禁秘の姫様(9)
「姫様、私は貴女様のナイトです。親愛と忠誠を貴女様に」
太郎はそう言い終わると、握っていた千代の手をそっと放した。千代はこれまでに見たことのない太郎の仕草に戸惑いつつ、おずおずと口を開く。
「太郎? これは一体……?」
訳がわからないといった顔で太郎を見る千代。いつもよりも幾分頬が赤いのは、太郎の行動に本能的に照れているからだろうか。太郎はそんな千代に向かってにこりと微笑む。その笑顔はいつもの少し頬を緩める程度の控えめな笑みとは違う。とても晴れやかで爽やかな笑みに千代は目を瞬かせ、呆然と太郎の顔を見ている。
「今のは、私たちの星で親愛を示す仕草です。大変混乱されているはずですのに、それでも私を信頼してくださると仰って頂けたことがとても嬉しく、私のこの思いを姫様にお伝えしたかったので、つい」
太郎の答えを聞いた千代は、まだどこか夢現つといった様子で太郎を見つめている。太郎は再び千代の手を取り、今度はその手の甲にそっと口づけをした。突然のことに驚いた千代はびくりと体を震わし、慌てて太郎の手を振り払う。
「もうっ! 何なの? さっきから!」
頬どころか耳まで赤く染めて抗議をする千代を宥めるように、太郎は穏やかな笑みを浮かべた。これまでの朴訥とした態度からは想像も出来ないほど艶のある太郎の表情に、千代はどきりとして口を噤む。
「姫様が覚醒されていないとはいえ、私とて男ですから」
少し照れたように笑う太郎に、千代は自分の胸がドキドキと高鳴り続けるのを感じた。まるで知らない人を見るかのように、千代は太郎の顔を食い入るように見つめる。そんな視線に太郎は居心地悪そうに鼻の頭を掻く。
「私とて男なのですよ。姫様。……姫様が私にそのような想いを持っておられないことは存じております。しかし、私は自身の立場を理解してからというもの、ずっと姫様をお慕いしていたのです」
「太郎の立場……」
千代は呆然と呟く。思いもしなかった真実を聞かされて既に頭の芯が麻痺している千代には、太郎の秘めた想いを理解するのにも時間がかかる。そんな千代にどこまでのことが伝わるだろうかと危惧しながらも太郎は言葉を続けた。
「私は姫様がお生まれになった際に、姫様のナイトとなることを定められました。そして同時に姫様のフィアンセと定められたのです」
「ふぃ……?」
千代はますます困惑したように首を傾げた。そんな千代に、太郎はあくまで冷静な態度のまま語りかける。




