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禁秘の姫様(2)

 それは、基子が基家として将軍職に就く前に御所から姿を消すという大それた計画だった。基子は、自らの死を偽るつもりらしい。なぜそのような大それたことをしようとしているのかと驚いた千代が問えば、基子は寂し気に笑い、そして切実な願いを口にした。本来の自分として生きていきたい。基家ではなく、基子として生きていきたいのだと。


 確かに基子には本来歩むべき人生があったはずだと千代は思う。だが、それを実行すればどうなるか。基子の口ぶりから実際に死を選ぶわけではないようだが、それでも家を出た基子の未来には確実に困難が待ち受けることになる。


 千代は基子の計画に顔を真っ青にした。自身の輿入れの話などどうでも良くなる程の衝撃だった。しかし、話をする基子はどこまでも冷静だった。


 基子は千代と太郎に計画の全貌を語った。それはとても一人で実行できるようなものではなかった。しかし同時に、決して誰にも知られてはいけないものでもあった。本来ならば千代と太郎とて知るべき事項ではない。千代の決意が無意味なものであることを示すべく基子は仕方なく事情を明かしたのだ。計画の全てを話し終えたのち、基子は「関わるべきではない、すべて忘れよ」と眉間に皺を寄せて二人に釘を刺した。


 だが、だからといってこのまま見過ごしてしまうことなど千代には出来るはずもなかった。千代は太郎に助けを乞うように視線を向ける。太郎はそんな千代の視線を受けても微動だにしない。ただじっと河原を見つめている。その横顔からは何の感情も読み取れない。


 千代は太郎の袖をぎゅっと握り締めた。そんな千代に太郎は観念したようにため息を吐くと、河原へ視線を向けたまま静かに口を開いた。


「姫様がお気になさることではありません」

「でも……」


 尚も食い下がる千代に太郎はようやく視線を向けた。その瞳には何か複雑な感情が一瞬入り混じったようだ。しかし太郎はそれを瞬時に隠して千代の瞳を覗き込む。そして、ゆっくりと口を開いた。


「姫様に一体何ができるというのです?」


 太郎の言葉に千代は口惜しそうに下唇を噛む。


「確かにわたくしなどには出来ることは少ないかもしれませんけれど。それでも、基子様のお力になりたいのよ。何か……何でも良いの……」


 千代は必死に胸の内を訴えるが、太郎の口元は相変わらず固く結ばれたままである。いつもであれば千代の想いに太郎も頷いてくれるはずだった。しかし、今の太郎はそうではない。

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