禁秘の姫様(3)
太郎は千代の言葉を吟味するように目を閉じる。そして小さくため息を吐いた。
千代は太郎のそんな反応に、自分の無力さを痛感させられたようだった。項垂れた千代からは悲壮感が漂う。初めて出来た友は自分のために重大な秘密を打ち明けてくれたというのに、そんな自分は友のために何も出来ない。それが悔しくてならないようだった。
太郎はそんな千代を切なそうに見つめる。太郎の胸中も複雑だった。基子の秘密はあまりにも大きすぎる。その秘密に加担する事はきっと大変な危険が伴うはずだ。太郎が何より優先すべきは千代の幸せ。基子ではない。その思いから頑なな態度をとり続けているが、それが千代の心を傷付けていることも太郎はよく分かっていた。
太郎が自問自答を繰り返している横で、千代は肩を落としてじっと足元を見つめている。二人の間に重苦しい沈黙が横たわった。河原の水の音がやけに大きく響いている。
しばらくして河原の水音に紛れて、ぽたりと雫が垂れる音が聞こえた気がした。太郎は弾かれたように千代の顔を覗き込む。千代の大きな蒼い瞳からは静かに涙が零れ落ちていた。いつも天真爛漫で気丈な振る舞いを見せる千代の珍しい涙に太郎は思わず息を飲む。
そして、とっさにその涙を手のひらで拭った。千代の濡れた瞳と視線が重なる。太郎はゆっくりと息を吐くと、やがて意を決した様子で口を開いた。
「姫様は基子様のお気持ちを分かっておいででしょう?」
千代は俯いたまま小さく頷く。
「わたくしの考えを改めさせるために基子様はお話くださっただけで、わたくしたちを巻き込みたいとは思っていらっしゃらないわ。わたくしが関わることを望まれてはいない」
そう言って千代は悔しそうに唇を強く噛み締めた。そんな千代を宥めるように、太郎の手のひらが優しく千代の頭を撫でる。千代は俯いたまま太郎の手の温もりを静かに受け入れていた。
「それを分かっていてなお、姫様は首を突っ込もうというのですか?」
太郎の静かな問いに、千代は小さく頷く。千代の中にはどうしても譲れないものがあるのだろう。その濡れた瞳は真っ直ぐに太郎に向けられていた。太郎はそんな千代を困ったように見つめながらゆっくりと口を開いた。
「では、致し方ありません。私もお力添えすることに致しましょう」
その言葉に千代はパッと顔を輝かせる。
「やっぱり! 太郎ならそう言ってくれると思っていたわ。でもどうして? さっきまであんなに頑なだったのに」