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19 潜入


「はい。服とか買ってきたよ」


 私は購入した衣服などをベッドの上に置いていく。


「ありがとうございます…」


 彼女は用意した服に着替え、最後にフードを被り髪などを隠す。


「これなら見えないね。二人ともありがとう」

「いえいえこれくらいなら。それとこれからどうしますか? ずっと匿うのも無理でしょうし」

「それなんだが…良い作戦を思いついてね。ボク達も彼の部下になればいいんだ」 

「部下…に? それはどういう?」


 私には彼女の思いついた作戦というのが理解できなかった。


「奴のところの警備になればいいんだ。そして隙を見て証拠を掴む。それとアグノスであると思われるマーチを倒す」

「確かに忍び込むよりかはアリだけど、そう簡単にいくかなぁ?」

「そこは二人の錬金術の出番だ。君達の腕を売れ込み、更に強さもアピールすれば雇ってもらえる可能性は高い。それに無理でも屋敷に入る大義名分はできる」


 面接や売り込みに行くにしても少なくとも内部構造や怪しい場所を推測するくらいはできるだろう。暴れなければ向こうも何もしてこないだろうしリスクもない。


「とりあえずボクは彼女を安全な場所に送り届けるついでに屋敷の警備とか求人を探して何とかしておくから、君達は何かしら作っててくれ」

「はい!」


 ガペーラさんが送り届けている間に私達は早速錬金に取り掛かる。


「何作るティミスちゃん?」

「うーん警備か。多分夜とかだよね?」

「そうだね…じゃあ光る系の物でも作る?」

「いいねそれ!」


 私達は楽しく会話を弾ませ錬金の準備をしていく。


「今ある素材で…あっ、誰でも使いやすい投擲物で色とか付けれて…いや発光の方がいいか。逃がさないために」

「発光なら私の火の魔力で機能は付与できそうだし…」


 それから数時間錬金釜の前ではしゃぎながら良さげな道具を作る。


「ただい…お、何かできたらしいね」


 ガペーラさんが帰ってくる頃には錬金は終えており、持続的に光る発光石や、衝撃により粒子を飛び散らせ服に付着したら数時間発光する玉などを床に散らばらせていた。


「とりあえずこっちは明日の昼に面接のアポが取れたよ」

「ならそれまでに量産はある程度できそうですね。リロちゃんは大丈夫でしたか?」

「無事送り届けたよ。もう安心だ」

「よかったぁ」


 とりあえずひと段落し深呼吸する。作った物をまとめてアイテムボックスにしまい、私達はまた作戦会議を始める。


「とりあえず向こうには警備と錬金で作った商品の流通。そしてできれば錬金の場所と素材の提供してもらうことを持ちかけてみた」

「向こうの専属って体なら寝泊まりとかもできますからね」


 ある程度方針が固まってくる。とりあえずは上手くいく確率は八割ほどといった感じだ。


 目的は奴隷などの違法行為の証拠を掴むこと。そしてマーチがアグノスだと確定したら撃破することだ。


「だが危険も多いから安易に飛び掛からないように。できるだけすぐに情報を共有し三人で動こう」

「そうですね…私やティミスちゃんだけじゃ勝てないかもしれませんし」

「急ぎつつも慎重にいこう」


 相反する条件の元頭を悩ませつつも時間は進み、マーチの屋敷に向かう時間となる。


「あ、こちらです!」


 屋敷の前に居た警備の人に案内されマーチの部屋まで通される。


「マーチ様! 今日の予定にあった三人をお連れしました!」

「入ってよいぞ」


 私達は通され豪華な装飾が施された部屋に入る。そこの上座に恰幅の良い男が座っており、私達は指示されるがまま向かいのソファーに座る。


「それで錬金で作った物と警備の話と聞いているが?」

「はい。まずこちらが錬金で作った物です」


 私はアイテムボックスから先日作った発光石と炸裂石を見せそれぞれ説明を行う。


「黄色の方が微小な魔力に反応して光り続け、赤色の方は衝撃で逃亡者や侵入者を発光させるか…ふむ。結構良いではないか」


 私達が作った物はマーチの興味を引いてくれたようで、彼は興味深そうに石を手に持ち吟味する。


「内在する魔力も質が良い。本当にお前達が作ったのか? まだ若いように見えるが」

「はい。私と彼女で作りました。それ以外にも魔法はある程度は使えます」


 私達三人は冒険者カードを提出する。


「ほう。一応あの試験は突破できているのか。よし。ではそちらの条件を飲んで働かせてやろう。それと錬金物も良い値で買おう」


 無事商品は買ってくれることとなり、私達は早速今日から警備に就くことになる。


「えーっと、あたし達三人はこのルートを巡回だよね」


 この前三人警備の人が行方不明になったらしいので、私達はその埋め合わせとなる形で配置される。


 あの人達は今頃伸びてて誰かに保護されてる頃だろうな…


 日が落ちて暗くなった庭を自分達で作った発光石片手に歩き回る。


「外観を見た感じ怪しいものはないね。地下室に繋がってそうな隠し部屋や蓋はない…となるとやはり室内か?」


 ガペーラさんは警備しつつも怪しい箇所などを随時調べてくれている。三人体制で他の警備の人に怪しまれないよう調査を続ける。


「どうガペーラさん?」

「見た感じ外にはない…まぁ内部の方が安全だしそれもそうか」


 警備の巡回を進めていき私達は屋敷内に入り一転して明るい廊下を歩く。


「確か部屋は入らないようにって言われてたよね?」

「そうだね。やはり部屋に隠してるのか…?」


 とはいえ流石に部屋に入るわけにはいかない。他の人に見つかったら言い訳できないし、中に何があるかも未知数だ。



⭐︎



「うーん今日は無理だったね」


 警備の仕事が終わり、私達三人はマーチに用意してもらった部屋に寝泊まりさせてもうことになった。ただし翌日の朝から錬金で色々作ってもらうという条件付きで。


「でも今のところ怪しいところもないですし、マーチさんも普通の人でしたね」


 丁寧で商人としてしっかりしている人だった。それに私達が有用な人材と分かると良い部屋に泊まらせるなど囲い込みに入る。


「だが商人である以上体面を取り繕うなんて容易だろう。警戒は怠らない方が良い。それにリロの話から考えてもアグノスはマーチで間違いないだろう。背丈や横幅、服装なども一致している」


 やっぱりあの人がアグノスなのかな…だとしたら、理性を失わなかったタイプの可能性が高くて長期に渡って潜んでいた可能性もある。だとすると…


 この前の蝙蝠型のアグノスよりも強いのではないかと勘繰ってしまい、前の敗北の苦味が口いっぱいに広がる。


「まぁ、戦闘自体はボクがやるのが適任だろうね。二人は他の人が巻き込まれないようにしたりだとか援護を頼むよ」

「はい…すみません」

「二人ともまだまだ駆け出しなんだから、先輩であるボクの背中を見て育ってくれればいいよ」

「ありがとうございます…」


 お姉ちゃんが離れた今この優しさはだいぶ心に染みる。


「それでだが、二人のうちどちらかは隠密系の魔法を使えたりはするかい?」

「学校で魔物との遭遇を避けるためにとかで習いましたけど…」


 私はスッとティミスちゃんの方に視線を向ける。彼女は顔を俯かせ話に入らないようにしている。


「ティミスちゃんは確か苦手だったような…」

「うぅ。だってあの魔法あたしの魔力と性質が合ってなくてぇ」

「あははしょうがないさ。魔法は才能に左右される面が大きいんだから。それに一人はここに居てもらうつもりだったしね」


 ガペーラさんは拗ねるティミスちゃんの頭を優しく撫でて機嫌を取る。


「それで何をするんですか?」

「本格的な潜入さ。もう時期この屋敷の灯りが消される頃合いだ。マーチが何かしてるならその時間に動く可能性が高い」

「なるほど。そこで隠密系の魔法で気配を消しつつって訳ですね」 

「そうさ。だがもちろんこの部屋に誰か来た時の、緊急時に言い訳をする人も残しておきたい。ティミス頼めるかな?」

「うん! せめて行けない分ここに残ってできることをしないとね」


 作戦は決まりだ。私とガペーラさんは自分に隠密魔法をかけ、足音を殺しつつタイミングを見計らって部屋の外に出るのだった。

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