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14 ひと段落


「それよりボクからも…二人はアグノスのことを知ってるみたいだったけど…」

「あぁそれは私のお姉ちゃんがきっかけで…」

「君のお姉さんが?」


 私はお姉ちゃんがアグノスの研究に手を貸していること、直近で何回かアグノスと交戦したことを話す。


「へぇ…」


 一瞬ガペーラさんの視線が凍りつく。こちらを突き刺し心の音を止めようするかの如き鋭さに体を震わせる。


 だがきっと勘違いだろう。瞬きする間にそんなものは消えており、目の前に居るのは優しい美青年だ。


「まさか君がサファイアさんの妹だったとは」

「お姉ちゃんを知ってるんですか!?」

「会ったことはないけどね。共通の知人…博士が居るから彼から話を聞いていただけさ」


 博士。私もお姉ちゃんとの旅の途中で何度か会ったことがあるあのテンションのおかしい人のことだろう。意外な繋がりだ。


「ということはガペーラはアグノスについて知ってたの?」

「そうだね。巻き込まないためにティミスには黙ってたけど、実は数年前にスカウトされてね。研究の手伝いや暴走してるアグノスを倒したりもしてる」


 先程のガペーラさんの強さはお姉ちゃんにも勝るとも劣らない程だった。かなりの経験を積んでいることは間違いない。


「ならガペーラも一緒に来ない? 実はあたし達もアグノスの研究を手伝ってて…」

「君達が…? なるほど。大体事情は察したよ」


 こちらが細かいことを話す必要はなく、彼女は全てを見通すような瞳でこちらを見つめてくる。


「喜んで同行させてもらうよ。ちょうど一人旅には飽きてきたところなんだ」


 話はトントン拍子に進みガペーラさんが仲間に加わってくれることになる。彼女がいれば百人力だ。


「あ、そういえば男の人達が話してたんですけど、近くで殺人事件があったんですか?」


 確か私達を袋に詰めようとしてきた人が昨日の夜に殺人事件があったという話をしていたことを思い出す。


「あーなんか大商人の奥さんが殺されたと騎士団の人が話していたね。君達も今回みたいな件もあるし気をつけなよ」

「確かに…最近物騒ですよね」


 今回あのアグノスが居なかったとしても私は事件に巻き込まれていた。私は三年間学校に守られていたせいで危機管理能力が落ちているのかもしれない。


「それでこれからどうしますか? 普段はガペーラさんは何を?」

「アグノスの情報がない時とかは冒険者として活動してるね。依頼をこなしてお金を受けとって、防具とか道具を整えてるかな」


 エディアさんとやってることは一緒だろう。アグノスもそうポンポン現れたり見つかるものじゃない。多くの時間は普通に暮らしているはずだ。


「そういえば二人は冒険者登録はしているのかい?」

「あ、してなかったねそういえば。冒険者ギルドでできるんだっけ?」

「試験とかはあるけどまぁ君達なら余裕で突破できると思うよ」

「なら今日は休んで明日にでも行きますか。あ、でもガペーラさんはその間…」

「まぁボクは遠巻きに応援させてもらうよ。久しぶりにティミスの成長も見たいし」


 幼馴染だからかガペーラさんはティミスちゃんと距離が近く、事情を知らない人からみたらまるで恋人同士のようだ。


「あたしも学校でしっかり魔法も学んできたから明日は楽しみにしててね」

「ふふっ…さぁそろそろ宿に行こうか。まだ昼前だが二人とも昨日はろくに寝れてないだろう?」


 ガペーラさんはこちらの体調を優しく気遣ってくれる。私達はその言葉に甘え今日の宿まで赴く。


「じゃあボクはこれで」

「あれ? ガペーラどこか行くの?」

「やり残した依頼があってね。そんな時間はかからないから夜までには戻るよ。君達は構わず休んでて」

「そう…気をつけてね」


 ガペーラさんは心配するティミスちゃんに小さく手を振り微笑みながら宿から出ていく。私達はそんな彼女の背中を見送ってから二人部屋へと向かいベッドに腰を下ろす。


「なんだかこの街に着いてからどっと疲れたね」

「そうだね。ガペーラに無事合流できたのはいいけど、馬車に揺らされて戦って、ゆっくりできると思ったら長時間街を歩いて戦って…昨日は一睡もしてないし疲れちゃった」


 ティミスちゃんは体をグーッと伸ばし大きく欠伸をかく。私も同じく体を伸ばし軽くストレッチする。


「そういえばガペーラさんって本当に女性…でいいんだよね?」

「あははまだ疑ってるの? 小さい頃一緒にお風呂に入ったこともあるし、実はそう見せかけた男性ってこともないよ」

「疑ってるわけじゃないんだけど…」

「ちゃんとついてなくてツルツルだったよ」

「つい…って、ちょっとティミスちゃん!」


 ティミスちゃんは人見知りのくせに仲良くなった相手には結構遠慮なく物言うし、天然故か偶に爆弾発言もする。ガペーラさんが過保護気味な態度を取るのも納得だ。


「ねぇフェートちゃん。今度からは怪しい人について行ったらダメだよ?」

「うっ…はい」


 しかし今回の件は完璧に自分のミスだ。不用意に人について行ってしまったせいでティミスちゃんまで危険に晒してしまった。


「はぁ…私もまだまだだな…」


 お姉ちゃんが居なくなって、私がティミスちゃんを守らないとと意気込んだ途端にこれだ。面目ないったりゃありゃしない。


「でも今回のはあたしも悪かった」

「え? いやティミスちゃんは別に…」

「ちゃんとガペーラの性別とか教えられてなかったし、無鉄砲なところもあったと思う。だからさ…」


 ティミスちゃんは立ち上がって私の手を取る。彼女の両手に包まれて私の手はぬくぬくと温度を上げていく。


「二人で成長していこ? お互い補い合って、一緒に歩いてこ?」

「…うん!」


 本当に彼女は天然で、それでもって優しく相手を想いやれる子だ。


 はは…私も見習わないと。


 私は小さく笑みを浮かべ、彼女の手を握り返すのであった。

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