禁秘の姫様(4)
千代は喜びの表情を隠そうともせず、目を輝かせながら太郎へ問う。太郎はそんな千代の様子に苦笑いを浮かべた。
「それは……私が姫様の望みを叶える立場にあるからです。姫様の幸せに繋がるのならば、私はいつだって尽力致します」
千代は太郎の言葉にさらに嬉しそうに顔を綻ばせる。それから不思議そうに小首を傾げ、少々不満げに唇を尖らせた。
「だったら、どうしてわたくしが大奥へ入ると言ったときは反対したのよ?」
千代に問われ、太郎はさも当然とばかりに言う。
「それは、私の想いが基子様と同じだったからです。大奥に入っても姫様は幸せにはなれません。ですから、賛同致しませんでした。私が協力しないとなれば、姫様は諦めると思ったのです」
太郎はきっぱりと言い切る。千代はそんな太郎の答えに呆けた表情を浮かべた。
「姫様が大奥へ入ることを心よりお望みであったならば、それが姫様の幸せだったならば、私は反対致しませんでした。しかし、そうではないですよね?」
太郎の問いに千代は一瞬言葉を詰まらせる。だが、すぐにいつもの飄々とした表情に戻ると、ふいと太郎から顔を背けた。
「そんなことないわ。基子様と毎日おしゃべり出来るのであれば、それも楽しそうだと心から思ったもの」
千代はそう言って頬を膨らませる。
「それはご友人である基子様と楽しく語らいが出来れば、大奥でなくても良かったということではありませんか?」
尚も問い掛けてくる太郎に千代はちらりと視線を投げた。そして、小さく息を吐く。
「確かにそうね。だけど、わたくしは何とかして基子様の力になりたかったのよ。一緒に居ようと思ったの」
千代は切なげな瞳で河原を見つめる。そんな千代に、太郎は小さく首を横に振った。
「しかし、基子様はそのようなことはお望みではなかった」
太郎は淡々と告げる。その言葉に千代はキッと睨みつけるように太郎を見つめた。しかし、その視線はすぐに足元へと落とされる。そのまま膝を抱えるようにうずくまった。
「わかっているわ……。わたくしが身勝手に思ったことだもの。結局、基子様と太郎が正しくて、わたくしが間違っていたのよ」
太郎は小さくため息を吐いた。そして、ゆっくりと千代の隣に腰を下ろす。
「姫様が他者を思いやり下した決断を、私は間違っていたとは言いません。ですが、ご自身を犠牲にしてまで他者を思いやることは、かえって相手の負担になることもあるということを、姫様にはご理解頂きたいです」