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20 人殺し


「今だ。ついてきて」


 警備の人に気づかれないよう物陰に隠れつつ部屋に入って何かないか調べたり捜索を続ける。


「うーん見つかりませんね」

「まぁそう簡単に見つかる場所には隠さないか。リロの話ではどこかまでは特定できなかったし…どうするか」


 それから十数部屋調べてもめぼしいものは見つからなかった。


「誰か近づいてくる…!?」


 部屋の中で私が廊下に聞き耳を立てていると段々と足音が近づいてくる。


「人数は?」

「一人です」

「警備じゃないな…一旦そこのタンスに隠れよう」


 私達は部屋に備えついていたタンスに隠れ息を潜める。隠密魔法も使っているのでバレることはないだろう。


「あれは…マーチ…!?」


 ほんの少し開いた隙間から部屋に入ってきた人物を確認する。それはこの屋敷の主人であり現状一番怪しいマーチであった。


 彼は本棚にある本を一冊押し込み、壁付近に出現した謎の球体に手を翳す。すると壁の一部が消えて地下室に繋がっていると思われる階段が現れる。


「ふふ…」


 マーチは悪どい笑みを浮かべ地下室への階段を下っていく。そしてその後すぐに階段や球体は消え本も元の位置に戻る。


「消えた…? これかな…」

「待て。下手に触らない方が良い」


 本棚に伸ばした手を掴まれ止めさせられる。


「先程のを見た感じ、恐らく球体でマーチの魔力を感知して開く仕掛けだろう。ボク達じゃ開けられない上何が起こるか不明だ。下手したら証拠隠滅用に何か仕組んでる可能性もある」

「確かに…」


 他の人の魔力を感知したら中を燃やす…という可能性もある。他の出入り口がないと言い切れない以上下手に出れない。


「徹夜して明日に影響を及ぼすわけにはいかない。先に何があるか分からない以上一旦引こう。勝負は明日あたりだな…」


 もう今の時点でかなり眠い上疲労も溜まっている。ここで調査は切り上げ部屋に戻り休息を取るのだった。



⭐︎



「ふぁぁぁ」


 翌日、私はベッドから起き上がり大きな欠伸をかく。


「おはようフェートちゃん! 大きな欠伸だね」

「ん…んぅ…」


 まだ目が覚めきっておらず、私はぼやける思考の中で再び毛布を被ろうとする。


「ちょ、ちょっと! 起きないと! 仕事もあるんだから!」

「しご…あ、あぁそうだった…」


 私は頭をぶんぶんと振り意識を覚醒させる。昨日のことや今日やるべきことを思い出し体を起こす。


「あはは髪ボサボサ。直してあげる」

「ん、ありがとうティミスちゃん」


 ベッドに乗ったまま髪を解かしてもらい、その間にガペーラさんが料理を作り終える。


「はい。三人分作れたよ」

「ありがとうございます」


 私達はスープとパンを食べ、私とティミスちゃんは錬金、ガペーラさんは警備に向かう。


「よし! 作り終えたし納品も完了。午後は二人で見回りだね」

「あたしは大丈夫だけど、フェートちゃんは体調大丈夫? 昨日まあまあ長い間調査に行ってたけど」

「ちょっと寝不足かもだけど、ガペーラさんも頑張ってるし私も頑張らないと!」

「そうだね…仕事はあたしがやるからフェートちゃんは休憩してて」


 仕事の一環である焼却炉の準備に取り掛かる。ゴミの入った炉にティミスちゃんが薪をくべ、最後に私がちょちょいっと火を点ける。


「…ん?」


 火を点けた直後何か音が聞こえたような気がするが、ティミスちゃんは何も喋っていない上周りには誰もいない。


「焼却炉が動いた…?」


 一瞬ガタリと焼却炉が動いたような気がして意識がそっちに向けられる。


「フェートちゃん? もう行かないと」

「あっ、うんそうだね…」


 特に気にすることなく私達は警備に戻り、念の為外に何かないか探すが進展はなく夜になり部屋に戻るのだった。


「二人とも話がある」


 三人揃うなりガペーラさんが深刻そうな表情で口を開く。


「どうしたんですか?」

「まず今から見せるものに悲鳴を上げないで欲しい」

「はい…それで?」

「焼却炉からこんなものが見つかったんだ」


 ガペーラさんはポケットから白くて細長いものを取り出す。


「何ですかそ…ひっ!」


 その正体を理解してしまい小さな悲鳴を漏らしてしまう。声は押し殺せたものの恐怖により心臓が締め付けられる。


 ティミスちゃんも悲鳴は上げないものの顔を真っ青にし一歩退く。


 人間の骨だ。恐る恐る触れてみるが感触は記憶と合致する。


「待ってください。もしかしてこれって、屋敷の東側にある焼却炉で見つけましたか?」

「そうだが…何故それを?」 


 全身から血の気が引いていき頭が真っ白になる。言葉が出なくなりみんなを待たせてしまう。


「私…その焼却炉に火を…自分の魔法で人を…!!」


 わざとではないにしても私は人を燃やしたということになる。それにあの時ほんの少しだが焼却炉が揺れた気がした。つまり、火を点けた時点では生きていた可能性が高い。


 私は生きた人間を燃やし殺してしまったのだ。


「人を…殺した…?」


 心臓が強く鳴り眼前が真っ赤になる。歯がガタガタと震えトラウマが刺激される。


「焼却炉の奥の方に隠されるようにあった。仕方ない。君のせいじゃないさ」


 ガペーラさんが私の動揺を察知して慰めの言葉をかけてくれる。だがそれは揺れ動き続ける心を止めることはできない。


「フェートちゃん!」


 しかしティミスちゃんが強く肩を揺さぶってくれたおかげでなんとか現実に戻ってこられる。


「あ、ご、ごめん…そうだね。切り替えないと…」


 逃げるようにして骨から視線を逸らし話題を次に進める。


「ボクの推測だが、恐らくこの骨は昨日マーチが入れたものだろう。あの地下室に誘拐した子供とかが居て、残酷なことをしてあの焼却炉で燃やしてるといった感じだろう」


 人間を玩具にしている。そんな残虐非道な行為に言葉に出来ない怒りを覚える。


「じゃあ今からでも…」

「待つんだ。今行っても白を切られるだけだ。あいつが地下室への階段を出したあたりで不意打ちで気を失わせるのがベストだ。それとちょうど良いタイミングで騎士団が来るようにも手配しておく。この骨があれば流石に動かざる得ないだろう」

「そう…ですね」


 上った血を冷めさせ一旦落ち着くべくベッドに腰掛ける。


「とりあえず実行は夜だ。今回は三人で動いて確実に奴を止める。時間になったら起こすから君達は今のうちに体を休めておいてくれ」 


 それから作戦を組み立て実行はおおよそ三時間後からになる。それまでまだ時間はあるので、私とティミスちゃんは武器の手入れなど戦う準備を整える。


「時間だ。まずボクとフェートが例の部屋で待機する。奴がアグノスに変わったあたりで合図を出すからティミスはその対応と他の人達への説明と避難誘導を頼む。それと地下室から連れ出した子達の保護も」

「うん任せて!」


 準備は整った。ティミスちゃんはすぐに部屋を飛び出せるようスタンバイし、私達は隠密魔法をかけまた例の部屋のタンスに待機する。


「今日も来ますかね?」

「分からないが来る可能性は高いと踏んでいる」


 ただじっとタンスの中でマーチが来るのを待つ。


 そして昨日と同じ時間にこちらが潜んでいるとも知らずにマーチがのこのことやってくる。


「来た…!!」

「まだだ…地下室への階段を出すまで…」


 本棚を押し球体を出現させる。そして奴は球体の方に手を翳し階段を出現させる。


「今だっ!!」


 私達はタンスから飛び出し、ガペーラさんがマーチにタックルをし吹き飛ばし、私が地下室への階段を駆け下りる。


「なっ!? 待てっ!!」

「お前の相手はボクだ!!」


 私を止めようとするマーチをガペーラさんが食い止める。


「行け!!」


 彼女の号令を背中で受け、私は地下室への階段を駆け降りるのだった。

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