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09 再現


「上…? そんなことどうでもいい! よくも俺の親友を!!」


 奴ら二体相手でも俺は迷わず踏み込む。友を殺された怒りを全身に込めて。だがその勢いがピタリと止まる。


「お前らこんな人間に何を手間取っている?」


 がくんっ! と頭が下を向き、貫かれた己の腹を目撃する。灰色の腕が赤色に染められていき内臓がだらんと垂れる。


「おまっ…えは…」


 奴は二本の細い触手を頭部に携えており、腹を貫かれるまで一切気配を感じなかった。


 透明…じゃない。あの地面…


 少し離れたところに二箇所地面が抉れていた。跳躍だ。こいつの特に太い足を見てそれを確信する。


「こんな…ところで…!!」


 俺は最後の力を振り絞り背後に陣取る奴の頭部を槍の持ち手で突く。


「ガッ!! こいつ…」

「待てっ!! 殺す前にこれを飲ませろ。死んでからでは効力がない」

「ちっ、抑えとくから早くしろ」


 俺は足の太い奴、そして透明になれる奴に組み付かれ槍を落とされる。


「やめっ…ろ…!!」


 抵抗虚しく俺は触手の奴に謎の液体を飲まされる。


「あっ…何だこの感覚は…」


 喉が焼ける感覚に襲われ、同時に全身から力が溢れ出てくる。


 これは…魔力? 魔力が増えている…マナがどんどん体に入ってくる…!!


 その溢れ出しそうになる力を抑え込めず意識が遠のいていく。


「ふんっ。こいつも外れか。雑魚が」


 足の太い奴が俺を投げ捨てる。地面に伏し血の温かさに包まれる。いや違う。これは自分の体から溢れる魔力だ。


「く…そ…」


 こんなにも力が溢れるのに奴らに立ち向かうことすらできない。悔しさに唇を噛み締めることすらできず瞼が重たくなる。


「みん…な…逃げ…」


 村の方向へ向かおうとする奴らを止めようとするが余命僅かの自分にそんなことできるはずがない。


 様々な後悔と怒り。それらが織り混ざり合い生きたいという感情に支配される。


 意識がなくなる最後に止まっていたはずの心臓が強く脈打つ。

 


⭐︎



「お嬢ちゃん達大変だ!!」


 私達三人が仲良く並んで寝ているとマルダさんが顔を青ざめさせ部屋に入り込んでくる。


「まさか魔物!?」


 お姉ちゃんがすぐに飛び起きて対アグノス用の武器を取る。


「灰色の化物が…」

「まさかアグノス…!? 二人とも起きて!! マルダさんはここのタンスに隠れていてください!!」 

「あ、あぁ…」


 私とティミスちゃんは意識を無理矢理覚醒させ宿の外へ飛び出る。


「きゃぁぁぁ!!!」


 外に出るのとほぼ同時に甲高い悲鳴が上がる。二体のアグノスが人々を襲っている。形状を見るに恐らくクラゲとバッタだろう。


 室内に居る人も襲われているのか近くの民家の窓にはべっとりと血がついている。


「くっ…一体はアタシが倒す。二人はもう片方を抑えて!!」


 お姉ちゃんは臆せず真っ先に二体に切り込んでいく。


「こいつ速い!?」


 二体の胴体に交互に蹴りを入れ別方向に突き放しクラゲの方に再接近する。


「ティミスちゃんあっちは私達でやるよ!」

「うん!」


 二体で動いていることから最近アグノスになった可能性は低い。こいつらは前戦ったアグノスよりも強いに違いない。例の武器があるとはいえ私は油断せず獲物を強く握り締める。


「ふん。こっちは雑魚二人か。まぁいい。お前らで準備運動してからあっちのメインディッシュだ!!」


 次の瞬間奴の姿が消える。いや消えたのではない。突然眼前に出現したのだ。


「ぐぅっ!!」


 咄嗟に武器で蹴りを受け止めたものの私は大きく後退させられてしまう。


「ちっ、硬い…」


 危なかった。武器に使われている鉱石の硬度が世界でも有数だということを知っていなければ防げなかった。


「フェートちゃん!! 今あいつ跳んで…」

「うん油断してた。足を見ればどう攻撃してくるかは分かったはずなのに」


 私は武器から魔力を吹き出させ朱色の剣を出現させる。


「嫌な気配だ…警戒した方が良さそうだな」   


 先程の蹴りといい追加で勘も良い。やはり強敵だ。だが動き方が分かっていれば対処は可能だ。


「ティミスちゃんは私の背面に隠れるようにして援護をお願い!」

「うん!」


 奴の跳躍はあくまでも一直線。これでティミスちゃんには届かないし私なら対処できる。


「ふんっ、ガキが…!!」


 奴がトントンと跳ねステップを刻みつつ読まれにくいタイミングで一気に距離を縮めてくる。だがその攻撃は私には命中しない。


「あっつ!!」


 直線的な蹴りは私の武器から噴出される魔力を、ただでさえ熱い上火属性の魔力が篭った刀身を捉える。それはアグノスの皮膚すら焼き奴を動揺させる。


 その隙にティミスちゃんの武器から飛ばされた刃が変形し奴を拘束する。


「捕まえたっ!!」

「ナイスティミスちゃん!!」


 私は一段と魔力の放出量を増させ迸る等身で奴の胴体を一刀両断する。


「みご…と…」


 奴は満足そうに笑みを浮かべ体を魔力の粒子に変えて消滅していく。


「はっ! あの瓶!」


 私は咄嗟にお姉ちゃんから貰った瓶を取り出し奴の粒子を瓶内に保存する。


「はぁっ!!」


 お姉ちゃんの方も戦いは終わったようで、息一つ切らさず奴を消滅させる。


「なんとかなったけど…」


 私は辺りを見渡し倒れる人達を、今回の犠牲者達に目をやる。


「うっ…!!」


 十年前のあの日の景色が、火に包まれて逃げ惑い倒れていく人達。その光景が今と重なり私は口元を押さえうずくまる。


「フェートちゃん!?」


 そんな私の背中をティミスちゃんが摩ってくれる。私は呼吸を整え立ちあがろうとするが、その時研ぎ澄まされた聴覚が後ろから近づく何かを捉える。


「っ!?」


 咄嗟に振り向くが何も居ないので私は首を傾げる。


「二人とも逃げて!!」


 しかしお姉ちゃんだけは何かを察して私達に向かって叫ぶ。だが何も見えていないものに対して逃げることも警戒することもできない。


「はぁっ!!」


 その時建物の方から飛び出してきた影が私達の目の前で槍を突く。


「ぐあっ…貴様…なぜ…?」


 そして私達の真横に血が飛び散る。透明になっていたカメレオン型のアグノスが姿を現しバタリと倒れ消滅する。


「エディアさん!!」


 飛び出して私達を助けてくれたのはエディアさんだった。しかしお腹の辺りに血がべっとりついている。


「その傷…」

「あ、いやこれ服が破れてるだけ。血はあるけど傷はないんだ」


 彼は自分でもその血痕のことが分かってはおらず、この場では誰よりも状況が飲み込めていない。とにかく私達は体勢を立て直し怪我人の治療に急ぐ。


 だが残念なことに村人のほとんどが亡くなっまっていた。


「くそ…どうして!!」


 エディアさんは悔しさのあまり井戸に拳を強く叩きつける。


「ねぇエディア。アナタ本当にその血痕に見覚えはないの?」


 お姉ちゃんは不自然な状況から疑いを彼に向ける。


「本当に知らないんだ。気づいたら森で倒れていて、親友の死体がすぐ近くにあったから居ても立ってもいられなくなって…」


 彼が嘘をついている様子は微塵もなく、お姉ちゃんもすぐに疑惑の視線を取り下げる。


 エディアさんの悲しみは計り知れない。恋人に逃げられ、親友が死に、故郷が破壊された。私なんかが語るのも烏滸がましいほど悲しみを噛み締めているはずだ。


「何でこんなことに…」


 死体にまみれた静寂の村で彼の声が悲しげに響き渡るのだった。

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