい…これじゃあ他の星に行けない…」

「まずいの?」

「うん。他の惑星にいる友達が病気で、治療薬の素材を採取して届ける途中だったんだ」

「じゃあ宇宙船を治さないと…」

「時間がないわけじゃないけど、このままじゃまずいかも…」


 触手を人間の手に戻し、箱を手に持ったま

ま落ち込んだ様子を見せる。


「なら私がなんとかするよ!」

「えっ…?」

「無くなった部品は私が探すし…それに作れるなら錬金するから。こう見えても私錬金術師なんだ!」

「錬金…あぁそうだね…ほとんどの部品は作れると思うけど…一つだけは見つけないと」

「じゃあ明日から探そ?」


 私はしゃがみ彼の眼を見て話す。


「ありがとう…どうして初対面の僕にそこまで?」

「私ね。少しでも誰かの役に立ちたくて。せめてもの…」


 そこまで言いかけたところで一度口を紡ぐ。こんな暗い話この子にするべきではないと。


「とにかく困ったことがあれば私が助けるから。あ、そういえば君の名前は? 私はフェート・アゲイン」

「僕はイクト。よろしくねフェート」

「うん、よろしく!」


 夜明け前の暗い中、私達は正反対に明るい表情を浮かべるのだった。

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