朋友の姫様(13)
基子の言葉に千代はその目を大きく見開き、口に手を当てた。
「まぁ、そうなのですか?」
驚いた様子の千代に基子は呆れながらも頷く。離れたくないと言っていた親と会えなくなると言われれば、流石の千代も突飛な考えを改めざるを得ないだろうと基子は思った。
しばらくの間千代は口を噤み何やら考え込んでいたが、やがて顔を上げて基子を見た。別段悲しむ様子でもなく、寧ろ何か吹っ切れたような晴れやかな表情を見せている。その様子に基子の頭の中には疑問符が浮かんだ。
千代はそんな基子に向かってニコリと微笑む。その笑みの真意が分からず、基子は思わず首を傾げた。千代はコホンと一つ咳払いをする。そしてゆっくりと口を開いた。
「構いません!」
千代の返答に基子は目を見開く。千代はそんな基子の手を取ると、その目をじっと見つめた。その瞳には強い意志が宿っている。
「両親は本来ならばわたくしがどこかの御家と縁付くことを願っているのです。わたくしはどこかへ嫁ぐなど嫌だったので、ずっとこの家に居たいと申しましたけれど、基子様の元へ行くのであれば話は別です。むしろ好都合です。ああ、こんな言い方は失礼ですね。ですが大奥へ入れば、もう煩わしい縁談話に振り回されることもなくなるでしょう? ですから、わたくしにとっては良いご縁なのです」
基子は千代の言葉を黙って聞く。千代はニコリと微笑むと更に続けた。
「それに、両親とは気軽に会えないというだけで、全く会えなくなるわけではないのでしょう?」
基子は千代の問いかけに思わずコクリと頷いてしまう。それを見た千代はホッと安堵の息を吐いた。そして再び口を開く。その表情からは憂いは感じられない。
「太郎のことだってそうです。基子様は金輪際会えなくなると仰いましたけれど、きっと何か手段はあるはずです。別の御国へ参るわけではないのですもの。同じお江戸の町に居るのですから、大丈夫ですよ。きっと。その辺りのことは太郎が何か考えてくれます」
千代の言葉に基子は目を見開きっぱなしだった。よもや、千代がそのようなことを言い出すとは思いもしなかったのだ。難しい話だから反対しているのだと伝えれば、千代はきちんと理解するだろうと思っていた。しかし、千代の意志は固いようだ。自身の考えこそが正しい。そう信じて疑わないように見える。
基子は思わず苦笑した。千代はそんな基子の笑みを困惑の表れと受け取ったのか、少し慌てた様子で口を開いた。




