禁秘の姫様(7)
「先程の言葉は、我らの星の言葉です」
「我らの星?」
千代は太郎の言っていることが分からず、思わずぽかんと口を開けてしまう。そんな千代に太郎はさらに言葉を重ねた。太郎によると、二人の生まれた場所というのは、お江戸から遠く離れたところにあるらしい。千代はその星の姫であり、第一継承者。そして太郎は星の継承者を守るための騎士なのだと言う。二人の故郷では星の統治の座をめぐり長く紛争が続いていた。そんな折に生まれた子どもたちの命を案じた星の大人たちが、二人を守るために星間移動カプセルに乗せ、二人を星の外へ流したのだと太郎は語った。
「ちょっと待って。まったく話が分からないわ。そもそも、か……ぷせるとは何なの?」
千代の問いに、太郎は当たり前のように答える。
「星間移動カプセルとは、我らが赤子の頃に入れられていたあの籠のことでございますよ。あれは、星々を移動するための乗り物なのです」
「星々を移動? そもそも星とは何処のお国のことを言っているの? まさか、夜に空で瞬いているあの星のことではないでしょう?」
千代は空を見上げた。まだ陽が高いので星の輝きは見えるはずもない。空にはお天道様に照らされた白い雲がゆったりと流れている。呆れたように空を見上げている千代に向かって太郎は言った。
「まさに、その星のことにございますよ。夜空に浮かぶ数多の煌めきの中の一つが我らの故郷で御座います」
太郎の言葉に千代は思わず絶句した。ますます困惑した表情を浮かべる千代とは対照的に、太郎はうっすらと微笑みを浮かべている。
「我らの星はここから随分と遠く、またとても小さいと聞いております。きっと星々の煌めきの一つと言っても、我らの目には見えぬのでしょうね」
「待って! 待って頂戴!」
千代は頭を押さえて必死に太郎の言葉を整理しようと試みる。しかし、いくら考えても、太郎の話は理解出来そうにない。千代は混乱した頭の中を整理するように頭を左右に振ると、深呼吸を繰り返してなんとか冷静になろうと努める。そんな千代の様子を太郎は穏やかな表情で見守っていた。千代がやっとの思いで口を開いたのは、それからしばらくしてのこと。
「太郎は、あの空に浮かぶ星のどれか一つがわたくしたちの故郷であると、そう思っているの?」
千代の言葉に太郎はゆっくりと頷いてみせる。
「ええ。正確には、思っているのではなく、姫様がお知りになりたがっていた真実を申し上げているのですが」




