禁秘の姫様(1)
秘密を打ち明けられたのは昨日のこと。
千代はほとほと困り果てていた。基子の正体だけでもおのれの胸の内に秘めておくには大きすぎる秘密だというのに、その基子から更にとんでもない秘密を打ち明けられたのだ。基子自身が最重要機密と言っていた通り、話の内容はとんでもないことだった。
流石に両親たちに話すわけにもいかず、千代は昨日から頭を悩ませている。太郎と話をしたかった。しかし、屋敷では誰かに話を聞かれてしまうかも知れない。警戒した千代はそそくさと朝餉を済ませると、朝の挨拶にやって来た太郎を伴って家を出た。そして、二人は河原へやって来ていた。
千代はため息を吐く。いくら悩んだところで名案などそう易々と出てくるはずもない。太郎は千代が何を言い出すのか分かっているのだろう。神妙な顔で千代の言葉を待っている。河原にはいつも通り人気はない。それでも千代は周囲に警戒を払いながら、太郎の耳元に顔を寄せた。
「ねぇ、太郎。基子様の昨日のお話どう思う? わたくしに一体どんな手助けができるかしら?」
千代は不安そうな声で太郎に問う。しかし太郎はそんな千代に対して無慈悲なほど淡々と告げた。
「姫様に出来ることはないと思います」
太郎はじっと河原へ目を向けている。その横顔は固く、一切の感情が見えない。千代はそんな太郎の横顔をじっと見つめる。幼い頃からの付き合いだ。その表情から太郎の考えを読み取ることは難しいことではない。しかし、そんな千代ですら今の太郎の考えは読み取ることができなかった。千代は唇を噛み締める。そして、太郎の袖をそっと引いた。
「ねぇ。一体どうしたというの? 貴方、昨日から様子が変じゃない?」
しかし、太郎は微動だにせず、ただじっと河原を見つめている。千代はそんな太郎の袖を遠慮気味にもう一度引っ張った。ようやく太郎は千代へと視線を投げる。その顔はいつもと変わらないように見えたが、しかしその瞳には迷いのようなものが感じられた。それを感じ取ってか、千代は更に言葉を重ねる。
「わたくしが大奥へ入ることを勝手に決めてしまったから怒っているの?」
千代の言葉に太郎はキュッと眉根を寄せる。
「やっぱりそうなのね。でも、あのお話は結局基子様が承知してくださらなかったじゃない。ご自身が御所を出られた後にわたくしを大奥へ残すのは忍びないと仰って」
基子が千代の決意を砕くために明かした最後の一手。それを口にした千代はそのまま口を噤む。




