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22 迷いの一撃


炎盾フレイム・シールド!!」


 彼女は炎の盾をこちらに投擲し俺の背後で爆発させ炎の壁を生成する。


 引き下がれない…!!


 そして迫ってくる剣による猛攻を槍でなんとか受け流す。氷を溶かす炎。油断したら殺されてしまう。


「許さないマーチ…!!」

「ちがっ…………」


 否定しようとしたが声が喉から出てこない。今俺が説明を加えたら、エディアがアグノスということがバレる。そのことが俺の喉にブレーキをかける。


 それに脳裏を過ぎるガンマさんの言葉。


『きっとお前がアグノスって分かれば容赦なく殺してくるぞ。聞いた話ある程度戦えるんだろ? きっとアグノスは許さないって言ってお前が無抵抗だとしても容赦なくグサッ! てな』

『分からなかったら? 次はないぞ』


 そのことが言葉を詰まらせるのに拍車をかける。


「くらえっ!!」


 彼女は俺をマーチだと、悪だと思い込み容赦なく正義の鉄槌を下そうとする。


 どうすれば良いんだ…早くしないとマーチが逃げる。でも彼女にはどう説明したら…いや結局俺は彼女から殺されるという結末は変わらないのか…?


 思考が巡り絡みつき雁字搦めになる。必死に避けるが限界が、死がすぐそこまで迫ってくる。


「きゃっ!!」


 追い詰められどうしたらいいのか分からなくなり、咄嗟に出てしまった手が彼女の頬を掠る。


 ぽちょんと一滴の血が俺の腕を伝い地面に落ちる。


 普通なら当たっても少し腫れるだとかそんなところのはずだ。だが今の俺はアグノス。尖った外皮が彼女の皮膚を切り裂いた。


 俺の腕の上に流れる血を見てあの時の光景が鮮明に蘇る。また吐き気が胸に込み上げてくる。


「くっ…!!」


 攻撃に転じたことで彼女は警戒を見せ一旦距離を取る。しかしその瞬間遠くでマーチが飛び立ち俺達の注意はそちらに向かう。


「えっ、アグノスがもう一体…!?」


 情報の手札が少なく動揺する彼女を傍目に俺は奴に向かって跳び上がりこの場から立ち去る。


「ぐっ、離せ!!」


 まだ高度が低い所に居た奴に抱きつき飛び去るのを妨害する。


「落ちろ…!!」


 攻撃を躱しつつ拘束を続け、羽を掴み引き千切る。


「ぐあぁっ!!!」


 血を吹き出す奴にしがみついたまま俺達は落下していく。


「貴様…許さん…許さんぞ!!」


 奴は蜂には似合わない屈強な足で立ち針をこちらに向ける。


炎加速アクセル・バースト!!」


 後ろからフェートが炎を噴出させその推進力で飛び込んでくる。


 仕方なく攻撃を止め、俺は防御に徹する。


「うぐっ!!」


 しかし俺に衝撃が加わることはない。真紅の剣はマーチを捉えていた。


「事情は分かりませんが…あなたは味方…なんですか?」


 俺はゆっくりと頷いて問いかけに答える。


「またちょこまかとぉ!!」


 奴は針を振り回すがそんな攻撃は俺達に当たるわけもない。 


 数秒間を置いて、意見を合わせるように俺とフェートは互いに視線をぶつけ合い、そして同時に息を合わせ駆け出す。

 

「ぐっ…うぉぉ!!」


 迫る二手に奴は苦し紛れに両手で同時に突く。俺達はそれを完全に見切って躱し各々武器を突き出す。


 鈍い切り裂き音が一つ響く。奴は前面背面共に深く長い切り傷を作る。


「こんなところで…!!」


 奴の体が村で倒した奴らのように霧散していく。 


「よっと」


 フェートは飛んでいく粒子をまるで虫を網で捕まえるようにして瓶の中に閉じ込める。


「あの…それであなたは一体…」


 大体の事情は察してくれたのか、敵意を完全に取り下げてこちらに尋ねてくる。


「…………」


 俺は無言を貫き後ろに跳んでそのまま森の闇に消える。


「待っ…!!」


 背中に制止の言葉が投げかけられるがそれすらも聞こえなくなるほど速く、遠くに逃げる。


「ここまで来れば…」


 ある程度離れたところで変身を解除して人間の姿に戻る。一息ついて荒れた呼吸を整える。


「おい小僧!」


 数分すればガンマさんが闇の中から現れる。


「マーチは?」

「なんとか倒せました。たださっきの二人の仲間に誤って攻撃されちゃいましたけど、人間から変わる姿は見られてないから大丈夫です」

「はぁ…そうかい」


 ガンマさんは呆れて帽子を深く被り悪態をつく。それから俺達は歩いて三人を見つけ合流する。


「…という感じで謎のアグノスと交戦しましたが、何故かそいつもマーチを襲い出して。なんとか倒すことはできました」


 お互いに情報を出し合い起こったことを共有する。


 まとめると三人が奴隷の子達を助けるべく動きフェートは保護に動いて別行動してたらしい。


 それであとから追いかけてきて俺と鉢合わせたのか…


 本当に運の悪い話だ。下手をしたらどちらかが死んでいてもおかしくなかった。


「とにかくそちらのお二人。協力感謝する」


 ガペーラと名乗った女性が丁寧にこちらに頭を下げる。


「いえこちらもなんとかなったようでよかったです。それより例の…角が生えたアグノスっていうのは?」


 もしかしたらバレているかもしれない。俺はそれとなくフェートにその件を尋ねてみる。


「何者かは分かりませんでした。ただ…悪い人じゃないと思います」


 確かにハッキリと、迷いなくそう言い切る。


「マーチを狙ってましたし、それに私の頬に傷を作った時明らかに動揺していました。まぁ私の直感ですけど」

「そう…」

「だからもし今度会うことがあれば、その時は話し合ってみようと思います」


 話し合っても分からない。次はない。ガンマさんから言われたあのセリフ。だがそれら全てを彼女は否定してくれる。


 俺はそこにほんの些細な光を見出した。


「後始末はボクが色々手配している。通りがかりの君達に負担をかけて申し訳なかった」

「あ、いや大丈夫です…それじゃあ俺達はこれで」


 お言葉に甘えて俺達はこれで帰らせてもらうことにする。


「ふぅー思ったより疲れたな。まさか魔物を呼ぶ能力を隠していたとは」


 家に帰り俺達は各々腰掛け疲れた体を休ませる。


「だが金品の回収とマーチの撃破は無事完了。お前も良い働きだったぞ」

「…ありがとうございます」

「で、これからお前はどうすんだ? 上からはお前を組織に入らせろって言われてるんだが」

「俺は…」


 マーチの屋敷での出来事。そしてフェートのあの言葉。俺はある一つの結論を出す。


「俺はガンマさんについていきます。しばらくは」

「あ? つまり組織に入るってことか?」

「ガンマさんを信じてみることにします。アグノスであるあなたを、それで組織については自分の目で見て、話し合って考えます」

「ちっ、あのガキみてぇなこと言いやがって」


 誰かを疑うなら信じて、腰を据えて話し合ってみたい。それが彼女から影響を受けた俺の答えだった。

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