禁秘の姫様(8)
太郎は苦笑交じりに千代を見つめた。
「まぁ、まだ覚醒しておられないようですし、このような突飛な話はなかなか信じられないことで御座いましょう」
太郎の言葉に、千代は何かを考えるように押し黙る。あまりにもデタラメな話すぎて千代にはとても真実だとは思えなかった。しかし、太郎が千代に対して適当な話をしたことなどこれまでに一度たりとも無い。それは変えようもない事実で、だからこそ千代は太郎の事を心の底から信頼していたのだ。
千代は必死に頭を働かせる。太郎は嘘を言ってはいない。つまり、自分たちは異星人ということになる。倭人ではなかった。それどころか、幾度も揶揄われてきた南蛮人ですらないらしい。千代は、自分のこれまでの常識が根こそぎ覆されるのを感じて、思わず身震いした。
しかし……と、そこで千代は思った。太郎は何故そのようなことを知っているのだろうか。以前から何かを知っているようだとは思っていたが、まさかこのような信じがたいことを長年一人で抱えていたとは。
「とてもじゃないけど信じられないわ」
千代は真っ直ぐに太郎を見つめた。
「ええ。そうでございましょう」
太郎はそんな千代に同意するように小さく頷く。その顔には、全て分かっていると書いてある。慌てず騒がず、千代が自らその真実を受け入れるのを待つと態度で示す太郎には、これから千代が言うこともきっと察しがついているのだろう。
「信じられない話だけれど……。それでも、わたくしは貴方のことは信頼しているのよ。太郎は嘘や出まかせなんて言わないわ」
太郎を見つめる千代の視線はどこまでも真っ直ぐだ。そんな信頼に応えるように太郎は笑みを浮かべる。簡単に受け入れられる話でないことは自身も経験したことなので分かっていた。それでも千代が自身を信頼し話に耳を貸そうとしてくれることが、太郎は何よりも嬉しかった。胸に溢れる高揚をどう伝えたらよいか、太郎は言葉を探すようにしばし黙り込んだ。
しかし、結局うまい言葉が見つからず、代わりに胸の奥底から湧き出してくる衝動のままに太郎は跪きそっと手を伸ばす。そして、千代の手を取りその甲を自身の額に押し当てた。
突然のことに驚いたのだろう。千代の体がびくりと震えた。しかし、太郎の手を振り払おうとはしなかった。太郎はゆっくり顔を上げると、真っ直ぐに千代を見る。困惑の色を隠せないでいるその視線を真っ直ぐに受け止め、千代に語りかけるように口を開いた。




