23 流れ星に願いを
「疲れたぁー」
騎士団の人達の事情聴取を終え、捕まっていた子達を保護してもらったらもう朝になっていた。
「うぅ…眠いよぉ」
ティミスちゃんも私同様に疲れ切っておりこちらに体をもたれさせ体重を乗っけてくる。
「ちょっ…重たい倒れちゃうって!」
「うぅ…」
重たいと言われたことに頬を膨らますが、共倒れになるわけにもいかないので彼女を引き剥がし真っ直ぐ立たせる。
「というよりどこに向かってるんですか? 宿は逆方向じゃ…」
「もう大丈夫だよってあの子に伝えにね」
「あの子…?」
疲労した頭はよく回らず、何のことか分からないながらもガペーラさんについて行きあるバーに辿り着く。
「あら。お帰りガペーラちゃん」
まだ営業準備中だがガペーラさんは中に入り、そこに居た美人なお姉さんは私達の入店を事前に知っていたかのように快く笑顔で迎えてくれる。
「えっとここは…?」
「この街で一番安心できる場所だよ。ところでママ。リロは大丈夫だったかい?」
「えぇ二階で寝てるから様子見に行ってやって」
「ありがとうございます」
私達は階段を上がり二階の部屋に入る。
「あ、お姉ちゃん達だー!」
そこには先日森で助けた女の子、リロちゃんが人形で遊んでいた。
「大丈夫だったかい?」
「うん! お姉さんも遊んでくれるし、お人形もたくさんあるし!」
ここで何不自由なく過ごせていたようで顔つきもだいぶマシになっている。
「お母さんに会えるの…?」
「あぁ。もう大丈夫だ」
ガペーラさんはリロちゃんの頭を撫でて優しい笑顔を浮かべる。
「ほら。行くよ。家はここから近いんでしょ?」
「うん!」
私達はリロちゃんを連れて早朝の街を歩く。
「あ! お母さん!」
家があるという場所に近づくとリロちゃんは一人の女性の元に駆け出す。彼女は目元に深い隈を作っていたが、リロちゃんを見るなりぱあっと表情を明るくさせる。
「リロ…!!」
走って来たリロちゃんをがっしりと受け止め抱擁する。母親は周りの目など気にせず娘が帰って来たことにめいっぱい涙を流す。
「怖かった…うわああん!」
リロちゃんもつられて涙を流しお互い強く抱き合う。もう離さないように。
「あの…あなた達が助けてくださったんですか?」
十分程抱き合った後母親が涙を拭きながらこちらに尋ねてくる。
「はい。色々ありまして…後日騎士団の人が伺いに来るかもしれませんが、もう大丈夫です」
「ありがとうございます…ありがとうございます…!!」
何度も感謝の言葉が浮かべ、二人は良い笑顔を浮かべる。
私にとってそれがなによりも良いお礼だった。
⭐︎
「そういえば十日くらい前に助けたあの子…リロちゃん? 街を出る前に少し様子を見て来たけど、ちゃんと幸せそうに暮らしてたよ」
「そう…良かった」
街を出てしばらくしてティミスちゃんが口を開く。
私達は今他の街に向けて旅を始めていた。ガペーラさんが言うにあの街にはもうアグノスが居る可能性が低いので他の街に移動するとのことだ。この動きはお姉ちゃんとの旅でもあったので私は二つ返事で了承し今こうして山の中に居る。
「二人とも大丈夫かい? とりあえず次の目的地まではそこまで離れていながら徒歩を選んだが…」
「あ、はい大丈夫です! ついでに色々素材も採集できますし」
馬車での移動では無理だったが、徒歩なら時々目につく素材の回収などもできる。進行に遅れが出てしまうのが玉に瑕だが。
「あ! あれ良い素材じゃない!?」
「え、本当!?」
そんなことを考えている内にティミスちゃんがまた新しい素材を発見する。そんなこんなで気づけば日が落ちてしまっており私達は街まであと数時間のところで野宿することになる。
「うーんやっぱり長時間歩くのは疲れるー」
私は自分の足を揉みほぐす。筋肉が緊張してしまっており硬くなってしまっている。素材集めもいいが程々にしておくべきだろう。
「あっ! 流れ星だ!」
ティミスちゃんの指差した方にはキラリと光り流れていくお星様があった。
「へー。確か流れ星に向かって願い事を三回言えば願いが叶うんだっけ?」
「あーそう言えばそんな迷信ありましたね。あっ! なら早く願わないと!」
私とティミスちゃんは流れていく星を見つめて願いを念じ始める。
みんなの笑顔が守れますように。みんなの笑顔を守れますように。みんなの笑顔を守れますように。
私はしっかり三回願いを念じ終わる。最後のを言い終わった後に流れ星は消え見えなくなる。
「ねぇねぇティミスちゃんは何を願ったの?」
「えーとね。みんなとこのまま何事もなく旅ができますようにって」
「ティミスちゃんらしいね」
本当に彼女らしい優しい願いだ。
「フェートちゃんは?」
「私はみんなの笑顔を守れますようにって」
「フェートちゃんも相変わらずだね」
「あ、ちなみに願い事を他者に伝えると叶わなくなるって迷信もどこかで聞いたことがあるね」
二人でキャッキャッと盛り上がっている中、水を刺すようにガペーラさんが冷たい一言を放つ。
「えぇ!? そうなんですか!?」
「じゃああたし達のお願いは無駄になったってこと!? もう…もう少し早く言ってよ!」
「ふふふ…ごめんね」
ガペーラさんは愉快そうに小さく笑い、そして少し驚いた様子で空を見上げる。
「また流れ星…?」
怪訝そうな顔つきに私達も気になり空を見上げる。そこにはまた星が流れていた。下から上に。
「えっ…あれおかしくない?」
「段々と大きくなってる…まずい二人とも伏せろ!!」
私達は流れ星、いや迫り来る隕石の直撃を避けるべく木の裏に隠れ伏せる。
数秒後私達を凄まじい衝撃が包み込む。土埃が舞い辺りの木々が引火する。
「まずい…!! はぁっ!!」
私は手を突き出し辺りの炎を操り鎮火させる。そこまで広がってなかったのでなんとか山火事を防げた。
「隕石…か? いやあれは…」
ガペーラさんが降って来たそれを見つける。立方体の金属の箱だ。
「なんでしょうねこれ? いや触れるのはやめと…」
「危ないっ!!」
突然ガペーラさんに肩を掴まれ箱から離れさせるように強く引っ張られる。そして私の死角で、背後でドスンと大きく鈍い音がする。
「ふ、フェートちゃんあれ…」
更に離れたところに居たティミスちゃんが震えた手で指差す。そこにあった悍ましいものを私は視認する。
巨大な触手だ。一軒家と同等の大きさがあり、芋虫のような形状で体をうねらせ、皮膚からはところどころ触手が出てうねっており更に枝分かれしている。
「気持ち悪い…」
その冒涜的な形状につい私は罵りの言葉を溢してしまう。
「今そいつその箱から出てきてフェートを潰そうとした…! 武器を取るんだ! こいつは敵だ!!」