プロローグ 夢を抱いた日
焼けつく家財や煙の臭い。倒れ焦げ朽ち果てた村のみんな。
「ブジュルルルルル…」
そして眼前で唸り声を上げる異形の怪物。
灰色の皮膚に気味の悪い紫色と青色で毒々しさを表現しており、熊のような鋭い牙を剥き出しにし全身からは魔力の粒子を溢れさせている。
「いや…来ないで…!!」
奴が迫ってくる。逃げようにも恐怖に屈してしまい足が凍りついてしまっている。
「危ないっ!!」
化物が首に噛み付く直前、背後から剣が飛び出して奴の顔を捉える。その一撃で化物は怯み助けに入った女性に恐れをなし逃げていく。
「大丈夫? 酷い火傷ね。傷薬…いや火傷用の方がいいわね。でも持ってないし。なら…」
女性は小さな釜を取り出しそこに薬草等素材を放り込み混ぜ始める。自身の魔力も織り交ぜ、釜の中身が光を帯びていく。
「はい。即席で悪いけどこれで火傷痕は多少はマシになるはずよ」
女性は先程の化物が出した火に焼かれた自分の体に丁寧に薬を塗ってくれる。痛みは引いていき、パニックに近かった自分の精神状態はだいぶマシになる。
「アタシはあの怪物を追いかける。君は安全な場所に逃げててくれ」
「あのっ…貴方は!?」
「…名乗る程でもない、ただの旅する錬金術師よ」
女性は携えた長くも美しい青碧の髪を揺らし、こちらを照らすほどの明るく希望に満ちた顔で言うのであった。
あれが…錬金術師…
自分は走り去っていく背中に、錬金術師という絶望から希望を創り出すその姿に憧れを抱くのであった。
そして十年後…